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2016年01月06日02:02

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本●「ヌードと愛国」

本●「ヌードと愛国」(講談社現代新書)
池川玲子:著

読了。

一昨年前に出版されたとき、よく新聞の書評に取り上げられていた。
その当時からずっと気になっていた。
“ヌード”の文字が躍るタイトルにも引かれるが、それ以上に著者の名前が気になってしかたがなかった。

店頭で実物を初めて見たとき、東映のスケバン女優だった池玲子がヌードの本を書いたのかと目を疑った。
よく見ると、池玲子でなく池川玲子だった。
「なんだ」と落胆したものの、著者の名前が若いころ熱心に追いかけていた女優の名に似ていたからという、理由にもならない理由で買い込んでしまった。
ずっと積ん読だったが、年末の旅行に持っていった。
車中で読み出したら、面白かった。

手はじめに高村光太郎が書いた「智恵子抄」のヒロイン、智恵子さんにスポットがあたる。
私は知らなかったのだが、若い頃の智恵子さんは画家志望だったらしい。
彼女が画家の卵の男性たちにまじって、アトリエで描きあげた男性ヌードのデッサンにまつわる話が冒頭に出てくる。
その頃、ヌード画では男女をとわず股間の象徴をぼかして表すのが主流だった。
ところが、智恵子さんのデッサンには男性の股間が驚くほどリアルに描かれていたため、当時大評判になったという。
行間から、むんむんと熱いものが漂ってくる。
そして、その智恵子さんのデッサンを見ることになるのだが・・・・何、これ。
どこがリアルやねん、と関西弁でつっこみたくなるような代物だった。

当時の評判と、現在の目で見た感想には、あまりにも大きい落差がある。
その落差が、どうして生じることになったのか?
その謎の裏側には、白馬会と明治美術会という新旧二大派閥による西洋画壇の覇権争いが横たわっていた・・・・
講談みたいな語り口で、ページが進む。

基本は美術史の本ではあるが、映画についての言及も多い。
日本映画史上初めて女性ヌードが登場するのは帰山教正の『幻影の女』(1920年)であり、その次が新東宝の前田通子主演作『女真珠王の復讐』(1956年)というのが定説になっている。
ところが、その間に『日本の女性』(1941年)という作品が存在していたという。
1941年、12月には真珠湾攻撃がはじまるという年に、なんとハリウッド関係者の発案による海外向け日本紹介映画の『日本の女性』が作られていたのだ。
その中には、美術学校でポーズをとる美しい女性モデルのヌードが出てくるという。
そもそもがアメリカ市場を念頭にした『日本の女性』だったが、戦争の勃発にともなって、ナチスドイツ向けに内容が大幅に改変されていくことになる。
数奇な運命に見舞われた『日本の女性』の顛末も興味深い。

その他、武智鉄二の『黒い雪』や満映の女性監督・坂根田鶴子にもページを割いているといった具合に、映画好きにとっても勉強になる本だった。

帰山教正(かえりやま・のりまさ)の名前を目にしたのは、大学の映研以来だから、40数年ぶりのことだった。



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