(続き)
2)のピアノ協奏曲イ短調はロベルト・シューマン(1810-56)が1841年と45年に作曲した。
1840年にクララとの結婚に漕ぎつけたシューマンは、翌年、クララをピアノソロとして単一楽章の〈ピアノと管弦楽のための幻想曲〉を作曲した。
その4年後、これを改作し第2楽章と第3楽章を加え、3楽章構成のロマン的なピアノ協奏曲に仕立て上げたのである。
・第1楽章 アレグロ・アフェットゥオーソ イ短調4/4
冒頭、強烈なオーケストラの和音に続けてピアノが激しいソロで応答する。
そのあとに美しい第1主題がオーボエでドーシーララーと歌われる。
シューマンはクララを「キアラ(Chiara」と愛称で呼び親しんでいたが、そこから音をc-h-a-aと抜き出してモチーフとしたのである。
これを巧みに展開し、幻想曲に相応しい自由なソナタ形式に組み上げた。
再現部ではイ長調に転調、高揚したあとにカデンツァが入る。
シューマンは、全体としても、ピアノを無闇に表に出し技巧に走らせる事を避け、シンフォニックな統一感を優先している。
・第2楽章 インテルメッツォ、アンダンテ・クラツィオーソ ヘ長調2/4
ピアノのラシドレという単純でつぶやくようなモチーフに、木管が繰り返し応えるインテルメッツォ(間奏曲)。この階段を上がっていくような音形は、第1楽章の第1主題から部分的に切り取ったもの。
そして、中間部のチェロの溜息のような歌の美しさ。ピアノは控えめにフレーズ間をつなぎ、弦の歌を優しく飾る。
第1楽章の強い愛から、4年経ち、第2楽章は落ち着いて優しく見守る愛に様変わりしているかのようだ。
最後に第1楽章第1主題の動機が様々な形に切り崩され、ピアノの音はその間を零れ落ちていく風情。
そして、短いモチーフをつなぎながら、アタッカで休みなしに第3楽章に飛び込む。
・第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調、3/4
第3楽章冒頭のピアノソロの主題は、やはり第1楽章第1主題の展開によって生み出された堂々たるもの。小柄な鈴木愛美は全身を使って表現する。
このように、本曲でシューマンは、第1楽章第1主題を全楽章で徹底的に展開し尽くし、繰り返し使用している。
ピアノが鍵盤を縦横にオブリガートで動き回ると、弦は跳ねる音形の第2主題をフガートのように展開。
そのあとをピアノソロが歓びに満ちて追い駆け、休む間もなく鍵盤をフルに使って波のようにピークを幾度も形作る。
最後はピアノソロの高域のトリルがオーケストラを呼び込んでコーダを導く。
演奏会前のプレトークで高関健はソリストの鈴木愛美についてこう語っていた。
今更言う迄もなく、鈴木は2024年の第12回浜松国際ピアノコンクールで初めて日本人として、また女性として覇者となった。(今年24歳になる計算。)
シューマンのピアノ協奏曲の選曲は鈴木の希望で決められた。
プログラムには、彼女の言葉で「シューマンの協奏曲は私が最も好きな協奏曲の一つです。数年前から、演奏の機会を頂けるのを心待ちにしていたので、大変嬉しく思っております。この曲は、オーケストラとの密接なアンサンブルをして主題を展開していく作品なので、今回初めて共演させて頂く高関マエストロと富士山静岡交響楽団の皆様と一緒に、リハーサルから音楽を共に作りあげていき、どのようなステージになるのか、今からわくわくしています。(後略)」
高関は、今回の定期演奏会で、リハーサルとして2日準備、静岡市清水文化会館マリナートホールと当ホールの本番で、全部で4日間の共演機会を鈴木愛美と得た訳だが、日毎の演奏が微妙に異なっていたのを大変に興味深く思った。無論、そんなに極端な変更ではない、繰り返しの部分など、僅かな表現の差を彼女が試みていると私(高関)は受け止めた、と。
鈴木愛美のプログラムの文章「交響楽団の皆様と一緒に、リハーサルから音楽を共に作りあげていき、どのようなステージになるのか、今からわくわくしています」と絡めると、こうあらねばならぬとがちがちに固めて本番を迎えるのでなく、オーケストラだって変化するだろうし、それに柔軟に合わせてアンサンブルを愉しみたい、そう私(記者)は鈴木の音楽作りの基本的な取組姿勢を理解した。
実は、来月3.13(金),14(土)、私は聴きに行かないが、鈴木愛美は名古屋フィルの第543回定期演奏会でも同じシューマンの協奏曲を演奏する。
前後の曲は異なる、ボニス《クレオパトラの夢》Op.180(管弦楽版)、リムスキー=コルサコフ 交響組曲《シェエラザード》Op.35。指揮はクレメンス・シュルト。
言う迄もなく、鈴木愛美は名古屋フィルとの共演も頭に置いてシューマンをどう弾ききるか愉しみながら考えている事だろう。
第3楽章のコーダを力強く弾ききり、ホール中に沸き起こった大きな拍手と喚声で、鈴木は何度もステージに現れて礼をした。
そして、アンコールで演奏したのは、彼女にとって特別のシューベルト、その即興曲Op.90-2。
鈴木のシューベルトへの愛は、1月に聴いたばかりの彼女のリサイタルのレポートをご覧頂けたらありがたい。
・「鈴木愛美ピアノリサイタル/アクトシティ浜松」(2026.1.13&14記)
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https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1991430132&owner_id=3341406&from=list_diary_search
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https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1991434821&owner_id=3341406&from=list_diary_search
プログラム3)のチャイコフスキー交響曲第4番については、今回のレポートでは省略する。
〈付記〉
席は1階第5列14番。中央やや左。
〈参考資料〉
・プレトーク
講師 高関健
・プログラム「富士山静岡交響楽団第135回定期演奏会」
執筆 寺西基之(音楽評論家)
発行 2026.2.10、富士山静岡交響楽団
YouTube
・ストラヴィンスキー〈弦楽のための協奏曲〉
演奏 緑弦楽合奏団第25回定期演奏会
収録 2011.6.5
・シューマン ピアノ協奏曲
指揮 藤岡幸夫
ピアノ 桑原志織
演奏 関西フィルハーモニー管弦楽団
収録 2023.12.29
・同
指揮 ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
ピアノ マルタ・アルゲリッチ
演奏 ワシントン・ナショナル交響楽団
収録 1978.1
・チャイコフスキー 交響曲第4番
指揮 サー・ゲオルク・ショルティ
演奏 シカゴ交響楽団
収録 1985.2.2
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