76年12月9日蔵前国技館で行われたアントニオ猪木vsウィリエム・ルスカの「格闘技世界一決定戦」。ルスカは入場の際、上半身だけ柔道着を着用、下はオランダの赤鬼をイメージした赤のレスリングタイツにリングシューズで登場。
舟橋慶一アナ「桜井さん、今日はルスカは下はタイツを着けていますが柔道だけではなく、レスリングでも勝負しようというのでしょうか?」
桜井康雄氏「ルスカのスタイルがですねぇ、今日は柔道着を上だけ着ているということはですねぇ、柔道技、サンボ技、プロレス技と使って来るんではないですかねぇ」
舟橋アナ「ウィリエム・ルスカの師匠はカール・ゴッチであります。試合前にルスカは『今日は猪木に勝つ為には反則でも何でも汚い手を使ってでも勝つ』と言っていましたが、ゴッチは『それは間違ってる』とルスカをたしなめています」
リングに上がったゴッチは前年の暮れの猪木vsビル・ロビンソン戦の時と同様に、自ら保持していた実力世界一の世界ヘビー級チャンピオンベルトを持ち込み、勝者に贈呈するとマイクでコメントしました。
私は「おいおい、それはないだろう、ロビンソンならともかく、この試合の勝者にゴッチが後生大事にしていたベルトを簡単にあげてしまうなんて。猪木が貰えるに決まってる」と客席から見ていてそう思いました。
ゴング前に両者リング中央でレフェリーのミスター高橋のチェックと試合前の注意を受けています。
ここでルスカが握手を求めて右手を差し出しました。応じる猪木、するとルスカは猪木の腕を離さず、投げを打ってから左腕を腕ひしぎ逆十字に捕らえました。
舟橋アナ「ルスカ、早くも投げました。腕固め、腕固め!逆十字ですっ!アントニオ猪木はルスカの逆十字に捕らえられましたっ!」
通常のタイガー・ジェット・シン等との試合であればゴング前の奇襲攻撃でなし崩し的に試合開始のゴングを鳴らしてしまうこともしばしばありましたがやはりここはゴングは鳴らさず、高橋はルスカに腕を離すように支持。
腕ひしぎ逆十字から放された猪木はダメージ回復の為、1回控室へ戻り異例の「休憩」。
リングに残されたルスカにルスカのセコンドについていたゴッチがリングに上がり「汚い手を使うな!」とばかり殴りかかって乱闘、若手がゴッチを懸命に静止しました。
これでゴッチとルスカの師弟関係は僅か3週間で破綻。ゴッチは何と猪木のセコンドに廻ってしまいました。
この状況を通路で見ていたパット・パターソン(この日は足の負傷を理由に試合を欠場)がリングサイドまでやって来てルスカのセコンドにつきました。
ここで猪木が戻って来てようやく試合開始のゴングが鳴らされました。ルスカは柔道着を脱ぎ、上半身裸の完全なプロレススタイル。
猪木はいきなり張り手からアリキック、しかしこれは当たりが浅い。ルスカは猪木を捕らえるとロープ際で胸にパンチの連打。しかし、このパンチが「ペチッ、ペチッ」という情けない音の為観客席からは早くも失笑の声が。
プロレスのパンチは実際のところパンチを降り下ろすのと同時に足でマットをドンドンと踏みつけて音を出しており、また80年代以降は自分の腕を叩いてパチンという音を出しています。それを同時にやって観客に不自然に感じさせないようにやるのがプロです。
プロレスラーになりきっていないルスカはその辺は出来ていないというより知らなかった感じです。
ルスカは投げから再び腕ひしぎ逆十字固め。しかしこれは猪木がルスカの左足を手でブロックして防御。
桜井氏「猪木君は廻し蹴り(アリキック)を出していますけど、これ危険だと思うんですよ。今日に限っては。猪木君の蹴り足をルスカが捕らえてサンボのアキレス腱固めがあるんじゃないかと思うんですよね」
桜井氏はレスリングスタイルのルスカに対してサンボの関節技を出すことを期待しているような口ぶりです。
ルスカは首4の字固めに移行、これは猪木がロープエスケープし、猪木は投げからキーロックに移行。
舟橋アナ「猪木はサブミッション、キーロックを見せています」
桜井氏「今の切り返しは見事でしたねぇ!」
ルスカは懸命にロープヘ逃れてロープブレークとなりました。
舟橋アナ「2月6日の対戦の時はルスカはロープブレークは使ってなかったのですが今回は使ってましたねぇ!桜井さん、ルスカの一連の動きの中でゴッチとの特訓の成果が出ている部分はありますか!?」
桜井氏「今のキーロックの外し方は完全にゴッチ流ですねぇ」
勿論、ルスカはゴッチが猪木との一連の闘いで見せたようなキーロックをかけられた状態でリフトアップしコーナーポストに置くような高等戦術が出来る訳もないのですが、舟橋アナにコメントを求められて仕方なくという感じです。
猪木はルスカのバックを取ってダウンさせ、馬乗り状態でのスリーパーホールド。さらに幾多の対戦相手を戦意喪失させて来た右上腕と右肘を使っての「顔面ゴリゴリ」。これは効きました、ルスカが完全に嫌がっています。
桜井氏「猪木君の今の攻めもゴッチ流、まさにゴッチの弟子と弟子のぶつかり合いですねぇ!」
こう聞くとゴッチの弟子が技と技をぶつけ合うような高度なテクニック合戦を想像しがちですが実際は猪木とルスカには相当な差があったことは言うまでもありません。
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