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2025年12月08日19:19

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映画『グランドツアー』~1

12.6(土)、シネマイーラ浜松で『グランドツアー』(2024)を観る。

フォト

監督ミゲル・ゴメス(1972- /ポルトガル)は、「映像の魔術師」などとも称される事がある、私は初めて観たのだが。
本作はカンヌ国際映画祭で監督賞、その他の映画祭でも多数受賞している。

「グランドツアー」とは、16世紀中頃~19世紀前半(最盛期は1760~90年代)、英国上流家族の子弟が国際人としての社会教育を目的として、見聞を広めるべく、フランス経由で南イタリア迄旅行をする事が流行した。当時はイギリスよりフランス,イタリアの方が文化は上位にあると信じられており、そうした事も背景にあった。名のある人物を家庭教師につけ、写真はまだなかったため画家迄同行させるという、現代の我々から思うと大袈裟なものであった。

〈参考〉「静岡文化芸術大学授業[芸術と社会](講師;小針由紀隆)第5回〜グランドツアーとイタリア」(2019.5.23記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1971630430&owner_id=3341406

これは、のち欧米列強が世界に植民地を拡げた20世紀初頭には、大英帝国領インドから東南アジア、極東(日本含む)にかけて周遊するというものに拡大、また質的な変化を遂げた。
この映画の時代は1918年という設定になっている。

ビルマ(現ミャンマー)の古都マンダレーに7年も駐在する大英帝国の外交員エドワード。
気候も文化も全く異なる地に7年もいると、どうなるだろうか。
ロンドンに残してきた婚約者モリーが、正式に結婚すべくビルマにやってくる事になった。だが、エドワードはモリーの顔も思い出せない程で、気乗りしない。
ともかく、エドワードはモリーの乗った客船が着くラングーン(現ヤンゴン)迄迎えにやってきた。
夜明けの港は雨と霧に煙り、ますます気が重いエドワードは、シンガポール行きの船が出るというのを聞きつけ、モリーを放ってそれに乗ってしまう。

ゴメスは、この構想を、サマセット・モーム(1874-1965)の、グランドツアーを地で行く旅行小説『パーラーの紳士』(1930)から得ている。ビルマに住む男が婚約者から逃げるためアジアの果て迄グランドツアーのルートを辿って逃げるという荒唐無稽なもの。だが、最後には幸せな結婚を遂げる、そこは本作と違っている。

エドワードはシンガポールにつくとラッフルズ・ホテルに入る。
このホテルはモームが常宿にしていた事で知られ、彼の名を付けたスイートルームが現存するという。
どういう訳か分からないが、ホテルのバーにはモリーの従兄がいた。酔っぱらっている彼は、「俺の従妹とはいつ結婚するんだ?」と迫る。
辟易しているエドワードに、ホテルの係員が電報を手渡す。それには「そちらに着く。Mより」と書かれている。
どうしてモリーは私がここにいるのが分かったのだろうと訝しむエドワード、今度はタイ バンコク行きの列車に飛び乗った。

逃げる男(獲物)と追う女(狩人)の壮大な追い駆けっこが続く。

列車の中でうたた寝をしていると、夢の中で操り人形による影絵芝居「ワヤン・クリ」が始まる。エドワードは、大女が姫を手を出す物語に何故か性的な昂揚感を覚える。操られているのは自分か?
列車は密林の中で脱線事故を起こす。
エドワードは近くの村でガイドを雇い、ロバに乗せられてバンコクへの旅を続ける。ガイドの男には3人の妻がいて、異様なものを見るような目つきでエドワードを見る。

翌朝、エドワードは一人メナム川から船を乗り継ぎ、バンコクに到着。更にフランス領ベトナムのサイゴンへと向かう。
広大なサイゴン港にはメコン川が注ぎこんでいて、巨大な船舶も多数停泊している。
その伴奏にヨハン・シュトラウス�兇痢堡�しく青きドナウ》がオーケストラで壮麗に演奏される。メコン川とドナウ川が頭の中で同一化する面白さ。
モノクロで捉えられたサイゴンの風景は1918年でなく現代のそれで、ビルも林立する。が、この荒唐無稽な旅に付き合っていると、観客は矛盾も感じない。

サイゴンでエドワードは体調を悪くする。
そこへまた電報が追い駆けてくる、「サイゴン到着。M」。
エドワードは休む間もなくフィリピンのマニラへと逃げる。
マニラ市街は車が渋滞し、バイクに乗った大勢の男女がその間を蜂のように勝手気儘に走り回る。
エドワードは闘鶏や麻雀など、ギャンブルに浸る。

新年が明けると、ビルの立ち並ぶその向こうで花火が盛んに上がり、人々は賑やかに踊り歌う。
エドワードは知り合った米国水兵にくっついて軍艦に乗り、日本に向かう。
ネオン煌びやかな道頓堀を行きかう満員のクルーズ船。梅田地下街の「つるつる庵」ではカウンターでうどんをすする男達。京都の鴨川沿い、尺八を吹きながら歩く虚無僧ら。雪の白川郷。五箇山では温泉に浸かるサル共。
エドワードと彼の生きる時代と、時間も空間もバラバラだが、もはや異論もない。
ある寺の一室で交わされる僧との禅問答。訳の分からぬエドワードは気が重くなる。
そこへ、憲兵らがばらばらと入り込んできて、イギリス人の女性領事(?)が、何をしているのか不審極まりないエドワードを厳しく尋問する。どうやらスパイと疑われたらしい。
モームは第一次大戦では軍医として従軍し、実は諜報員としても活動していた事が知られている。実際にこんな経験をしたのかもしれない。
エドワードは「明日、上海行きの船に乗れ」と国外退去を命じられた。

(続く)
 
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