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2025年01月17日15:38

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「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子〜ピュシスについて」/アーティゾン美術館 (改訂)

1/15(水)、日帰りで上京し、3つの美術館を回った。
最初のアーティゾン美術館では「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子〜ピュシスについて」、その他、
次の渋谷区立松涛美術館では「須田悦弘」展、
最後は森美術館で「ルイーズ・ブルジョワ展」である。

順にレポートしていこう。

・・・・・・

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子〜ピュシスについて」
・会場 アーティゾン美術館
・会期 2024.11.2〜2025.2.9

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2020年の開館以来、アーティゾン美術館では、石橋財団コレクション(*)と現代アーティストが共演する企画を行っていて、それを「ジャム・セッション」展と呼んでいる。
「ジャム・セッション」とは、本来ミュージシャンが集まって即興的な演奏を行う事を意味している。
美術の、時間を超えた思いがけない共演でどんな感興が沸き起こるのか、愉しみだ。

このジャム・セッションは今回で5回目、国際的なアートシーンで注目を集める毛利悠子を迎えた。彼女としては国内初の大規模展となる。
毛利は1980年神奈川県生まれ。2006年に東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻を修了。近年は数多くの国際展に参加し、昨年は、現代美術のオリンピックとも言われる「ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展」第60回、その日本館代表を務めた。

 (*)今回、毛利悠子が石橋財団コレクション3,000点の中から選びだしたのは、モネ、ブランクーシ、マティス、クレー、ブラック、デュシャン、ジョゼフ・コーネル、藤島武二の作品。
毛利のインスタレーション作品を合わせて展示総数は21件になる。
とは言っても、毛利の展示はパーテイションを超越していたりするものもあり、何処から何処迄を1件と数えるのか、キャプションもなく、判断のつかないところがある。

彼女は、音や動き、磁力や電流、空気や埃、水や温度といった、従来の美術素材とは異なるものによるインスタレーションが惹き起こす事象で、立ち会った人々に新たな知覚を開く試みを行っている。

本展タイトルにある「ピュシス」とは、「自然」や「本性」と訳される古代ギリシア語。ギリシア哲学の根源的な問いかけは「万物の始原=原理とは何か」で、「ピュシス」はその中心となる考察対象だった。そこには生成、変化、消滅という永遠の運動が内在する。

ジャム・セッションから何件かピックアップして紹介する。

毛利の作品では、センサーやスイッチという類がたくさん使われている。
センサーという現代の装置が読みとるものは、目に見えない風や重力,磁力など、それこそ「自然」の一部である。

毛利悠子《Decomposition》(2021- )
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果物は静止しているように見えるが、実は様々な動的部分を持っている。
例えば水分量、これは常に変化している。それは腐っていくプロセスの中の一変化だとも言える。
端子を果物に射し、水分量を抵抗値として測定、それをコンピューターにランダムプログラムとして入力する仕組みを毛利は構築した。
大型スピーカーの前で我々が聴く音(音楽)のトーン,リズム,ボリュームの変化は、果物の抵抗値によっている。加えて、背後のライティングパネルの明暗をコントロールしているのも、同様に果物の抵抗値である。
展覧会が始まった時にはおそらく新鮮だったアクリルケースの中の果物が、今、多くの青カビが生えている。

毛利のこの作品とセッションするのは、ジョルジュ・ブラック(1882-1963)の静物画《梨と桃》(1924)だ。
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ブラックの果物も、色彩からして決してフレッシュではない(ように見える)。
「ボデゴン(静物画)」は往々にして「メメント・モリ」を表象している。
果物と同じく、人間も老化を避けられない。常に死に向かって進行している事を思い起こさねばならない。

次に毛利作品とセッションするのはモネである。
毛利悠子《Piano Solo:Bell-Île》(2021- /2024)
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モネ《雨のベリール》(1886)
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クロード・モネ(1840-1926)はフランス・ブルターニュの島ベリール(ベルイルと表記する事もある)に何度も足を運び、変化し続ける自然を描いた。
毛利もベリールに行き、映像と音を収録してきた。それを、本会場のスクリーンとスピーカーで再生。そのスピーカーの前に2本のマイクを立て、拾われた音をアルゴリズム的に自動演奏ピアノに入力して88鍵の音に変換する。
ピアノが自然(波や風の音)を真似するとこうなる、というロジカルなインスタレーションだ。
しかし、ピアノは半音階しか出せないし、他にも制約は多い。
自動ピアノが発する音(音楽)を聴きながら、観客は、片目でモネの《雨のベリール》を見つつ、どう思うだろうか?

毛利によると、実際に行ってみて、モネが立っていたであろう場所が分かった、それは崖っぷちで足場が悪く、しかも嵐である。
「彼がその景色を捉えたいっていう時の情熱みたいなものも感じられ、私達が美術館の中だけでは補足できなかった彼のビハインドストーリーみたいなものを、この仕組みで感じられるのではないか、そう思った。」

次は毛利とクレー。
毛利悠子《Magnetic Organ》(2003)
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クレー《数学的なヴィジョン》(1923)
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毛利作品がパウル・クレー(1879-1940)の作品に対し、どうどういうメカニズムでどう機能しているかは分からないが、電磁波やラジオ波を使っているらしい。
クレーの本作をよく見ると、まるで毛利の世界をクレーが100年前に取り込んでいたかのようで、実に面白い。ちなみに《Magnetic Organ》は毛利のデビュー作。

こちらは毛利とブランクーシの共演。
毛利悠子《Calls》(2013- )
コンスタンティン・ブランクーシ(1876-1957)《接吻》(1907-10)
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前者では、磁石の上に吊り下げられたフォークが、極の変化に伴って揺れ、隣にあるグラスに当たって音を出す。
一方、後者の恋人同士はもはや一体であって、その固い抱擁は決して揺らぐ事がない。

この写真で分かるように、会場は壁やパーテイションをなるべく設置せず広くとるという毛利のコンセプトから、かなり見渡せるようになっている。
作品は境目を超えて交歓しあい、あちこちから様々な音が聞こえてくる。まさにジャム・セッションである。
こうした感じは初めての経験だと思う。


〈参考資料〉
NHK-Eテレ「日曜美術館」〜「アートシーン」『ジャム・セッション』
 放送 1/12


アーティゾン美術館では他に「ひとを描く」展、「石橋財団コレクション選」展(含む特集コーナー展示「マティスのアトリエ」)を開催中だった。
・会期 2024.11.2〜2025.2.9

それぞれ展示総数約80点。
青木茂の《わだつみのいろこの宮》(1907)、藤島武二の《黒扇》(1908-09)、2点の重要文化財も観る事かできる。
質量共にアーティゾン美術館は実に優れた作品を所蔵している、改めてそう思ったのだった。
 
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