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2025年07月19日15:36

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映画『ガール・ウィズ・ニードル』~1

7/17(木)、シネマイーラ浜松で『ガール・ウィズ・ニードル』を観る。

フォト

怖しい映画だった。
モノクロームで小さな画面サイズ。
冒頭、暗い画面に、様々に歪んだ顔が浮び出ては消える。
時に悲鳴のようなノイズを引きずった重苦しい音楽。

第1次世界大戦終戦前後の時代のデンマーク・コペンハーゲンが舞台。
映画は実際に起きた事件を基にして作られた。

第1次大戦は初めての国家規模の戦争で、男性の多くが戦場に駆り出され、開発された近代兵器の投入により極めて高い死傷者を生み出した。
カロリーネの働く縫製工場は軍服生産を命じられ、全ての工程で女性が身を粉にして働いていた。
映画は彼女の視点から描かれている。
カロリーネの夫ペーターも戦地に行っている。手紙を出しても一向に返事が来ず、もはや戦死を覚悟していた。
アパートの家賃は未納続き、家主から追い出されるハメとなった。

カロリーネは市に未亡人手当を要請したが、死亡証明がなければ出ないと言われる。理不尽な事だ。
務め先の工場長に助けを乞うが何ともならない。工場長は男性なのだが、足が悪いため招集されなかったようだ。
彼女の窮状を知った工場長は甘い顔をして言い寄る。
カロリーネはついその気になって、身体を許してしまう。そして、妊娠。何とか工場長から結婚の約束を取りつけた。
彼女は思う、これでどん底から這いだす事ができる。

1918年、ドイツの降伏により第1次大戦が終わる。
しばらくして、工場から帰るカロリーネに声をかける男がいた。顔は半分仮面を被っていて、誰か分からない。
もごもごした声で、夫ペーターだと言う。戦場で大怪我を負い、病院に長く入院、手紙も書けずにいた、と。
カロリーネは取り敢えず男をアパートに連れて帰った。
仮面を外すと、顔の半部は激しく損傷している。口は崩れ、片目も陥没して穴になっていた。
食事も水も口から零れ落ちる。
カロリーネはその異形を怖れ、顔を背けて言った、ずっと帰ってこないし返事もないから死んだものと思っていた、私は新しい恋人ができて妊娠している、あなたと一緒には住めない。
男はトボトボと出ていった。
この頃、街には戦場帰りの障害者がたくさんいた。

工場長に誂えてもらったドレスをまとい、カロリーネは連れられて彼の家を訪れる。
大きな屋敷を牛耳っている彼の母は家長の男爵夫人で、夫は既に亡くなっているらしい。
彼女は冷酷な言葉でカロリーネをあしらい、放りだす。ぼんぼんの工場長は、母親に対して何も言えない。
浮き浮きした気持ちは一度に萎えてしまう。
現代なら訴える事もできたろうが、まだ階級が幅を利かせている社会にあっては、はした金で済まされてしまう。

絶望したカロリーネが街を彷徨っていると、サーカスのポスターが目に入った。それには夫ペーターらしき男の戯画が描かれていて見世物にされているようだった。
カロリーネはサーカスのテントに潜りこんだ。
夫らしき男が仮面を取ると、客の間からは呻き声が漏れた。
サーカスの団長は客席に向かって尋ねた、この男に触れてみたい人はいるか?
カロリーネはおずおずと手を挙げ、舞台に出ていき、彼の顔に触れた。
団長から更に背中を押され、キスもした。客らの吐き捨てるような声。
ペーターは再びアパートに戻ってきたが、一緒の生活は絶望的だった。

当時は堕胎罪というものがあった。中絶は法律で罰せられる。
フランスでも、シモーヌ・ヴェイユ(1927-2017)らの働きにより、人工中絶が合法化(いわゆる「ヴェイユ法」)されたのは、第1次大戦後50年以上も経った1974年になってからである。
〈参〉・「映画『シモーヌ』」(2023.9.26記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986005633&owner_id=3341406

トランプ政権のアメリカでは、女性が長い時間をかけて勝ち得た人工中絶の権利に、またNOを圧しつけようとしている。
時間が逆回りするようで、怖ろしい。

ある日、カロリーネは金属製の編み棒を隠し持ち、アパートを出て公衆浴場に出かけた。
タイトルにある「ニードル」が指すのは、彼女が最初に務めていた縫製工場のミシンの針、もう一つがこの編み棒である。
工場の女工らに、サボるな!働け!と喚き回っていたライン長に、カロリーネは言ったものだ、「このミシンの針、よく折れて困るの」。
また、前の家から追い出されてこちらのみすぼらしいアパートに越した翌日、部屋の掃除を済ませたカロリーネは、窓から屋根に這い出て毛糸を編みだした。
こんな状況下にあっても、編み物をする事で彼女の表情はやや和んだ。
その編み棒で、彼女は自分の子宮を突き刺そうというのである。
「ニードル」は痛みの象徴だ。

このシーンは2023年に観た映画『あのこと』を思い出させた。
1960年代のフランス、大学の女子寮の一室で、切羽詰まったアンヌは、火で焼いた金属棒を使いお腹の胎児を堕ろそうとするのだった。
〈参〉・「映画『あのこと』」(2023.1.27記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984253462&owner_id=3341406

(続く)
 
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