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2026年11月05日11:51

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サンセット大通り


☆『サンセット大通り』(Sunset Boulevard 1950; ビリー・ワイルダー) 

 *『疑惑の影』に関しての言及はないのだけれど、デヴィッド・リンチが好きなハリウッド映画が本作品であるという公言はある。『マルホランド・ドライヴ』『インランド・エンパイヤ』には本作品からの影響はあるであろう。

 *夢を売る工場の中身が暴露される。豪華絢爛に表され皆に夢を与えるアメリカン・ドリームの表象ハリウッドの裏の、スキャンダルな実体が暴かれる。脚本家から始めたワイルダー(註1)だから脚本家の悲哀を表されるのだろう。また、オーストリア人であるがゆえ客観的にアメリカを見れてアイロニーも描けるのであろう。自伝にはたしか、オーストリアでの脚本家時代の売れない頃にワイルダーは酒場かなにかで女性を相手にダンスをする仕事をしていたらしく、それがヒモになり果てる主人公の悲哀を描かせるのにプラス、と書かれていたと記憶。

 *ワイルダーはむかしから好きだからバイオグラフィを読んだりするのだけれど、好きになったのは『昼下がりの情事』や『アパートの鍵を貸します』や『お熱いのがお好き』など後期に近い中期のコメディ群によってであり、そして後になってニューロティックな『深夜の告白』や『失われた週末』や本作品を知って作風の違いに驚いたりしたわけだけれど、でもいまになり考察してみるとアイロニーは一貫して貫かれていて、それがワイルダーのいろ、というか特筆すべき特徴なんだろうな、となる。人生どう転ぶか分からないという皮肉、ブランケット製作ワイルダー監督ふたりで共同脚本の時代はよどんだダーク、人間の裏サイドを見る形でそれは描かれ、I・A・L・ダイアモンドと共同脚本で組んだ前述の明るいコメディ群もまたよく見ると、表の顔というではなくやはり裏の顔、だからぺシミスティックな様相も表されるのだろう。チャップリンの庶民のペシミズムとは違い、もっと本性をえぐるエグさあるペシミズム。本作品『サンセット大通り』を久しぶりに観ると、以前以上にだんぜん面白味を得ながら至福の観賞となる。

 *メアリー・ピックフォードやいろいろ、サイレント映画のミューズたちは出演を打診されたらしい。前にビリー・ワイルダーのバイオグラフィを読んだが、けっこう多くの有名女優がオファーを受けていたなという記憶。グレタ・ガルボもそのひとりであるが、彼女が断ったというよりも、交渉のプロセスうやむやになって立ち消えになったという記憶。とにかく、サイレント映画の大女優たちは本作品の主人公ノーマ・デズモンドと自身が重なり合うことを嫌い、なかなか決まらなかったようである。ポーラ・ネグリのように喋ることなくスターに成り得たサイレント映画時代はいいものの、喋らせたらヨーロッパ訛りが酷いのでワイルダーが断ったという件もあるのではあるが。

 *ビリー・ワイルダーの自伝には、私の記憶が正しければ、当時はグロリア・スワンソンはNYでラジオ・パーソナリティをしていて、オファーされると、サバサバした性格の彼女は、いいわよ、やるよ、という感じで引き受けることとなるとある。他の女優たちが断り、自身と重なり合わせかねない役を演じるグロリア、肝すわっとる(註2)。さすがサイレント映画の女王のなかの女王。それにしても、ハリウッド自体をコケにしかねない本作品(註3)によくぞセシルBデミルが出演したな。デズモンドを主演にしたサイレント傑作群でハリウッドを夢を売る工場にデズモンドとともに仕立て上げた大監督デミル自身を演じるのであるが、彼はじっさいにもスワンソンを主演にしたサイレント傑作群を監督し、トーキーになっても『クレオパトラ』『サムソンとデリラ』『地上最大のショー』『十戒』といった豪華絢爛なハリウッド・スペクタクルを生んだ人物である。映画に出てくる街はハリボテの大道具とか知らせたり、ハリウッドの醜聞を想起させたりもする本作品を受け入れるのは心臓にモジャモジャと剛毛がワンサカなのであろう。本作品は、試写会のときにハリウッドの大プロデューサーであるルイスBメイヤーを怒らせたようである。涼しい顔して自身を演じるとは見上げたもんだぜ、デミル♬

 *エリッヒ・フォン・シュトロハイムとバスター・キートンの出演も特筆すべき。シュトロハイムもデミルと同様に、サイレント映画の巨匠。そして異端であり、本作品の異様な執事にフィットするってもんだ。シュトロハイムは自身の創りたいものへのこだわりを妥協せず9時間の尺の作品も制作してしまったりと、ステューディオ泣かせの異端児。またアクターとしても自作や、ジャン・ルノワールは『大いなる幻影』での名演も映画史に残るってもんだ(註4)。バスター・キートンはチャップリンらとともにサイレント映画時代のコメディの帝王としてハリウッドに君臨。ポストモダンが評価されていたエイティーズ以降の時代では寧ろ、チャップリンよりも批評家や理論家からの人気は高く、そのムーヴに徹したアクション・コメディのナンセンスは崇高さを謳われる。ノーマ・デズモンドのポーカー仲間として出演している残りのふたりは存じ上げぬがサイレント映画の人気スターらしく、過去の栄光にすがった落ちぶれ観を表すのにとてもフィットしていてゴシック感満載。ホールデン演じる脚本家から蝋人形たちと言われる彼ら、ノーマの屋敷と同様に、或る種のゴシック・ホラーさを本作品に表している。

 *ノーマは屋敷内で脚本家と踊りながら、ここでヴァレンティノと踊った、とか、サイレント時代の傑出するコメディエンヌであるメイベル・ノーマンドとのベイジング・ビューティーズ (Bathing Beauties/水着美人) 時代のハナシなどをするけれど、1959年にまだサイレント映画の記憶も残っているであろうオーディエンスにとってはなんともいえない歓喜なる喚起となるであろう。スワンソンもこの危険なる賭けによくぞ身を丸ごと投じたな。ほんとアイロニストにして真のアーティストである。

 *ノーマ・デズモンドは脚本家をひきいてデミルをたずねパラマウント・ステューディオに入るのであるが、調べると、ロサンゼルス内のハリウッドというエリアに現在でも本社と撮影スタジオをかまえるのは、パラマントだけらしい(註5)。


 註1 彼の自伝によれば、彼が脚本家をやっていた時代は現在ほどのリスペクトを脚本家はまだ得られておらず、プロデューサーや監督からはやや蔑まされる感じで”ボーイ”と呼ばれていたそうな。本作が製作された時代はエージェントとかすでに登場しているから、ステューディオ(映画会社)専属の脚本家ばかりではなく、インディペンデントなシナリオ・ライターももういたのであろう。でも、ステューディオ保護下ではないぶん、本作品で表されるように、売れないホンも書いているクスブリ型の脚本家も多くいたのであろうな。

 註2 されどスワンソン、久しぶりにホームに戻ってきたようよ、と言うデズモンドと同じとても嬉しい気持ちではあったであろう。グロリア・スワンソンはもちろん本作品の主人公ノーマのように狂ってはいない。その年のオスカーでは『イヴの総て』にほとんどの賞を持っていかれたけれど、ハリウッドをリークする作品よりかは西とは反対の東側にあるブロードウェイ演劇界の醜聞をリークする作品に投票するヒトの方が多かったのかな。アカデミー賞は業界人によって設立され業界人によって構成されている。他方、ジャーナリストなど映画業界外のヒトによって投票されるゴールデングローヴ賞ではスワンソン、主演女優賞を受賞している。

 註3 長年共同脚本してきて制作ではワイルダーが監督をやり製作を担っていたチャールズ・ブランケットは本作品の企画には腰を抜かしたそうである。

 註4 最近知ったのは、シュトロハイムはグリフィスのアシスタントをしていて、まずはアクターとして世に知られたんだな。

 註5 1950年代にはハリウッドには大小多くのステューディオがあったのであるが、それ以降はハリウッドから出て地価が安いロサンゼルスの他エリアに移転したらしい。現在、ハリウッドという地域にあるステューディオはパラマウントだけである。


 *『疑惑の影』の特典にはメイキングは入っていなかったのだけれど、『北北西に進路を取れ』と『サンセット大通り』の特典にはそれぞれメイキングが入っていたので愉しみである。『北北西に進路を取れ』では先日100歳で死去されたエヴァ・マリー・セイントが、『サンセット大通り』ではホールデンと脚本作業をしながら親密になる役のナンシー・オルソンが、それぞれホストのような形をとっている。こんど観よう、愉しみである。



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