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2018年11月22日00:13

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映画日記 『世界で一番ゴッホを描いた男』

2018年11月21日(水)

『世界で一番ゴッホを描いた男』(2018年)
監督:ユイ・ハイボー&キキ・ティンチー・ユイ
伏見・ミリオン座

中国の深セン近郊には、名画の複製を作っている区域があった。
複製といっても手描きの油絵だ。
この区域に山村から出稼ぎでやって来て、以来20年近くゴッホの複製を描き続けてきた男、チャオ・シャオヨンが主人公。
彼は同じ絵描きの妻とともに、絵筆一本で家族をやしなってきた。
そんなチャオ・シャオヨンには20年来の夢があった。
それは写真などではない実物のゴッホの絵を、自分の目で見ることだった。
そして、その夢がかなう日がついにやって来た・・・・

複製画を作る、アトリエというより家内工業の作業所みたいなところで、絵描きたちが使う大きなパレットには、原色のままであったり、複雑に混ぜたりしたさまざまな絵具がのせられていた。

縮まったとはいえ、今も厳然と横たわる中国とヨーロッパの経済格差が浮き彫りになる。
とはいえ、急速な経済発展で高層ビルが立ちならぶ深センの風景は、まるで直線で構成された絵画のようだ。
そんな高層ビルが立ち並ぶ深センと、チャオ・シャオヨンが里帰りした山村の貧しい暮らしぶりに、今度は中国国内の格差が浮き彫りになる。
チャオ・シャオヨンは「自分たちは職人なのか、芸術家なのか?」と自問し、葛藤する。
実物のゴッホを見て、やっぱり足もとにもおよばないと、座り込み落胆する彼の姿が印象的だ。
いっぽうで、彼はゴッホが描いた「夜のカフェテラス」の店を訪れ、見あげた夜の青さに、これがそうか!と、子どものように歓喜する。
そこには、食べるためにゴッホを描きはじめ、描き続けるうちにゴッホの虜(とりこ)になり、やがて愛してしまった男の姿があった。
突然チャオ・シャオヨンが、実は貧しくて小学校しか出ていないんだ、と泣きじゃくる。
彼にとって長い間のコンプレックスだったのだろう。
そんな彼のかたわらにはいつも妻がいた。
チャオ・シャオヨンが描いた自分たちの職場の絵を前にして、夫婦が昔話を語り合うシーンが出てくる。
これまで苦楽をともにしてきた妻への愛妻記だった。

1本の映画の中に、さまざまな思いが渾然となって詰まっている。
カンバスの上に、ことなる色合いの絵具を点々と塗っていくと、やがて光に満ちた風景が浮かびあがるような映画だ。
その風景とは、夢を語るチャオ・シャオヨンという男の後ろ姿だった。


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