6/30(水)、シネマイーラ浜松でイラン映画『シンプル・アクシデント/偶然』を観る。
監督はジャファール・パナヒ(1960- )。イラン当局により複数回拘束・収監された経験を持つ。(*)
本作品はカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞、パナヒはヴェネツィア国際映画祭,ベルリン国際映画祭と合わせ世界三大映画祭の最高賞を獲得した事になる。
(*)
2009年、アフマディーネジャド大統領再選の抗議活動で死んだデモ参加者の追悼式に参加したのち逮捕。
2010年、妻,娘、その他友人らと伴に再逮捕。86日間エビン刑務所に収監。20年間の映画制作・脚本執筆・メディア対応・海外渡航禁止、違反時には禁錮6年間との判決を受ける。
2011~2022年の間に5本の映画を制作、何れも国際映画祭で高評価、各賞受賞。
2022年、再拘束、7ヶ月間収監。ハンガーストライキ後保釈。海外渡航禁止は解かれる。
2025年、本作制作。当局より懲役刑と各種禁止命令の判決。控訴等対抗策を公表するも、その後の進展については知られていない。
パナヒは、多くの文化人・芸術家のように海外逃亡はせず、イラン国内に留まって活動を続けると表明している。
イランは今年2026年2/28、米国とイスラエルによる国際法無視の攻撃を受け、前最高指導者ハメネイが殺害されたが、今も宗教独裁の神権政治を続けている。
アムネスティ・インターナショナルによれば、2025年の死刑は2,159人に上り、世界で中国の次に多い。
本作は当局に秘密裏に制作され、監督の刑務所収監等の経験が盛り込まれる事となった。
冒頭はある夜、灯もまばらな道を走る車に乗っている3人の家族。夫が運転、妻は助手席、小学生くらいの娘が後部座席にいる。娘はカーステレオの音楽のボリュームを上げるようにせがみ、聴きながら楽し気に体を動かす。どういう人達なのかは分からないが、何処にでもいそうな家族の会話だ。
しばらくすると、何かが車に当ったような音と振動。夫が車を停めて確認すると、犬だったらしい。イランは野犬が多く社会問題になっている。イスラームでは犬は不浄の動物とされている。
夫が犬の死体を放ったまま車に戻って運転を再開すると、妻は(娘に向けて)言う、「ただの事故だった。神様は訳があって(犬を)飛び出させたのよ。わざとじゃない、パパは悪くない。」
それに対して娘ははっきりとこう言う、「神様は関係ない。パパが殺したのよ!」
子供はリアリストで冷酷なところがある、神様の思し召しなどという理屈は彼女には通用しない。
このシーンはなかなか味わい深い。あとあとの展開にも関わってくる。
それはともかく、ここで本映画のタイトルが提示されたのである。
その後、運転を続ける中で、車が故障してしまう。
通りがかりの男に助けてもらいエンジンはかかるが、応急処置をしただけだから早く修理工場へ持っていけと言われる。
少し走って見つけた修理店に持ち込み、夫は店内に入って声をかける。
ようやく観客に晒された車は、丸みを帯びた中型車でカラーは白。(このイメージは憶えておかなければならない。)
深夜、店内に居残っていた人物(あとからワヒドという名だと分かる)は、入ってきた男の足音を聴くと表情が変わり、影に隠れて出ていかない。声だけで応対し、工具箱はそこにあるから使って構わない、と。
店内を探して歩く男の癖のある足音、どうやら片脚が悪いらしい。(この音も憶えておく必要がある。)
男は目的を果たせず、車に乗って走り去る。
ワヒドは慌ててバイクに乗り、男の車のあとをつける。
翌朝、ワヒドはバンに乗って男の家の近くで張り込む。
男は一人車に乗り、テヘランの街の修理工場へ持ち込む。
男が時間を潰すかのように歩き出すと、ワヒドは車を急回転させて男の脇に停め、スコップで殴って気絶させ、男をバンの後ろに担ぎ入れる。
砂漠の中、ワヒドはシャベルで穴を掘り、男を放り込むと、上から土を投げ入れていく。
このシーンに至り、ようやく事情が分かる。
ワヒドは言う、エグバル、俺は刑務所でお前から受けた酷い拷問のせいで今も身体の具合が悪い、精神も長く病んだ。一生を滅茶苦茶にされた。
(拷問の時は目隠しをされていたが)お前の片方義足の足音は耳にこびりついている。
縛られた男は穴の底で土をかけられながら必死に喚く、俺はエグバルじゃない、足は最近交通事故の怪我で義足にしたばかりだ。
ワヒドが男の服から身分証明書を引っ張り出すと、違う名前になっている。ズボンを破いて義足の箇所を見ると、その近くに新しい外傷のあともある。
ワヒドは自分を毎日のように痛めつけた男の癖のある足音は間違えようがないと、かまわず土をかけ続ける。
男は尚も叫ぶ、俺には家族もある、どうか助けてくれ。
しばらくして、ワヒドは男を穴から引きずり出し、バンの後ろに乗せていた木箱に押し込み、テヘランに戻って書店を営む知人の話を聴く事とした。
初老の男性はワヒドが以前より世話になり深く信頼するサラールという人物で、彼は暴力に暴力で対抗しようとする姿勢をたしなめ、まずは男が本当にエグバルかどうか確認が必要だとして、同じ刑務所に収監されていた知り合いの女性に連絡する。
ワヒドは教わった場所を訪ねる。彼女はシヴァという名のカメラマンで、結婚の前撮り写真を撮っている最中だった。
シヴァは屋外でもヒジャブを着用せず、活動的なスタイルで仕事をしていた。
ワヒドは彼女に事の次第を話し、エグバルであるかどうかの確認に協力を依頼した。
2022年、ヒジャブを着用していなかった事で「道徳警察」に拘束された女性が死に、イラン全土に波及した「女性・人生・自由」運動後、ヒジャブを着用しない女性は確実に増えた。
シヴァが撮影していたのは知人のゴリという若い女性と婚約者のアリという男性。目の前で純白のウェディングドレスに身を包むゴリも、実は刑務所に収監されていた時期がある。(現在のイランでは、結婚式に西洋風のドレスの着用が好まれているそうだ。)
のち本人の告白から分かったのだが、ゴリに対する拷問には性的な暴力もあった。ゴリは釈放後ひどく精神を病み、最近ようやく回復を果たしつつあって、理解のある相手との結婚を決心した。
そうした場であるから、シヴァは当初ワヒドの懇願を断ろうとした。
アリもゴリを護ろうとした、が、むしろゴリの方が復讐に賛同し積極的に協力を申し出た。
ワヒドは、撮影を中断したシヴァとゴリとアリをバンに乗せて出発する。
(続く)
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