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2023年07月04日21:10

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本●「どん行列車の旅」

本●「どん行列車の旅」(サンケイ新聞出版局)
千田夏光・著  山田脩二・写真

表紙には「どん行列車の旅」という黒文字のタイトルよりも大きく、ピンク地に白抜きとなった「DISCOVER JAPAN」の文字がおどっていた。
奥付には「昭和48年5月1日」1刷とある。
昭和48年(=1973年)といえば私が高校3年生の頃、当時の国鉄がさかんに宣伝してた「ディスカバー・ジャパン」の標語は知ってはいたものの、旅行なんて夢のまた夢、ようやく自分の金でひとり旅に出かけることが出来たのは、5年後の就職してからのことだった。
とはいえ、今みたいに旅行に興味がなかったというとそうでもない。
「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンから派生したといわれるテレビ番組「遠くへ行きたい」は永六輔、伊丹十三を経て渡辺文雄の時代までよく見ていた。

前置きが長くなってしまった。
今から50年前、1970年代初頭の鉄道旅行、それも鈍行列車の旅がいったいどういうものだったのか、乗り鉄のひとりとして知っておきたいというものだ。
読み終えて印象に残ったのは、駅弁と蒸気機関車とボックス席のこと。
本書には北は北海道の宗谷本線や釧網本線から、南は九州の肥薩線まで、全部で8編の鈍行列車旅が収録されている。
その8編ごとに、著者が乗った路線にある駅弁を紹介する、コラム記事が載っていた。
当時、幕の内みたいな一般的な駅弁の値段は150円〜250円ぐらい。
「うにめし」や「うなぎ飯」や「松茸めし」になると300円〜400円だった。
そういえば、長いこと、列車の中で駅弁を食べたことがない。
今夏の青春18きっぷ旅では駅弁を食べることにしよう。
本書を読んでいて、おもいがけずマドンナ役を池内淳子が演じた『男はつらいよ 寅次郎恋歌』(1971)が登場した。
それは、著者が『〜寅次郎恋歌』に登場する高梁(たかはし)という町を見たくて、伯耆大山(ほうきだいせん)から岡山まで伯備(はくび)線を南下する旅を記した一編でのこと。
『男はつらいよ 寅次郎恋歌』は封切り時に見ていた。
その高梁には、さくらの旦那・ひろしの実家があるという設定だ。
記憶間違いでなければ、『〜寅次郎恋歌』はそれまでの撮影フィルムがフジカラーだったのが、本作はイーストマンカラーだったとおもう。
青っぽいフジカラーから、なんとなく赤みがかっていた。
念願叶い、著者が備中高梁(びっちゅうたかはし)駅に降りると、貨物を引いた蒸気機関車が走っていた。
1973年というのは、全国から蒸気機関車が消え去る時期にあたっている。
本書には何度か著者が機関士といっしょに黒光りする蒸気機関車を仰ぎ見るくだりがでてきた。
蒸気機関車に乗っての長距離旅行、乗りそこねてしまった者としては悔しい限りだ。
そして、この頃の長距離列車といえば背もたれが転換できないボックス席、モケットの背中越しに後ろ席の人の動きが伝わってくるやつだ。
著者はこのボックス席を活用して、同席した若い娘さんと語り合うことに。
ときにその会話は社交辞令を越え、ちょっとした恋愛感情の域にまで達してしまう。
一瞬、旅行記なのか私小説なのか分からなくなる、1970年代の高揚した気分が本書の読みどころだった。
とにかく、いまの時代に、ナンパする鉄ちゃんなんて、聞いたことがない。

著者の千田夏光(せんだかこう)は、後に「従軍慰安婦 声なき声 八万人の告発」というルポルタージュを書くことになる。
今に続く“従軍慰安婦問題”のきっかけを作ったひとりだ。
ちなみに東映の美人女優・中島ゆたかが主演した『従軍慰安婦』(1974)は彼のルポルタージュが原作となっている。

本書に数多く掲載された山田脩二の写真がとてもいい。
いまになって見ると、とてもノスタルジックで、しみじみとした気分になる。
彼の作品集が鶴舞の図書館にあるみたい。
ページをめくりたい本がどんどん増えてきて、ホント困っちゃう。



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