川上未映子(1976- )の集大成と称される長編小説『夏物語』を読む。
初出は「文学界」誌2019年3月&4月号。単行本は同7月に文藝春秋から発行された。
同年毎日出版文化賞受賞。
私の手許にあるのは2021年刊の文春文庫。全652ページ。
装画 村瀬恭子《Ribbon》(2002)
世界40ヶ国以上で出版され、2020年米「TIME」誌ベスト10、ニューヨーク・タイムズ必読100冊、米図書館協会ベストフィクションに選出された。
小説は第一部と第二部で構成されている。
・第一部「二〇〇八年 夏」
・第二部「二〇一六年 夏〜二〇一九年 夏」
第一部は2008年に芥川賞を受賞した『乳と卵』を再構築したもの。
〈参〉レポート「川上未映子『乳と卵』」(2008.6.28記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=852293147&owner_id=3341406
他に川上未映子は『ヘヴン』(2009)、『あこがれ』(2015)を読んでいる。
〈第一部〉
主人公 夏目夏子の父親はDVをふるう男だったが家族を放って失踪、その後は母親と祖母の"コミばあ"、姉の巻子と大阪で貧乏暮らしをしていた。
祖母と母をがんで亡くしたあとは、巻子が水商売で生活を支え、夏子は20歳になった時に上京、独り暮らしを始めた。小説家になる夢を描くが、なかなか思うようにならない。
2008年の夏、シングルマザーとなっていた巻子と、思春期を迎えたその娘 緑子が、30歳になった夏子の狭いアパートを訪れる。
夏子は1本短編小説の出版に漕ぎつけていたが、目立った評価もされず、あとが続かない。
姉 巻子は来年40歳を迎えるにも関わらず、社会的価値(水商売で生きていくための)を目的としてか、豊胸手術願望にはまり、今回の上京は美容外科医院の下見も兼ねていた。
一方、12歳になった緑子は自身の身体に現れる女性への変化に馴染めず、勝手に変化していく身体の「なかに、とじこめられている」と思うようになっていた。
それは性を巡って母への嫌悪感に繋がり、会話を拒否するようになった。必要最低限はノートに書いて答える。
夏子も姉の気持ちは理解できないが、緑子の態度は夏子に対しても同様だった。
3人は結局打ち解ける事無く、3日間滞在後、姉と姪は大阪へ帰っていった。
〈第二部〉
小説は停滞したまま、38歳の夏子はふと「自分の子供に会いたい」と思うようになる。
20歳前後の頃、成瀬という青年と付き合っていた事を思いだす。
このままいけば彼とは結婚するのだろうとぼんやり思っていた。
ある日性的な関係になったが、行為には辛さが残るだけだった。
その感覚は、おそらく彼にも伝わって、次第に関係は醒めていった。
それ以降、性行為には抵抗感が強く、パートナーもいない。したがって、出産に至る訳はないのだが、「自分の子供に会いたい」という気持ちは募っていった。これは一面矛盾するようにも見えるが。
偶然、夏子はAID(Artificial Insemination by Donor/非配偶者間人工授精)という事を知る。
これについて、本やネットやらで調べてみるが、ハードルは高い。
アンダーグラウンドでは"〇〇円で精子提供します、連絡下さい"などというサイトがある事を知り、実際その気持ち悪い男と面会しもするが、彼女は逃げ帰る。
周囲の知り合い達とAIDについて会話してみる。その会話は産むという事、出生するという事そのものにも収斂する事となる。
書店バイト時代の友人で今は主婦の紺野りえは、夫婦や親子関係に違和感を感じつつもそれを捨てる事はできないと逡巡する。
夏子の担当編集者で独身の仙川涼子は、「私はこどもを産まなくてよかったなと思っている」、自分の時間は完璧な程に削られるし、仕事も大変になる、でも普通「みんなそんなの分かっていて産むのよね」と。
「自分が受験だとか就職だとか結婚するのしないのめんどくさいことをいっぱいやってきたのに、子どもが同じことをまた全部やるわけでしょう」、「ご苦労なこと」と皮肉る。
「作家が凡庸な幸せを求めるのか」?、あなたは才能があるんだから、子どもなんかよりも小説を書けと挑発する。
シングルマザーで作家仲間の遊佐リカは、男女は決して分りあえず、「AID万々歳。男なんて要らないんだ。女の意志だけで産んでいい」と手を叩く。
「子どもをつくるのに男の性欲にかかわる必要なんかない」、女の性欲も必要なくて、女の意志だけが関係ある、大事なのは「女が赤ん坊を、子どもを抱きしめたいと思うかどうか」で、「相手なんか誰でもいい。女が決めて、女が産むんだよ」と言い切る。
結婚相手がいないから諦めるなんて馬鹿げている。最初のステージで精子と卵子がくっつく必要はあるし、精子バンクに入っている精子は勿論男が提供するものだけれども、女性がアクセスするのはあくまでも精子そのものであって、特定の男性ではない。
「男性は精子を提供する製造機でいいんだ」とさえも。
(続く)
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