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2025年05月24日11:00

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ヒルマ・アフ・クリント展/東京国立近代美術館��

(続き)

◆3章「神殿のための絵画」

1904年、41歳のアフ・クリントは、「5人(De Fem)」の交霊会で、「至高の霊的存在に向かう世界の絵画」を描くという重要な予言を受けとる。これで開始されたのが18のテーマで構成された全193点の作品群《神殿のための絵画》だ。
アフ・クリントはこれらを収める建造物(神殿)も構想した。
彼女はこの作業に、失明した母の介護のための4年間のブランクを挟み、1906〜15迄約10年間をかけた。
《神殿のための絵画》は〈原初の混沌〉〈エロス〉〈10の最大物〉〈進化〉〈白鳥〉などのシリーズ/グループで構成されている。円や四角形の幾何学的図形、花びらや蔓など植物由来の装飾モチーフ、細胞,天体などを思わせる形態が関係づけられていて、全て眼に見えない実在の知覚・探求を志向している。

下の写真はその最初の連作《原初の混沌、WU/薔薇シリーズ》1906-07の展示全10枚のうち8枚。
自然の中から有機的な何かが発生してきた原初の時代、この世界の始り、それらは海、うごめく分子、最後は受精の奇跡ように見えなくもない。
上列1番右と下列左から2番目の作品に見られる「W」と「U」。「W」は物質「U」は精神、相反する存在を意味し、アフ・クリントにとって特に重要な文字だった。
黄色と青色が基調となる色彩で、黄に男性性、青に女性性を付与した。それは対立しながらも時に交代する流動的なもので、黄と青が混じれば緑になる。確かに性のないオーム貝は緑色になっている。
善悪、男女など二元性に引き裂かれたものを結びつけ、世界の始りにあった単一性を再び取り戻そうとする神智学の教えがテーマとなっているらしい。
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《進化、WUS/七芒星シリーズ》1908より、展示全5枚のうちの4枚。
アフ・クリントにとっての「進化」は、『種の起源』(1859)のそれでなく、神智学は魂が高次の段階へ上昇し神に近づく精神的プロセスであると教えていた。
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《10の最大物》〜〈幼年期〉〈青年期〉〈成人期〉〈老年期〉1907より。
アフ・クリントは人生の4つの段階について「楽園のように美しい10枚の絵画」を制作する啓示を受け、僅か2ヶ月のうちに高さ3.2m幅2.4mの巨大な絵画10枚(成人期が4枚、他が各2枚)を仕上げた。
下の写真には、
右の面に〈幼年期〉が2枚、
左の面に〈青年期〉2枚と〈成人期〉1枚が収まっている。
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そのまま進んで裏側へ回ると、
右の面に〈成人期〉が更に2枚、
左の面に〈成人期〉がもう1枚と〈老年期〉2枚が収まっている。
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そして〈老年期〉の角を回ればまた〈幼年期〉に至り、神智学では輪廻転生が続く。
以下に〈幼年期〉No.1と〈老年期〉No.10のみクローズアップしてみたい。
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〈幼年期〉は青がメインで、丸みをおびた芽吹きから開花は進化の始り。
〈老年期〉は、銀灰色上の4つの正方形は全てが帰ってくる場所で整然として落ち着きがある。螺旋は始めも終わりもない事をサジェストしている。
〈成人期〉はレポート�)粗�に貼付したチラシを参照頂きたい。パステル調の紫の中で様々なものが混沌として浮遊し、また響きあっている。

《白鳥、SUWシリーズ》1914〜15より、全10枚のうち5枚。
珍しく具象的な姿の白鳥/黒鳥が2羽の闘争から次第に分割され、3重の輪をなす立方体の列に展開、更には旋回するプロペラに変容、色と形の2項対立が分離と統合を繰り返し、やがて中央の1個の円に落ち着いていく。
全10枚よりNo.1、No.3、No.7、No.8、No.10の5枚。
何億年も変わらぬ姿で生きてきたオーム貝は高次の霊的存在アーナンダのイメージ。
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《祭壇画》1915より。
アフ・クリントが晩年迄構想していた螺旋状の神殿、その最上階に置かれる予定をしていた。「神殿のための絵画」で使用してきたモチーフが全部出揃う。
右壁の三角形は上昇、左壁の三角形は下降、肉体的なものと精神的なものを行き来する。
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◆4章「神殿のための絵画以降:人智学への旅」

《神殿のための絵画》を1915年に完成させたあとの展開。
〈原子シリーズ〉〈穀物についての作品〉は、自然科学と精神世界双方への関心や、眼に見えない存在への知覚の可能性という意味では「神殿」に連なるが、表現はより幾何学性や図式性が増している。
1920年に母が亡くなると、アフ・クリントは「神智学」から分離独立した「人智学」(*)へ傾倒していき、1920〜30年にかけてその本拠ドルナッハ(スイス)に幾度も滞在、人智学協会終身会員となった。

 (*)人智学:神智学協会を脱退したルドルフ・シュタイナーによって提唱された学説、教育運動。神智学をより体系的、科学的に再構築し、人間の精神が高次の霊的世界に到達できると説いた。

彼女の作風は〈花と木を見ることについて〉など、水彩絵具のにじみによる偶然性を活かし、色自体がテーマとなる小品へと変化していく。

《原子シリーズ》1917より、展示全6枚のうち1枚。
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《穀物についての作品》1920より、展示全3枚のうち1枚。
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《シリーズ�后�1920より、展示全9枚のうち4枚
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《花と木を見ることについて》1922より、展示全8枚のうち1枚。
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◆5章「体系の完成へ向けて」

1920年代に始まった水彩を中心とした制作は人智学や宗教・神話に関係したモチーフを回帰させ、晩年迄続く。
《無題〉1931
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制作の傍ら、1920年代半ば以降、アフ・クリントは自身の思想や表現について記した過去のノートの編集・改定の作業を始める。
前述したように人智学は体系化を重んずる。
びっしりと小さな文字と図が丁寧に書かれたノート。
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制作が完了して15年も経つ《神殿のための絵画》を収めるための建築物の構想も重ねたが、遂に実現せずに終わる。

1944年、1,000点を遥に超える作品や、142冊に及ぶノート類の資料を甥に託してアフ・クリントは81歳の生涯を閉じた。
彼女の正当な評価はこれからである。


[参考資料]
NHK-Eテレ「日曜美術館]『見えない彼方へ〜ヒルマ・アフ・クリント』
 解説 東京国立近代美術館 本展企画学芸員 三輪健仁
    ヒルマ・アフ・クリント財団理事 ウルフ・ワーグナー
    美術家・評論家 岡��乾二郎
    美術家 毛利悠子(*)
 ディレクター 本田昂輝
 放送 2025.4.13

 (*)毛利悠子については以下参。
・「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子〜ピュシスについて/アーティゾン美術館(改訂)」(2025.1.17記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1989223955&owner_id=3341406
・「ジャム・セッション」アーティゾン美術館(追記)デュシャン×毛利悠子」(2025.1.21記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1989249554&owner_id=3341406

…毛利が今可視化しようとしている「見えないもの」は、電磁波とか磁気とかいうものらしい。
 
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