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2021年05月06日19:16

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SPAC公演『アンティゴネ』

(続き)

前の日記に書いた関連企画の「広場トーク」は17:30に終了した。
公演の始まる18:45迄に時間があったので、駿府城公園内の出店でホットコーヒーを買い、緑陰のベンチで事前に準備しておいたサンドイッチを食べた。

「ふじのくに野外芸術フェスタ2021」SPAC公演『アンティゴネ』は、同公園内の紅葉山庭園前広場で行われる。
屋根のない野外公演で、「雨天決行」が前提である。傘を差すと後ろの人が見えなくなってしまうで、各自レインコートを用意して下さいとの事前通知があった。
当日、雨の心配はなかったが、翌5/5は午前中から雨が降り続いた。5日のチケットを買っていた人はどうしただろうか、と、心配になる。
陽が落ちると急激に寒くなって震えた。翌日はそれに雨も加わり、演者も観客も大変だったろう。

18:00過ぎに入場。入口で熱を測り、事前にネットから入力した来場者登録票を示し、紙のリストバンドを付けてもらった。
入口では、いつものSPAC公演のように宮城聰がにこやかな笑顔で迎えてくれた。
「広場トーク」で質問をした際には、宮城芸術総監督がマイクを持ってくれて、何だかスタンド代わりをさせたようで申し訳なかった。質問したのは、結局私1人だった。
宮城も私を憶えてくれていて、格別の(!笑)挨拶を交わした。

ステージの横から入ると、開演前だが、数人の役者が既に水を張ったステージ上をゆっくり歩いていた。
フォト

役者の数は次第に増え、彼等は手に手に小さなLED照明の入ったグラスを持っていて、その縁を擦っている。グラスハーモニカと同じ原理だろう、和声とは無縁の不思議な音が、野外劇場の空間を、古代からの風と伴に吹き抜けていくようだった。

私の席はA-24、一番前の列の中央やや右寄り、大変に良い席だった。
「広場トーク」のパネリスト清水華澄も、私の前を通って上の方の席に上がっていった。ちょうど目が合い、相互に「先程はどうもありがとうございました」と。何だか知り合いになったような気持である。

『アンティゴネ』はソポクレスが紀元前442年頃に書いたギリシャ悲劇だが、後世、多くの人が書き換えて、時代々々の『アンティゴネ』を演じてきた。
宮城聰構成・演出の『アンティゴネ』は、2017年の駿府城公園のプレ公演を経て、同年の「アヴィニョン演劇祭」オープニング作品として招聘され、アヴィニョン法王庁中庭で公演された。
アジア圏の劇団がここでオープニングを飾ったのは初の事だったとの事である。
その独創的な演出と背景思想は大きな評価を得て、2019年にはニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーでも上演され、再び激賞された。

以下写真3葉は、アヴィニョン演劇祭でのシーン。
法王庁の30mある壁に映し出されたアンティゴネとテーバイの王クレオンの巨大な影。
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後方に打楽器奏者達が横一列に並んでいるのが見えるだろうか。
音楽は本公演の大きな魅力の1つだ。
粒子は粗いが、こちらの写真の方が分かり易いかもしれない。
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ステージには幅40m×奥行15mの極く浅いプールが設置され、俳優達はその中で演じ、踊った。
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今回の公演でも、プールと岩は、その時の大道具と同じものが使用されたようだ。
駿府城公園の同所には都合の良い建物がないので、壁の代わりに、鉄パイプを組んで薄いスクリーンが張られた。
スクリーン中央には、英語字幕が表示されもした。

◆あらすじ

古代ギリシャ・テーバイ、先代の王は、あの「エディプス・コンプレックス」の名の元になったオイディプスである。彼は出生の秘密(自分の妻が母であった事)を知り、自らの眼を潰し、追放の旅先で死ぬ。妻であり母でもあったイカオステも自死した。
オイディプスとイカオステの息子ポリュネイケスとエテオクレスの兄弟は、テーバイの王位継承のため争い、ポリュネイケスはアルゴスに追放される。
彼は諦めず、アルゴス勢力を借りてテーバイに攻め戻り、遂にエテオクレスとの一騎打ちとなるが、刺し違えて2人共死んでしまう。
この相打ちの場面が、本舞台の冒頭である。

王位は、イカオステの兄クレオンが継ぐ事となった。
新王クレオンは、エテオクレスを手厚く葬り、ポリュネイケスを反逆者として、その死骸を野晒しにし、野鳥や犬共の餌とするよう国中にお触れを出した。この命に背く者は死罪に処す事も打ち出した。

アンティゴネとイスメネは、オイディプスとイカオステの娘である。ポリュネイケスとエテオクレスからすれば妹に当たる。
アンティゴネは、クレオンのお触れに従わず、野晒しとなっている兄ポリュネイケスの死骸を丁寧に埋葬しようと決心する。
妹イスメネは姉を諫めようとするが、アンティゴネは聴こうとせず、兄に弔いの礼を行う。
クレオンは、アンティゴネを捕まえさせて、宮廷に引き出させる。
アンティゴネはそこで主張した、即ち、古来からの人間の自然に基づく法、つまり「神の法」を大事にすべきで、死人には礼を尽くさねばならない、と。
対して国の法、つまり「人間の法」の体現者である王クレオンは烈火のごとく怒る。

アンティゴネにはハイモンという婚約者がいるが、彼は実はクレオンの息子である。
ハイモンは、世の人々の多くがアンティゴネに同情しているとして、王たる者は民の声を聴くべきだとクレオンを諫めるが、彼は聴く耳を持たない。
予言者テイレシアスも、クレオンに忠告するが、彼の決意は変わらない。
クレオンは、アンティゴネを地下牢に送り、幽閉する決定を下す。

アンティゴネは、牢への途上で自死し、それを悲しんだハイモンも自らの剣で命を絶つ。
その報を聴いたクレオンは、長い嘆きの叫び声をあげる。

◆宮城聰の狙い

殊にトランプ前米大統領の時代から、世の中は分断の道を突き進んでいるように見える。
現代は「味方か敵か」「善か悪か」という二分の論理で人々を容易く切り分けようとする。
しかし、本当にそんな簡単に分けられるだろうか。
「やつらは悪魔」だと見下している時、向こうの人達も「あいつらは悪魔だ」と指差しているに違いない。
こうした行為の何と横柄で傲慢な事!
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、同じ砂漠地帯で生まれた3つの世界的な宗教は同じ性向の根を持っていると言えるかもしれない。

日本には「死んでしまえば人みなほとけ」という死生観がある。
現在は相対立している人と人も、根源的な違いではない。
「魔が差す」という言い方もあり、一時的な偏向かもしれない。
現世で悪事を働いても、必ずしも地獄に堕ちるのでなく、極楽往生できる道も残されている。
人と人を分け隔てしない考え方、愛と許しの思想で、『アンティゴネ』をキリスト教の特別な地の1つであるアヴィニョンで演出してみたい、宮城はそう考えたようだ。

◆演出の特徴/見どころ

・「水」
ステージ上に張られた水(プール)は、謂わば「アケロンの川(三途の川)」の象徴だろう。
それを渡って、人はあの世とこの世を行き来する。
あの世へ行けば、人は皆死者であり、生きている間にどんな発言をして人々にもてはやされようが、国や組織のトップとなってそれ動かそうが、同じである。
アンティゴネもクレオンも等しく死に、あの世では同じ亡者である。

・「盆踊り」
死んだ人の魂をこの世からあの世に送るのが日本の「盆踊り」の風習である。
本公演のラスト、主役も端役も皆一緒になって、盆踊りを踊る。
争った人達の魂を鎮め、あの世での穏やかな暮らしを寿ぐ(ことほぐ)。
上で紹介したアヴィニョンの写真にも、そのシーンが収められている。

盆踊りが終わると、筏に乗って静かに僧侶がやってくる。
筏の上にはろうそくが中に入った「精霊流し」がいくつも置かれていて、僧侶はそれを1つずつ水に浮べていく。

・「二人一役」
演者達は「ムーバー」と「スピーカー」2人によって1つの役をこなす。
ムーバーが自身の肉体を動かし、近くでスピーカーが彼の声を発する。
能や人形浄瑠璃の手法とも似ている。
スピーカーが多人数となった時には、それは集団の声ともなり、ギリシャ劇の「コロス」とイコールになる。
この手法を宮城は30年近く追求してきた。
私が2014年10月に観た、静岡文化芸術大学×SPAC連携公演『綾の鼓』もこの手法によっていた。
参)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1933323539&owner_id=3341406

影を重視する演出も、この手法と重なるものだろう。
たかがこの100年ばかりのリアリズム演劇の対極にあると言ってもいい。
ギリシャ劇では、現代人がTVのクローズアップで慣れた役者の微妙な表情等、意味をなさない。

・「音楽」
コロスらは楽器も演奏する。
インドネシアのガムランのような、打楽器によるアンサンブルである。
西洋音楽の精緻さとは異なる不思議なリズムで、ズレたり合ったりしながら進んでいく。まるで声明のようでもある。

これは演出とは違うだろうが、陽が落ちると、照明の光の中、舞台と客席の上をタンポポの種がふわふわと舞っていくのが見え、心に残った。
それらはまるで遊ぶ精霊達のように、コントロールされず、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしていた。

20:30終了。
夜はさすがに冷えた。

静岡駅へ急ぐ帰り道に撮影した、薄闇の駿府城内濠と巽櫓(たつみやぐら)。
私が静岡にいた頃にはなかったものだ。
フォト

写真はピンボケだが、まあいい、大変に実のある幸せな半日になった。
 

原作 ソポクレス
構成・演出 宮城聰
空間構成 木津潤平
照明デザイン 大迫浩二
衣裳デザイン 高橋佳代
音楽 棚川寛子

出演       ムーバー  スピーカー
 アンティゴネ  美香理   本多麻紀
 クレオン    大橋浩一  阿部一徳
 イスメネ    布施安寿香 榊原有美
 ハイモン    大内米治  若菜大輔
 テイレシアス  渡辺敬彦  吉植荘一郎
 ポリュネイケス 三島景太
 エテオクレス  武石守正

 演奏隊 池田真紀子 他計6名
 合唱隊 赤松直美 他計9名

公演 2021年5/2〜5、駿府城公園紅葉山庭園前広場特設会場

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