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2026年09月18日11:00

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NHK-BS『パリ・オペラ座 夢のとびら~エトワールの迷宮探訪』~3/end

(続き)

実は地下5階が最後ではない、更に下へと導く階段がある。

当日は、ウェットスーツを着て酸素ボンベを付けた男達がいて、訓練をしていた。
案内してくれたのはパリ市の消防隊長アジュラ・二コラ。
「この下に水が溜まっていて巨大なプールになっている。
今、水道管の破裂や洪水で街が浸水した時を想定した訓練をしている。
この場所は通称”グラン・キュヴ”という貯水槽で、幅約37m、長さ50m、深さ2mの地下の人口プールだ。」
「これもガルニエが造ったもので、槽の中には建物を支える柱(耐力壁)とアーチ型の天井が並んでいて、水中の通路や回廊を垂直にも水平にも移動が可能。我々、市の消防隊の訓練にはピッタリだ。」
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以下は、水を抜いた時の記録画像。
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この地下水槽の存在は、あの《オペラ座の怪人》のイメージの源ともなったのである。

ガルニエが地下深くにこんなもの造った目的は?

ガルニエ宮の防火安全担当ステファン・デルマ。
「ここはオペラ座建設時に同時に造られた。元々は地下水の侵入を防ぐのが目的。
基礎工事の時、地下水に悩まされたガルニエは、地盤を深く掘り下げ、頑丈なコンクリート製の貯水槽を造り、外からの水の侵入を防ぎつつ、建物を支える仕組みともしたのである。」
下図はそのイメージ。
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「現代の建築家達は、蓄えられた2200㎥の水の重さが船の竜骨のような強度となっていると述べている。
この水は万が一の時には防火用水としても使われる。」
「オペラ座にも消防士は24時間スタンバイしている。
舞台周りは二重扉の構造になっていて、火の拡がりを止めるための空間を確保している。
オペラ座は且つて照明にガス灯を使っていた。そのため、何より火災を怖れていた。
建物にある数多くの扉は火災対策の機能も果たしている。」

他に八菜が週2回程通う部屋がある。ダンサーらの部屋のすぐ近くにセットされていて、医療とコンディショニングのための部屋だ。
メディカル・チーム(オスティオパシー)のメディ・マメリは、バレエの専門知識を持つプロの整体師で、ダンサー個別の身体の特徴を知悉し、メンタル面も含め必要な調整や治療を行う。

本番4日前、舞台ではゲネプロ(通し稽古)が始まり、ピットにはオーケストラと指揮者が入った。
演奏するのはパリ国立歌劇場管弦楽団。公演によっては、オーケストラは多い時90人にもなる。
ピット内の左端に小さな扉があり、そこから楽団員は出入りする。

ピットの下はどうなっているか?

扉を出て階段を下へ、この辺りはミュージシャンらのコーナー。
案内したのはヴァイオリンの阿藤果林。彼女は2003年からオペラ座で初の女性コンサートマスターを担っている。
「コンサートマスターは指揮者の音楽的意図をメンバーに伝えるのが主たる役目。
私はピットに30分くらい前から入り、楽器や楽譜の確認をし、必要な練習をする。
本番初日は緊張するが、ガルニエ宮のピットは木に囲まれていて、素晴らしい反響が得られ、心が和む。」

オペラ座にはオーケストラの楽譜を専門に扱う部署もある。楽譜の管理、手配、準備を一手に行うライブラリアン ファブリス・ラレールが案内。
「図書館兼資料室では、オペラ座全体で9~10万の楽譜を管理している。
使う曲は、長さや楽器の編成がその都度変わる。監督や指揮者の指示に基づき、コンピューターを使用してその変更を楽譜に反映するのも仕事。」
「バレエ《椿姫》は、原作者アレクサンドル・デュマ・フィス(1824-95)と同時代をパリで生きたフレデリック・ショパン(1810-49)の作品を複数編曲して使っている。勘違いする人もいるが、ヴェルディの同名歌劇の音楽は使っていない。」

当日、本番迄残り2時間。
八菜が向ったのは、かつら専門の部屋。
様々な演目で使われた何千点ものかつらが保管されている。出演者1人1人に取りつけを行い、必要な手直しをする。
かつら・メイク部門のアマンディーヌ・ヴォワルピ。
「八菜の髪の毛は真っすぐで長いので、18世紀風にカールのヘアピースを作った。時代性だけでなく、ダンサー個別の髪色・質も考慮しなければならない。」
マノンは劇中劇に登場する自由奔放な美少女。”シニョン”と呼ばれるお団子にカールを巻き、かわいらしい髪飾りを付けた。
セットは手際よく10分で完了。

続いて行ったのはトップダンサー専用のメイクルーム。
ギリギリ迄修整できるよう舞台から一番近い所にある。
ダンサーは基本的に本人がメイクを行うが、エトワールだけはメイクアップアーティストが施す。
一緒に踊る男性ダンサーともメイクの色合わせをする必要がある。

本番15分前。
八菜はマノンの衣装をまとい、ステージ真裏の部屋へ。
ここは「フォワイエ・ド・ラ・ダンス」という。舞台直前のダンサー達が最後のウォーミングアップなどを行うが、19世紀のオペラ座ではもう一つの役割を持っていた。
エドガー・ドガの名作《エトワール》(1878頃)を見てみよう。
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舞台の袖でダンサーを見つめる黒服の紳士がいる。上流階級の人物で、当時オペラ座の年間契約席の客にはこの場所に出入りする特権が与えられていた。
気に入ったダンサーを見定め、パトロンとして経済的支援を持ちかける事もあった。

本番1分前。
袖のカーテンの陰から舞台を見つつ、身体をほぐす八菜。
演じるマノンは劇中劇にのみ現れ、男達を魅了する。八菜は今回初めてこの役に挑む。

実は、2027年からガルニエ宮は改修工事に入る事が決まっている。
代々受け継がれてきた伝統、そして職人達の誇り高き姿、ガルニエの魂は劇場の隅々に息づき、決して失われる事はないだろうと想像してやまない。


 ディレクター 小宮弘之
 撮影 福井崇志
 編集 吉田晃太
 放送 NHK-BS 2026.7.29
 
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