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2025年03月19日20:35

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映画『アンデッド/愛しき者の不在』

3/18(火)、シネマイーラ浜松で『アンデッド/愛しき者の不在』を観る。

フォト

監督・脚本はノルウェー人女性テア・ヴィスタンダル(1989- )、長編映画制作はこれが初。映画の場は首都オスロ。
原作はスウェーデンのヨン・アイヴィデ・クヴィスト(1968- )。英訳原題は「Handling the Undead」。
クヴィストは多くの賞を獲得した映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008/監督トーマス・アルフレッドソン)の原作『MORSE・モールス』を書いた人で、その映画の脚本も担当した。
今回の映画でも、クレジットには「共同脚本」とある。
「共同」と言っても、15年以上前に自身で書いた初稿脚本が存在したという事であって、今回の映画制作の過程で共同作業をしたという事ではない。

『ぼくのエリ 200歳の少女』は2011年に観た。実に美しく、悲しみと痛みに満ちた映画だった。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1673995345&owner_id=3341406

原題の「Undead」というのは和訳しにくい。

緑も水も美しく豊かな首都オスロ、交わる事のない3つの物語が並行して進展する。
死因は説明されないが、数日前、幼い息子エリアスに先立たれたシングルマザー アナと、彼女の父親マーラーの1日の始まり。アナは給食(?)関係の仕事に出かけ、体力に問題のあるマーラーは古い団地のアパートで留守番。
映画は、誇張もわざとらしさもなく、静かに、日常とエピソードの断片を映し出す。

80歳を超えた老女トーラは長く連れ添った同性パートナー エリーザベトを病気で失い、教会には一人の弔問客もいない孤独な葬儀。

若い夫婦ダヴィッドとエヴァ、子供2人(姉のフローラと弟キアン)の明るい家庭。
夫はコメディアンでオーディションを待つ身。妻は車で仕事に出かける。
高速道路を運転中、車の不調に気を盗られ、エヴァは事故を起こす。
ダヴィッドは病院に駆けつけるが、顔にも酷いケガを負った妻は既に死んでいた。

それぞれの物語に関係は全くないのだが、愛する者に先立たれた喪失の悲しみ、痛みは同じ。

その夜、オスロで原因不明の大規模な停電が起こる。
マーラーは孫エリアスの墓地に行って体調を崩し、被せた土の上に倒れ込んでいた。
地面の中から奇妙な音がして、彼は目を覚ます。
マーラーは墓を掘り起こし柩を開ける。孫エリアスの小さな身体は干からびていたが、驚く事に呼吸をしているようだ。
彼は車に乗せて孫をアパートに連れ帰る。

落胆した若い夫ダヴィッドは、死んだ妻エヴァが横たわる病院ベッドの傍らにいた。
夜遅く、エヴァが動いたような気がして、彼女の顔を手で触れる。妻は息をしているらしい。
動転したダヴィッドは、ナースステーションに走っていった。
医者は言う、「理解できない」。

老女トーラの邸宅に、いつの間にか、見送った筈のパートナー エリーザベトが帰ってきていた。
土気色の顔。触ると石のように冷たいが、息をしているらしい。理由は何であれ、愛する者が戻った事を喜ぶトーラ。
だが、声をかけても、エリーザベトは何もしゃべらず、全く反応がない。
それは3人共同じだ。

マーラーは孫エリアスを支え、アパートのバスタブに入れ、シャワーをかけて土を流す。
皺だらけの皮膚、エリアスはぱちりと目蓋を開けるが、何処を見ているのか分からない。
母アナが勤めから帰ってくる。帰ってきて欲しいという思いはマーラーより強い筈だが、エリアスの様子を見てショックを隠せない。
抱きしめるが、喜びを感じる事ができない。
マーラーは孫のカサカサの口にカップの水を注いでみる。喉に飲み込んだ様子はないのだが、むせる事もなく、ともかく水は身体に入っていった。

警察官らしい声。扉を叩き、エリアスはいるかと尋ねる。掘り返された彼の墓を見て調査にやってきたのかもしれない。
マーラーは返事をしようとするアナ押し留める。彼はこの事を表沙汰にしないつもりらしい。

翌日になっても、皺だらけの皮膚に変わりはないが、エリアスは両脚で立つ事ができるようになった。
マーラーは、生前孫がよく遊んでいたリモコンカーを、彼の足下で動かしてみる。エリアスが何らか反応するのを期待しての事だが、彼は全く反応しない。肉体は蘇ったが、魂は抜け出てしまって戻らないかのようだ。
2人は湖の島にある別荘にエリアスを連れていく事にした。

ダヴィッドは家に帰り、悩んだ末、子供達2人に母の状態を話した。
2人が理解したのかどうか、よく分からない。医者だって「理解できない」と言っているのだから。
翌日は下の子キアンの誕生日である。父は彼がかねてから希望していたウサギを与えた。喜ぶキアン。
ダヴィッドは決心し、2人を連れて病院へ出かけた。

子供らは、顔にも大きなケガを負っている母の姿を見て呆然としている。
しかし、キアンはウサギを抱いて母のベッドに近づいていった。
ウサギを見せても母の表情は変わらない。
しばらくすると、エヴァの指が微かに動き出したのにダヴィッドは気づいた。
ダヴィッドは彼女が抱きたいと思っているのではないかと感じ、魂が戻る事を期待して、ウサギを彼女の手に渡した。
観客も同じ期待をし、ひょっとしたら彼女に魂が戻るのではないかと思い、つい目頭が熱くなる。
エヴァはウサギを両手に受けた、だが、彼女はウサギを優しく抱くのでなく、その手には次第に力が籠っていった。
ウサギは暴れだす。更に彼女の手には力が入る。
ダヴィッドは慌てウサギを彼女の手から取り戻そうとする、が、エヴァの手には猛烈な力が入ってぶるぶると震えだす。
恐れる子供達。
床に血が滴る。

2人の老女がどうなったのか?、湖の島に渡った3人がどうなったのか?…

これ以上話すのはやめにしておく。

オスロの大停電の日、蘇った死者は3人だけではなかった。
墓地にパトカーやショベルカーが入るなど、社会は理解できぬ現象を前に、当惑し、大騒ぎになっている。

愛する者の喪失の痛み、死の淵から戻って欲しいという家族の思いは、結局叶えられる事がない。
生と死の境目には、越えられない大きな裂け目がある。
心臓が動くという事がイコール「生」ではないらしい。


美しいホラーである。サウンドと音楽も素晴らしく、人の胸を圧しつけて離さない。


原作・共同脚本 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督・共同脚本 テア・ヴィスタンダル
撮影監督 ポール・ウルヴィク・ロクセット
美術 リンダ・ヨンソン
音楽 ピーター・レイバーン

出演 レナーテ・レインスヴェ,ビヨーン・スンクェスト,ベンテ・ボシュン,オルガ・ダマーニ,アンデルシュ・ダニエルセン・リー,バハール・パルス,イネサ・ダウクスタ,キアン・ハンセン

受賞 サンダンス映画祭特別審査員賞,ノルウェー国際映画祭アマンダ賞4冠 他

2024年/ノルウェー,スウェーデン,ギリシャ
 
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