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2020年11月06日23:50

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映画日記『豚と軍艦』

2020年11月6日(金)

『豚と軍艦』(1961年)
監督:今村昌平
岐阜柳ヶ瀬・ロイヤル劇場

40数年前の大学生時代に見ているが、ラストの豚の群れしか覚えていないので、ほとんど初見と同じだ。

アメリカ海軍の基地がある横須賀の繁華街、通称ドブ板通りが舞台。
ここを縄張とするやくざ一家の親分が、組の幹部連中からも資金を出させて、米軍基地から出る残飯をタダ同然で払い下げてもらい、それをエサに豚を飼育してボロ儲けをすることを企んだ。
そんなやくざ一家の末端にいるチンピラの欣太(長門裕之)と、恋人の春子(吉村実子)のふたりが主人公。
めでたく養豚所の責任者となった欣太は、これをきっかけに組内で出世し、いつ米兵相手のオンリーになってもおかしくない境遇の春子を救い出し、米軍相手のバンドのマネージャーになることが夢だった。
ところが、一家をゆすりにきた春駒というやくざを親分や幹部たちが殺してしまう。
春駒の遺体は海に棄てたものの、もしこの件がばれたら面倒なことになるので、幹部たちは欣太に「身代わりになって、臭い飯を食ってくれば、一人前の幹部だ」と因果を含める。
お調子者の欣太はすっかりその気になるのだが、事態はおもわぬ展開となり・・・・

終盤のクライマックス、路上にあふれ出たものすごい数の豚たちが、米軍、つまりはアメリカに寄生するやくざたちを食いちぎる。
60年安保の翌年に公開された映画ということで、クライマックスのシーンが、幻視された安保闘争の勝利におもえた。
縦横無尽に走り回る豚たちに、闘争に参加した多くの大衆の姿が重なる
結局は、本作から60年近く経った今も、日本はアメリカの属国でしかないのだが。

増村保造が監督した『からっ風野郎』(1960年)で、チンピラやくざに扮した三島由紀夫はエレベーターに乗って昇天していった。
『豚と軍艦』の長門裕之扮するチンピラやくざは、便器に顔を突っ込んで息絶える。
昇天なんか出来るわけがないという、このときの時代に対する怒りを感じる。
怒りといえば、ヒロインを演じた吉村実子が「バッキャロー」と叫ぶシーンがあった。
このシーンに、『野良犬ロック』シリーズの1本で、バイクにまたがった梶芽衣子が同じように叫ぶシーンを思いだした。
さらには『狂った果実』(1956年)で、モーターボートに乗った津川雅彦が、自分を裏切った裕次郎と北原三枝が乗るヨットのまわりを旋回するラストシーンも思いだす。
この有名なシーンで、津川雅彦は終始無言だ。
しかし、私には彼が心中でなにもかもに「バッキャロー」と叫んでいたとおもえた。
鬱屈とした若者たちの「バッキャロー」という叫びが、かつての日活映画の魅力だった。

スカジャン姿のチャラチャラした長門裕之と、けっして美人ではないが個性的な顔立ちの吉村実子が好演。
三島雅夫の親分を筆頭に、やくざ一家の幹部を演じた丹波哲郎、大坂志郎、小沢昭一、加藤武と芸達者がそろう。
なかでも、加藤武が演じた平気で残忍なことをしでかすキャラクターが絶品。
丹波哲郎はきっと新東宝が潰れたので日活に参加することになったのだろう。

昨秋、舞台の横須賀に一泊した。
繁華街を歩く米兵は少なく、ドブ板通りもさびれてしまったが、ラストに登場する横須賀駅だけは、今とさほど変わっていなかったか。

力のこもった傑作。


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