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2022年01月27日21:16

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映画日記『声もなく』

2022年1月27日(木)

『声もなく』(2022年)
監督:ホン・ウィジョン
矢場町・センチュリーシネマ

農家から仕入れた卵をワゴンに積んで町中で売りさばいているふたりの男がいた。
ひとりはおしゃべりな中年男、もうひとりは喉を潰したのか声を出すことができなくなった若い男。
卵売りだけでは食っていけないふたりは、裏社会で殺された死体の後始末を請け負っていた。
そんなふたりに、身代金目的で誘拐された小学生の女の子を1日だけ預かってほしいとやくざが持ちかけた。
しかたなしに、若い男が女の子を預かる。
ところが、話をもちかけたやくざが次の日に殺されてしまった。
1日だけのつもりが、若い男と女の子の共同生活が続いていく。
そして・・・・

誘拐された子どもが、根っからの悪人でなく、少々間抜けな人たちと暮らすというストーリーが、チェン・ユーシュン監督の『熱帯魚』(1995)を思い出させた。
本作も『熱帯魚』と同じよう、途中まではのんびりとした映画だ。
なんとなく、のんびりとしたままハッピーエンドで映画が終わりそうになる。
ところが、のんびりとした田舎の風景の中に、突然深い闇があらわれる。
のんびりどころか、ラストがまるで大島渚の『愛と希望の街』(1959)だった。
そう、『声もなく』は、『パラサイト 半地下の家族』(2019)や『バーニング 劇場版』(2019)と同様に、社会に横たわる階級を描いた映画だ。
たしかに韓国社会に階級は存在すると、決然と言い切る韓国の監督たちと比べ、日本の監督たちはいまひとつ甘い。
たとえば、最近見た『さがす』のように貧困は描いても、階級という視点はない。
もちろん、いまの日本に階級は存在するのかという議論はあろうが、悪化する貧困率などのニュースに接すると、個人的には存在するとおもう。

見どころは声を失った若い男を演じたユ・アイン。
シュッとした『バーニング 劇場版』とはうってかわって、あきらかに体重を増やし、まったくの別人になって登場する。
増量したことにより、二枚目がいっきに愚鈍な男になった。
と同時に、現代の貧乏人はやせ細るよりも、貧しい食生活によって太ってしまうという現実を見事に反映させていた。
もうひとりが、誘拐される女の子を演じたムン・スンア。
利発で可愛い。とはいえ、ユ・アインとは別の階級に生きている。
鳩を撃ち殺せ!と命ずる、『愛と希望の街』のブルジョワ娘ほどではないが、残酷な決断を下すという意味では同じ。
ただ『愛と希望の街』と違うのは、ムン・スンア扮する女の子が裏で鬱屈としたものを抱えていること。
彼女が抱えてしまった鬱屈は、さきほど書いた階級とは、また別の問題だ。



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