9/26(火)、シネマイーラ浜松で『シモーヌ』を観る。
フランスの女性政治家シモーヌ・ヴェイユ(1927-2017)の、弱者を守るため困難に立ち向かう半生を描く。
オリヴィエ・ダアン監督が世紀の女性を描いた3部作『エディット・ピアフ〜愛の讃歌』『グレース・オブ・モナコ〜公妃の切り札』に続く最後の作品である。
前者は2007年10/2のレポート参。(後者は観ていない。)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=580149052&owner_id=3341406
シモーヌ・ヴェイユ、日本人には馴染みが薄いが、フランス人には圧倒的な人望がある。
89歳で亡くなった翌月国葬が営まれ、キュリー夫人等の偉人が眠るパンテオンに祀られた。女性としては5人目。
彼女は、人工妊娠中絶の合法化によって女性の命と権利を守り、ホロコーストの生き証人として記憶の継承に努め、また、欧州議会初の女性議長となった。
人口妊娠中絶法は「ヴェイユ法」(1974年可決)と呼ばれ、彼女の尽力を今も称えている。
「ヴェイユ法」については、2022年にノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの自伝『事件』(2000)を原作にした映画『あのこと』(2021/監督オードレイ・ディヴァン)で触れている。
・2023年1/27「映画『あのこと』」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984253462&owner_id=3341406
映画『シモーヌ』は2007年に出版された彼女の自伝『ある人生(Une vie)』(石田久仁子訳、邦題『シモーヌ・ヴェーユ回想録〜20世紀フランス、欧州と運命をともにした女性政治家の半生』/2011年パドウィメンズオフィス発行)を基にしている。
自伝は時系列で書かれているが、映画は、1974年、保健大臣としてまさに「ヴェイユ法」を保守的な議会に認めさせるべく熱の籠った演説をする場面から始まり、第2次大戦後の結婚・出産等プライベートな時期に戻る。
シモーヌは2人目の妊娠中、弁護士を目指して再び学び始める決心をする。
当時の女性は家庭にあって子供を育て、夫を支える事が常識であったから、当初は夫アントワーヌの反対にも遭う。
しかし、アントワーヌは理解し、最後迄シモーヌを支える事になる。
こうして映画は1970年代〜2000年代、1930年代〜50年代を前後に行き来する。
シモーヌを描くには、彼女のユダヤ人としての側面にも立ち入らねばならない。
彼女と家族は1944年3月にゲシュタポに検挙され、ドランシー強制収容所からアウシュビッツ=ビルケナウ収容所へと列車で移送される。父・兄と母・姉妹は離れ離れになり、地獄のような日々を過ごす事になる。
到着すると私有物の殆どは取りあげられ、シモーヌも母も姉も坊主頭にされる。名は捨て、”78651”という番号で扱われる。
悲惨な収容所での生活も、映画は克明に描く。
1944年6月に連合軍がノルマンディー上陸を果たし、同8/25にパリ解放。
翌45年1月にはソ連軍によりアウシュビッツ収容所は開かれるのだが、しかし、実はそれで終わらない。
ドイツ軍と親衛隊は4万人のユダヤ人を連れて極寒の中「死の行進」をする。
歩けなくなれば射殺され、レイプも頻発、母はチフスで死んだ。
ドイツの降伏は同年5/7である。
シモーヌは、司法試験と2年の研修ののち、1957年、刑務所管理の司法官としてパリ郊外の刑務所を訪ねる。
不衛生で劣悪な環境、拷問、囚人達は人間として扱われていなかった。
所長らの非協力にも遭うが、シモーヌは大臣を味方につけ、予算も取り、診療所や図書館の設置他、環境改善に奔走する。彼等も囚人である前に人間である。
シモーヌは、独立運動の政治犯も収容されているアルジェリアの刑務所にも行く。
ずっと後年になるが、1994年には、保健大臣としてエイズ患者達と直接会話し、ショックを受け、問題に正面から取り組むため、パリで国連のエイズサミット開催を実現させる事になる。
1979年には大臣職を辞し、シモーヌは欧州連合の統合のため欧州議会に出馬する。
卑劣なヤジも飛ぶ中、強い意志の籠った演説によって彼女は選挙で過半数を獲得し、女性初の議長に就任した。
当時の理事部は殆どが男性で、猛反対を受けたが「女性の権利委員会」の設置を実現。
2004年はアウシュビッツ解放60周年の年。
シモーヌは子供や孫も連れて現地に行く事にした。
我々は大戦後の収容所帰還者達がどんな扱いを受けたのか知らない。
「親衛隊と寝て生還したのか」と問う老婦人もいたし、世間には「黙って生きろ」という空気が漂っていた。
記憶は形がなく、消え去ってしまう、言葉や見えるもので受け継がれなければならない。
2001年、シモーヌはショア(ユダヤ人大量虐殺)記憶財団・記念館の初代代表となった。
犠牲者達の名前が書かれた「名前の壁」を見上げるシモーヌ、そこには、生き別れになった父と兄弟の名前があった。
冒頭に掲げたポスターのシモーヌは、その「名前の壁」を見上げているのである。
監督・脚本 オリヴィエ・ダアン
撮影 マニュエル・ダコッセ
衣装 ジジ・ルパージュ
編集 リシャール・マリジ
出演 エルザ・ジルべルスタイン,レベッカ・マルデール,オリヴィエ・グルメ,エロディ・ブシェーズ
受賞 セザール賞衣装部門/美術部門
2022年/フランス
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