(続き)
1940年代、同じ農家に、アルマの両親何れかの弟家族も住むようになっていた。
片脚のフリッツは今も一部屋を与えられ、ベッドで過ごしている。
新しい家族には二男二女がいて、長女のエリカは10歳代後半にさしかかろうとするところ。
エリカは何故か伯父フリッツに興味を示す。
片脚で暮らすとはどういう事か、自分の一方の脚を膝で折り曲げ紐でくくり、フリッツの松葉杖を借りて家中を歩き廻ってみる。遠くから父親の呼ぶ声も無視。
エリカは紐を脚から外し、松葉杖をフリッツの部屋に返しにいく。
彼は裸でベッドに寝ている。
エリカは、毛むくじゃらのフリッツのヘソを触り、その指を自分の鼻で嗅いでみる。
そして毛布をめくり上げ、彼の下半身を見る。
エリカが出ていいくと、寝たフリをしていたフリッツは眼を開け、ドアの方を見やる。
第二次世界大戦は終戦が近づいていた。
村にはソ連軍がドイツに攻め込んでくるのも間近だとの話が伝わってきた。
ロシア兵が敵国の女性を凌辱する事はよく知られていた。
村の女性達は、近くのエルベ川に飛び込み、集団自決を遂げる。その中にはエリカの顔もあった。
自分の感情を整理できないままエルベ川に向かうエリカの表情。
レポートの1に貼付した映画のポスターでも、アルマはその視線を観客の方へ向けていた。
エリカの妹イルムも一緒に飛び込んだが、ウナギに手を噛まれ、その痛みのせいで死ぬ事ができずに終わる。
本当にウナギが人を噛むのかどうかは知らないが…
ソ連はエルベ川迄軍を進め、川が東西ドイツの国境をなす事となった。
1980年代、第二次世界大戦後、件の農家は東ドイツの下にある。
今はエリカの妹イルムが家族とここに住んでいる。夫アルバートとの間に生まれた一人娘アンゲリカは10歳代後半。
また、イルムの弟ウーヴェも結婚してここに住んでおり、ライナーという息子がいる。
アンゲリカとライナーは同じ歳のいとこ同士という事になるが、10歳代では女の子の方が男子よりも成長は早い。
アンゲリカは、大人しいライナーをよくからかった。
ライナーの方はアンゲリカを好いているのだが、言葉にする事も行動に出す事もできない。
アンゲリカは、最近、自分を見る村人の視線を感じてならない。
東ドイツは警察国家で、経済的にも西に後れをとり、この村の人々も鬱靴とした日々を送っている。
イルムは姉達と入水自殺できなかった事で、やりきれない思いを胸に溜め込み、人と正直に会話を楽しむ事ができない。ここは笑うところではないと自分で分かっていても、笑いだすととめどなく笑い続けてしまったりする。
イルムは、自分の心の半分が過去に置き去りになっている事を強く意識する。
彼女は思う、女は自分の体も自分の自由にならないのか、と。
恒例の村祭りが行われる。
自転車を漕いで、たらいに入れてあるウナギを掴まえるという遊びのようなレースがあり、イルムの弟のウーヴェは上手に掴まえて人々の喝采を浴びる。
次に指名されたのはイルム。彼女はどうしてもウナギを掴まえる事ができない。
夕食に、イルムはウーヴェが掴まえたウナギを台所で料理しようとするが、入水自殺しようとした時の生々しい記憶が甦り、無理やりウナギの口を開けて自分の手を噛ませる。
そこへ娘アンゲリカが入ってきて、イルムに何をしているのかと迫るが、母はウナギを離してごまかそうとする。
アンゲリカはそれを見抜き、母の手に残っているウナギの歯のあとのある所を恐ろしい形相でかぶりつく、まるで、女性として生きる事の不条理を、根っこから断ち切ろうとでもするかのように。
アンゲリカは母の入水未遂の事を知っていたのだろうか?
アンゲリカは若い女の子らしく、隣町のディスコに行って踊りたくてならない。ウーヴェに車で送ってくれるよう頼み込むが、彼は下心があるような顔つきで、Jaとは言わない。
翌日朝帰りしたアンゲリカは、ライナーの部屋に飛び込み、ベッドに横になった。
ライナーはどうやって隣町に行ったのか、アンゲリカを問い詰める、
「オヤジに送ってもらったのか? 村の奴らは皆、オマエはやらせる女だと言ってるぞ。」
アンゲリカはベッドに突っ伏し、ライナーの方を見ない。
ある日、アンゲリカとライナーの家族らが集まり、手に入ったポラロイドで集合写真を撮る事となった。
集りの両端に離れてアンゲリカとライナー。アンゲリカの隣にはウーヴェ。
カメラマンが撮影のサインを出したその時、アンゲリカは飛び出した。
できた写真を見ると、動いたアンゲリカは幽霊のように映っている。
その日から、アンゲリカの姿は村から見えなくなった。
(続く)
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