7/6(土)、神奈川県民ホールで行われたネザーランド・ダンス・シアター(NDT)公演を観た。
ニューヨーク・タイムズによれば、「今年一本だけ舞台を観に行くのなら、NDTを観るべきだ」という絶対的な評価だった。
NDTの来日公演は5年振り。今回は高崎(6/30)、横浜(7/5,6)、名古屋(7/12,13)、全5公演。
作品は5本持ってきていて、トリプルビル(1公演/3作品ずつ)の上演となる。5つの公演は全て異なるプログラムになっているので、全演目を観るためには2公演以上チケットを購入しなければならない。S席は15,000円だが、その価値は充分にある。
私は当初名古屋の2日のうちどちらかを観にいくつもりだったが、演目を熟慮し、横浜公演の2日目を選んだ。
プレ講演も実は名古屋で見た。
・「ネザーランド・ダンス・シアター プレ講演 (改)」(’24.1.29記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986864881&owner_id=3341406
NDTとは?等ベーシックな部分についてはこのレポートを参考にして頂けたらありがたい。
この時講師をした唐津絵里は、愛知県芸術劇場の新芸術監督でDance Base Yokohamaのアーティスティック・ディレクターも務め、今回のツアー公演の統括プロデューサーとしてNDT(芸術監督エミリー・モルナウ)と交渉を行った。
結果、持ってくる事ができた5つの作品、それぞれの概要・振付家についても上のレポートで触れているが、列記するとこうなる。
1.《ジャキー》振付シャロン・エイアール(1971- /イスラエル)&ガイ・ベハール(1967- /同)
2.《ワン・フラット・シング,リプロデュースド》ウィリアム・フォーサイス(1949- /アメリカ)
3.《ソロ・エコー》クリスタル・バイト(1970- /カナダ)
4.《ラ・ルータ》ガブリエラ・カリーソ(1970- /アルゼンチン)
5.《アイ・ラヴ・ユー,ゴースト》マルコ・マッケ(1972- /ドイツ)
そして、この7/6(土)に私が神奈川県民ホールで観たプログラムは以下の通り。
《ラ・ルータ》35分
〜休憩〜
《アイ・ラヴ・ユー,ゴースト》28分
〜休憩〜
《ジャキー》35分
ダンス作品について書くのは難しい。とりとめないものになるのは承知で、それでも残しておきたい。
◆《 La Ruta ラ・ルータ》
「ラ・ルータ」はスペイン語で「道」を意味する。
霧の夜、車の行きかう道の脇に立つ屋根付きのバス停。蛍光灯がついたり消えたり。
黄色いセンターラインは暗闇の先へと続いている。
7人の男女がバラバラに暗闇の中から現れ、異様な動き(これもダンスか!)を見せ、また消えていく。シカやハクチョウもやってくる。
中には、歌舞伎の侍のような隈取と出で立ちの男も、着物の女と一緒にやってくる。白い棒を振り回し、見得を切る。女はそれを見て笑う。
作業員らしき男がやってきて、バス停の近くにある配電ボックスを開け、何か修繕したり、コードをつけたり外したり、火花も飛ぶ。
トレンチコートを着て現れた女は、やってきた車に乗せられて、いなくなる。
大きな衝突音がしたと思うと、シカが道路の縁に倒れている。
それを見にやってくる数人の男女。女はシカの胸の傷口からまだ動いている心臓を取り出し、隣から覗き込む男の胸に押しこむ。男は異常な身体反応を見せて地面をのたうちまわる。
戻ってきた車から降りる女。聴こえない悪言を車中に向けて吐き、猛スピードで去っていく車にハイヒールを投げつけ、コートを脱ぎ捨て、関節が外れる程絶望的に動きまわる。
気が付くと、薄っぺらな衣装が濡れて寒そうな女がバス停の影にいる。その眼は何処を見ているのか焦点が合わない。
霧が漂うように、ドミートリ―・ショスタコーヴィチ(1906-75/ソ連)の交響曲第11番《1905年》その第3楽章アダージョ〈永遠の記憶〉の旋律が忍びこんでくる。
心配そうに女を抱きかかえようとするスーツ姿の男、だが女はそれを拒否し、次第に錯乱し、アスファルト上に身を捩る。
男は諦め、拾った花を女の髪に差す。
いつか宙に浮きあがるバス停。
物語はあるようでいて、脈絡はない。
「ラ・ルータ」、その道は一体何処に続くのか?切り裂かれた夜?ひび割れた悪夢?現代の孤独?その狂気の病巣?
振付 ガブリエラ・カリーソ
美術 アンバー・ヴァンデンヘッケ
衣裳 G・カリーソ,ヨランダ・クランプストラ,イザベル・ブロクランド
出演 Alexander・Andison,Thalia・Crymble,福士宙夢 他
初演 2022年、アメリア劇場/ハーグ
◆《 I love you,ghosts アイ・ラヴ・ユー,ゴースト》
NDTが長く拠点としていたオランダ・ハーグのルーセント劇場は取り壊され、2021年にはアマーレ劇場がオープンした。
地階にあった旧劇場には多くの部屋があり、それらの間に迷路のような廊下があって、無数の壁・扉がそれらを遮断し、またつなげていた。そしてオーケストラが入るピット。これらは全て取り壊され埋められてしまった。
マルコ・ゲッケが新劇場用に振付をした初の作品が《アイ・ラヴ・ユー,ゴースト》である。
旧劇場のあちこちにいた精霊達はどうしただろうか?その愛着が本作の由来である。
ゲッケによるダンサー達の手足の小刻みな身体言語はまるで痙攣のようでもある。神経症的な、と言っていいかもしれない、不安、絶望、恐怖、欲望等がその独特な表現の背景にある。
音楽はアルベルト・ヒナステラ(1916-83/アルゼンチン)の《弦楽のための協奏曲》第4楽章。フリオーソとある通り激情的で、ハイスピードを貫き通す弦の不協和音はまるで悲鳴のようだ。
そのあと、急に往年の名歌手ハリー・べラフォンテ(1927-2023/アメリカ)の甘い歌声で《Try to Remember》がゆっくり流れてくる。
「忘れないで」と、これもゲッケの旧劇場の精霊達への語りかけに違いない。
そしてアイルランド民謡を基に作られた《Dany Boy》。第一次世界大戦に出兵する息子への両親の思い。
音楽がテンポダウンしても、ゲッケの小刻みな身体言語は変わらない。そしてダンサー達の無声の悲鳴、絶望的な表情。
切なくて、涙が出そうになる。
振付・美術・衣裳 マルコ・ゲッケ
照明 ウド・ハバーランド
出演 Alexander・Andison,Pamela・Campos,刈谷円香 他
初演 2022年、アメリア劇場/ハーグ
◆《 Jakie ジャキー》
暗闇の中から次第に浮かび上がるダンサー達16人の男女は、薄手のボディスーツをまとい、強烈な低音のミニマルビートに乗り、ルルヴェで(爪先立って)踊る。
言わずもがなだが、冒頭のチラシ写真も《ジャキー》公演より。
《ジャキー》のダンス構造は密集する集団と1人である。
天に向けて手を挙げ、身体を激しくくねらせる集団のダンスはエネルギーに満ち、全体としてステージ上を少しずつ移動する。そのさまは野卑で呪術的で祝祭的でさえある。
中からいつの間にか1人が浮かびで、集団と対極の位置を取り、力強く踊り、叫ぶ。
観ている者の身体もビートによって内側から揺さぶられ、動きださずにいられない。
(私の席は前から3列目、センターの31番だった。)
1人は、しかし、いつか集団に飲みこまれ、集団は熱狂の中から再び1人を弾きだす。
「 Jakie ジャキー」とは何か?人の名のようではあるが、それは誰か?
初めて聴いたこの圧倒的な音楽は、ドイツの実験的バンド「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン」(1980- )の限定盤アルバム《Grundstück》(2005)から〈GS1.〉。
坂本龍一の《レヴェナント:蘇えりし者》(2015)のメインテーマも使われていた。
振付・美術 シャロン・エイアール & ガイ・ベハール
照明 アロン・コーエン
衣裳 シャロン・エイアール
出演 Fay・van・Baar,Anna・Bekirova,高浦幸乃 他
初演 2023年、アメリア劇場/ハーグ
16:30、外へ出るとうっすらと雨が降っていた。
すぐ近くにある山下公園に出て静かな海岸沿い歩く間、耳の奥には《ジャキー》の低音のリズムがずっと響き続けていた。
ログインしてコメントを確認・投稿する