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2026年02月27日16:48

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月村了衛 著『十三夜の焔』

月村了衛(つきむらりょうえ/1963- )の時代小説『十三夜の焔(ほむら)』を読む。

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月刊「小説すばる」の2021年11月号から2022年6月号連載時のタイトルは「十三夜の鬼」だったが、2022年10月に集英社から単行本で出版するに際して改題した。

私は月村了衛作品は初めて。
月村は30歳代ではTV番組の脚本を書いていた時代もあるようだ。
40歳で小説に専念、日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、大藪晴彦賞、日本推理作家協会賞、山田風太郎賞などを受賞してきた。

1784(天明4)年5月の十三夜、御先手弓組番方(新入り) 幣原喬十郎18歳が湯島を通りかかった時、ある人影に気づいた。その足許には男女の惨殺死体。男の手には血塗られた匕首。喬十郎が抜刀し問い質すと「俺じゃあねえよ」と言い、用水桶に足を掛け瞬く間に人家の軒に飛び乗って逃げた。一瞬月明かりに照らしだされた男の頬には涙が流れていた。

市中の治安を役割とする組織にあって屈辱的な事件で、家では父に激しく叱責された。
男を捕まえる事が喬十郎の何にも増して第一の使命となった、が、事件は簡単に解決せず、一生をこれに賭する事となる。喬十郎の脳裏には、おそらく自分と同年齢程の男のふてぶてしい顔と涙が印象として強く残った。
調査を進めるうちに、男は盗人一味の千吉で、事件は彼独りが起こした単純なものでなく、公儀も関わった節が感じられる。

この1784年と言えば、田沼意次(1719-88)が権力を持った時代の末期近くである。いわゆる「田沼時代」は1767〜86年とされる。
この年、嫡男 意知が佐野政言に城内で斬りつけられ、翌月歿。この事件から意次の凋落が始まる。

つい先日、相良の平田寺で意知の供養塔を見たばかりである。
〈参〉「田沼意次と三浦環ゆかりの平田寺」(2026.2.19記)
https://mixi.jp/home.pl?from=g_navi#!/diary/3341406/1991647536

その後松平定信が老中となり「寛政の改革」(1787-93)を押し進める。それは田沼という人間と施策を徹底的に否定・弾圧するもので、私怨を晴らすが如き理不尽極まりない内容だった。

小説が進展すると、次々起こる事件の関係者らの向こうに、定信のあとを引き継いだ遺老達、勘定所や奉行所も見えてくる。
例えば、登場人物の1人 火付盗賊改長官 長谷川平蔵(1746-95)は定信の人事によって引き立てられた人物である。
喬十郎は、最初の事件から10年後、銭相場のトラブルで一家が殺害された事件で、件の男 千吉に出会い、市中両替商と勘定所の根深い関係を城中で暴くべく長谷川平蔵の協力を取り付けるが、最後の最後で平蔵の裏切りに会う。
千吉は盗人から、いつの間にか両替商「銀字屋」の利兵衛となっていた。つまり裏の世界の住人から表の世界の住人に変貌を遂げていたのである。大盗集団と両替商組合、勘定所ひいては老中との関係さえうっすらと見えてきた矢先の裏切りだった。
喬十郎は幕府の中枢から弾き出され、佐渡金山奉行所組頭に左遷。

喬十郎は、金山における人の扱いの地獄のような様子を知る。
ここで働く人々は、殆ど石川島の「人足寄場」から送られてきた連中だが、その寄場はというと、1789年、松平定信の命で長谷川平蔵が建設したものである。建設・運営費用は充分に提供されず、平蔵は銭相場から資金を工面した。
「人の命を使い捨てにすることによって御政道が成り立っている」という実態と仕組みとを喬十郎は目の当たりにする。

喬十郎はしばらくして江戸に戻され、時を経て、目付、そして火付盗賊改となり、千吉との因縁に決着をつけるべく肉薄する事となる。が、千吉の背後から、更に奇妙な男達が登場し、実態は混沌としていく。
一方の千吉の方は、庶民が生活苦に喘いでいるにも関わらず、公儀と結託して「御用金」徴収や貨幣鋳造改悪を進めようとするやり口に問題を感じ始めていた。
2人の関係は、それぞれの家族をも交え、単なる仇敵に留まらず、奇妙な糸で結ばれた友のように変化していく。

ラスト近くではのち北町奉行になる遠山金四郎(1793-1855)も登場する。生年で比較すると、金四郎は長谷川平蔵より50年近くのちの人物である。
まだ公職に就く前、20歳くらいの遊び人風体で彼は喬十郎の前に現れ、既に死んで久しい平蔵が残した謎の解決に向けて協力する事になる。

このようして本小説は、フランス風に言えば、巨悪を呑み込み、表裏、清濁混沌とした「暗黒小説(ロマンノワール)」の様相を濃くしていく。
 

 執筆 月村良衛
 装画 ヤマモトマサアキ
 発行 2022.10.30 集英社
 

〈参考資料〉
・中日新聞書評『十三夜の焔~2人の男の情と確執』縄田一男 2023.1.8
・集英社文芸ステーション
 書評『背後に蠢く巨悪の存在』末國善己「青春と読書」2022.11月号より転載
 『十三夜の焰』刊行記念インタビュー 月村了衛「江戸から令和に連なる腐敗の構造をえぐり出す」取材・構成 朝宮運河「小説すばる」2022.11月号より転載
 
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