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2016年10月26日02:38

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映画日記 『男の顔は履歴書』

遠征2日目。
『ハドソン川の奇跡』に続いて、加藤泰監督作品を3本見た。
まずはこれ。

2016年10月23日(日)

『男の顔は履歴書』(1966年)
加藤泰:監督
大阪九条・シネマ・ヌーヴォ

以前、浅草の3本立て映画館で一度見ている。
タイトルがタイトルなので、安藤昇がスカーフェイスな組長になって暴れまくるヤクザ映画だろうと見に行って、大うっちゃりを食った映画だった。

オープニングで安藤昇がヤクザではなく、ちょびひげを生やしたやる気のない町医者として登場したのには、正直驚いてしまった。

そのオープニングシーンの前に、次のよう字幕がまず映しだされる。

“この映画は敗戦後の日本の混乱した時代に想定したフィクションである。そして、世界中の人間が互いに愛し合い、信じられる日を信じて作られたドラマである”

見終わったら、この通りの映画だった。

敗戦直後のとある町、韓国人の劉(内田良平)率いる三国人グループの九天同盟がこの町の闇市マーケットに目をつけた。
闇市を追い払い、巨大な娯楽センターを作ろうという魂胆だ。
貧しい闇市の住民たちに九天同盟の嫌がらせが始まるが、敗戦国の警察はうかつに手が出せない。
その諍いに、町医者の雨宮(安藤昇)が巻き込まれる。
戦地では腕の立つ軍医だった雨宮だが、帰還してからは腑抜けになり、いまは看護婦兼愛人のマキ(中原早苗)との愛欲に溺れる生活だった。
そんな雨宮の前に、戦地で部下だった崔(中谷一郎)が現れた。
崔は九天同盟の幹部だった。
理想家で雨宮の大学生の弟・俊次(伊丹十三)と、敵対しながらも惹かれ合う朝鮮人娘・恵春(真理明美)の悲しい恋の結末や、沢淑子や石井富子といった加藤泰映画の常連が演じる夜の女たちの猥雑な喧噪、弱気なやくざの親分という異色な役柄を演じた嵐寛寿郎、朝鮮人のチンピラ役で、野犬のように吠えまくる菅原文太!
これは雑多な登場人物たちのひとり一人が際立つ群像劇。
登場人物たちのさまざまな運命が折り重なり、雨宮はメスを捨て、銃を手にした・・・・

「朝鮮人!」「敗戦国民!」と互いを罵る怒号が画面に飛び交う。

いまも陰湿な形で横たわっている民族問題を、あけっぴろげ娯楽映画として撮っている。
映画が終わったロビーで、「今なら、作りたくても作れないような映画」という会話が聞こえた。
たしかに長い月日を瞬時に飛び越えてこの映画を見ると、この50年間で日本が大きく右旋回してしまったことを実感する。
いっぽうで加藤泰なら「今であっても、作りたい映画なら、作っただろう」とも思った。

時が経ち、さびれた診療所に交通事故に遭った男が運びこまれた。
事故を知った男のひとり娘が駆けつけた。
ちょびひげの町医者は、もっと大きな病院に行けと、なぜかつれない。
しかし、容体が悪化し動かすと危険だ。早く手術をしなければならない。
そんな切羽つまったときに、母親が現れた。

戦地で一度は心を通わせたことのある男と、かつて一度は愛した女。
そして、朝鮮と日本、ふたつの民族の男と女に間に生まれた少女のために、自堕落だった町医者がふたたびメスをとる。
世界中の人間が互いに愛し合い、信じられる日を信じて、「よーし!!」と気合いを入れて手術に立ち向かうラストシーンの安藤昇にグッとくる。

傑作!!



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