mixiユーザー(id:3341406)

2026年06月07日13:00

58 view

歌劇《ナターシャ》多和田葉子,細川俊夫~2

(続き)

序章のあと、7つの地獄が続く。

・第1場〈森林地獄〉
背景映像が、打ち寄せる波から、建物内部に変化する。それは刑務所か病院の廊下のように見える。
大きな机にはサングラスをして白い上着を着た男が座っている。
放射能防護服のようなものをまとった男女が現れ、ナターシャとアラトの上着やスカート,ズボンを乱暴に剥ぎ取る。

ナターシャは訊く「私達はどこにいるの?あなたは誰?」。
男は答える「常に悪を欲し、善を招くあの力の一部だ」。彼はゲーテの『ファウスト』に登場するメフィストフェレスの孫らしい。
アラトは男の言語を理解できず「この男、何と言ったのだろう?」と首を傾げると、男は机を叩いて叫ぶ、「地獄で理解される言語を話せ!」。
言葉とは裏腹に、男は如何にも尊大な態度で「私は君の召使だ」、「君のいいようにする」と。
そして勝手に「奈落の底を見たいという願いは君達から聴いている」。これは一種の命令でもある。

白い防護服を着た数人の男女がナターシャとアラト2人を無理やり拘引。
アラトはやけくそのように言う「心の底におまえが暮らす氷でできた孤独な個室。私は畏れ、誘われやすい。弱った心は騙されやすい。何処へでも連れていってくれ、どんな泥沼でも見てみたい。」

背景に見えていた病院の内部らしき映像は、大木のレントゲン写真のようなものに変わる。
ナターシャが再び「私達は一体どこにいるの?」と問うと、メフィストの孫は「ここは木のない森だ」と答える。
葉のない枯れ木の枝を持った男女が大勢入ってくる。小太鼓のリズムに合わせ、従順な態度を示して行進する。

フォト

前列左 アラト、中列中央 メフィストの孫、前列右 ナターシャ。

1980年代のドイツでは、酸性雨によって多くの森の木々が立ち枯れた。

男は次なる地獄に案内しようと立ち上がる。
ナターシャとアラトは彼に従う。
アラト「連れていってくれ、地球の呻きが聞こえる場所へ。」

・第2場〈快楽地獄〉
サックスを吹く男とエレキギターを弾く男が現れ、即興でロックコンサートが始まる。
女性ポップシンガーAとBが次々現れ、甘く蕩けるような歌を歌う。

フォト

前列左 ポップシンガーA 森谷真理、後列左 サックス奏者 大石将紀、後列右 エレキ奏者 山田岳、前列右 ポップシンガーB 冨平安希子。

細川の音楽は殆ど無調だが、この場面とラストのナスターシャのアリアのみ調性音楽になっており、オペラの中で目立つ。
ポップシンガーの歌詞は以下の通り、皮肉が籠められている。
「夢いっぱいの宮殿。買われ、愛され、廃棄される。
プラスチックの宮殿。ぞくぞくするほどお得なお値段。」
衣裳はカラフルなプラスチックでできているし、そのステージにも様々なプラスチック製品がうず高く積まれている。
安価で大量消費される快楽地獄の裏では、プラスチックによる海洋汚染が進む。

プラスチックを擦り合わせる時に発生するパーカッション的な音の効果が面白い。
有馬純寿が世界から集めたノイズ、環境音、電子音響が、劇場内に20個以上設置されたスピーカーの効果と、クレメンス・ヴァルターの優れた映像が相俟って、音に立体感を加え、物語の幻想性を高める。

地獄は「洪水地獄」「ビジネス地獄」「沼地獄」「旱魃地獄」へと続いていく。
一番最後には冒頭の海の音楽が回帰する。まるで生と死が果てしもなく循環する能の「橋がかり」のような音楽構造になっている。
それは異世界とつながるナターシャのシャーマンの機能ともラップする。

ナターシャとアラトの地獄巡りは、モーツァルトの《魔笛》のパミーナとタミーノの火と水の試練と似ているが、《魔笛》が2人の愛の成長に力点があるのに対し、本オペラは地獄巡りを通し、観客にこれは悪夢ではない、まさに現実である事を突きつけ、人類の未来への選択を迫る。
 
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年06月>
日 月 火 水 木 金 土
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930