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2022年01月30日20:11

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本●「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」

本●「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」(東京創元社)
辻真先:著

読了。

一昨年末、3つの主要なミステリ小説の年間ベストテンで第1位を獲得した作品。
ベストテンの3冠を達成したのと同時に、著者の辻真先が88歳という高齢であったことも話題になった。さらに、舞台が私の住む名古屋だという。
さっそく購入し読みはじめたらジュブナイルみたいだったので、とたんに読む気が失せ、そのまま積ん読になってしまった。
数日前からふたたび読みはじめたら、面白くて一気読みだ。
前回読むのを中断した以降に、ジュブナイルとは言えないような展開が待っていた。
敗戦後の新制高校に通う生徒たちと女教師が中心となって、連続する密室殺人とバラバラ殺人事件の謎を解く本格ミステリなのだが、結末は苦くて残酷な話だった。
そのいっぽうで、「昭和24年」という時代設定が、登場する高校生たちに新しい時代への希望を託している。
88歳の辻真先は、たしかに今となっては少々くたびれてしまった「戦後民主主義」を、敗戦後の少年時代から、老いた今に至るまで、信じ続けてきたのだろう。
戦前戦中の軍国主義や、本作中の言葉を借りるなら家父長制的な封建主義に戻ってはならないという、老作家からのメッセージを謙虚に受け止めたい。

この前に読んだ鮎川哲也の「黒いトランク」同様に、本格ミステリの謎解きパートに手こずってしまった。
ほんとうに情けない。
これでも数独には少々自信があるが、数独で使う脳と、謎解きのロジカルシンキングで使う脳は、違うみたいだ。
それでも、ミステリらしいラスト5行の見事な幕切れに、思わず涙がこぼれそうになった。

見どころならぬ、読みどころが「昭和24年」の、世相や風俗と名古屋の情景だ。
「城東園」という地名を久しぶりに目にした。
栄にあった、おでん屋の「辻かん」は楽屋落ち。
名古屋名物大須のういろうは健在なれど、名古屋人自慢の「100メートル道路」は用地の買収中だった。
名古屋ネタだけでなく、主人公たちが高校の推理小説研究会と映画研究会のメンバーということで、横溝正史や小栗虫太郎の名に、『青い山脈』、『銀座カンカン娘』、『お嬢さん乾杯』といった邦画、『ガス燈』や『断崖』といった洋画と、数多くの映画タイトルが登場する。
そして、謎解きパートに黒澤映画がひと役買うのも、映画好きとしてはたまらないものがあった。



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