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2019年09月18日22:52

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映画 『よこがお』 / 深田晃司

9/17(火)、シネマe〜ra浜松で『よこがお』を観る。

深田晃司が監督をした作品の鑑賞はこれが5作目。彼の新作は必ず観ようと思っている。
2016年制作の《淵に立つ》はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した。
参)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1956881503&owner_id=3341406

主人公の中年女性 市子(いちこ)は終末医療の訪問看護師、その仕事振り、死に直面する病人だけでなく家族を含めた人達に対する面倒見の良さ等から、周囲より信頼される人物だった。
ある日、その訪問先の家庭の末娘、中学生のサキが行方不明となる。誘拐と判明するが、1週間後に捕まった容疑者は、市子の甥(妹の子)の辰男だった。
背後での手配等、事件との関与を疑われた市子は、ある人物の予期せぬ裏切りに会い、事実が捻じ曲げられて伝わり、マスコミから、社会から糾弾される。
これによって、訪問先の家だけでなく、派遣元の看護師ステーションも辞めざるを得なくなるし、並行して進んでいた医師との婚約も破談となってしまう。アパートも引っ越しする事になる。
ほんのちょっとした事柄をきっかけとして、市子の人生や培ってきたものはガラガラと音を立てて崩壊していく。その理不尽と怖ろしさ。

しかし、ここ迄で終わるとすると、物語だけを見るなら、他にもありそうな話だ。
映画『よこがお』では、実はこれはまだ1/3である。半年後の進展、4年後の進展と続く。しかも、この3つの時間は、平行して境目なしに進行する。時には夢や幻想も挟まれ、観客は現実が何か分からなくなりそうだ。それは事件に翻弄され、混乱する人間達の脳内に近いと言えるかもしれない。

深田晃司は、これらをミラン・クンデラ(1929- )の小説『冗談』(1961-65)に学んだと言っている。
私は2017年に読んでいる。以下レポート参。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960629807&owner_id=3341406

小説の主人公ルドヴィークは、共産主義時代のチェコに住む大学生。彼女宛に「冗談」で書いたハガキの文面が表沙汰となり、大学を追われ党籍も剥奪、あれよという間に転落していく。
ルドヴィークは強制的に兵役や労役に送られ、すさんだ生活を送るさなかも、この記憶を生きるための糧として持ち続け、転落のきっかけを作った人物達にいつか復讐しようとする。
この小説でも、15年間の時間が行ったり来たりする。
ルドヴィークは、最後には、復讐がもはや意味のない事態となっている事に気づかされ、自分の15年に亘る執念が喜劇でしかなかったと知るに至る。
転落物語の展開も、時間の使い方も、深田自身が言うように、多くのヒントを貰ったに違いない。

面白いのは、幕開けの1場面からである。
『冗談』では、15年ぶりに故郷に帰ったルドヴィークはまず理髪店に行くのだが、偶然にも、その女理容師は炭鉱労役時代に愛した女だった。しかし、彼女はルドヴィークに気づきもしない。
一方『よこがお』では、市子(リサと名前を変えている)が美容院で男を指名する。その美容師 和道は、訪問先だった家庭の娘サキの姉 基子(もとこ)の彼氏だった。
これは、随分あとから分かるのだが、誘拐事件に巻き込まれて転落させられた半年後の事で、復讐のための第1歩だった。
このシーンも、岡田が巧妙にクンデラの小説を引用しているのが分かる。

映画の時間を整理しておこう。
・過去
半年前。誘拐時事件の発生と市子の理不尽な転落。
上で書いた「予期せぬ裏切り」をした「ある人物」とは、基子である。
・現在
半年後。復讐に執念を燃やす市子。
和道と性的な関係を持つ事が、基子に対する復讐になる筈と思い込んでいた。
・4年後
甥の辰男の刑務所からの出所。市子は別の場所に引っ越し、別の仕事をして何とか生活している。

市子はある所で偶然基子を見かける。基子の方は市子の姿を認めていないようだ。
基子は、その服装からして介護福祉士になっているらしかった。
基子が市子と同じ資格を持とうとしていたのは知っていた。そのための力添えもしていた。
その訳は、当時基子が市子に憧れ以上の感情を持っていたせいだが、そんな事は、市子の知る由もない。
市子は、突発的な情念に駆られる。

人間についての掘り下げの深さ、深田のそれは尋常でない程だ。
市子役は筒井真理子が演じている。『淵に立つ』では、毎日映画コンクール他で最優秀主演女優賞を獲得した。
深田は、最初から筒井をこの役に当てて脚本を書いた。
筒井の演技は、多層に設定された時間の中で、怖ろしくもまた滑稽に人間の深層を我々の目の当たりに立体的に示してくれる。


監督・脚本・編集 深田晃司
撮影 根岸憲一
美術 原田恭明
照明 尾下栄治
音楽 小野川浩幸

出演 筒井真理子,市川実日子,池松壮亮,大方斐紗子,吹越満 他

2019年
 
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