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2026年01月20日11:00

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名古屋フィル第541回定期〜ブラームスとエルガー��

(続き)

ブラームスのヴァイオリン協奏曲のあと、休憩を挟んで、後半はエルガー2曲。
エルガーは生前「英国のブラームス」としばしば呼ばれたので、考えられたプログラムではある。

◆エルガー《スルスムコルダ》Op.11

「Sursum corda」とは、ラテン語で「心を上げよ」という意味。キリスト教のミサの冒頭、司祭が神聖な儀式に臨んでこう唱える。「聖体奉挙」という訳を充てる事もある。
1894年、エルガー(1857-1934)の出身地ウースターをヨーク公爵(のちの国王ジョージ5世)が訪問した。この記念礼拝の式典音楽がエルガーに委嘱された。
エルガーは1887年に書きかけて未完となっていたヴァイオリン・ソナタの緩徐楽章を仕立て直して、これに応えた。
弦楽5部と金管、ティンパニ、オルガンという編成である。木管は入っていない。
オルガンはステージの後方2階P席の後ろに設置されている。
オーボエがいないため、冒頭のオーケストラの音合わせでは、コンサートマスターがキー音を出した。

アダージョ・ソレンネ(ゆっくり荘重に)変ロ長調2/4、上がり下がりで山をこしらえるメロディラインが静かに隊列を進めるイメージになっている。
三部形式で、中間部ではオルガンが早いバッセージを演奏する。
金管の響きが強調され、2回クライマックスが訪れ、フォルテッシモのトゥッティで壮麗に8分程の曲を終える。

◆エルガー《エニグマ変奏曲》Op.36

正式なタイトルは、〈管弦楽のための創作主題による変奏曲《エニグマ(謎)》〉。
1898~99年に作曲され、このヒットでエルガーは一躍国民的作曲家となった。

曲は主題と14の変奏で構成されていて、各変奏曲にはエルガーの友人らのイニシャルやニックネームが付けられている。
殆どの人は無名の人物であるから、そのイニシャルと本名を明かしても、あまり意味はない。
一部だけ紹介すると、第1変奏〈C.A.E〉これはエルガーの妻キャロライン・アリス・エルガーのイニシャルである。
ト短調4/4。
この前に置かれた10小節のThemeも、エルガーが即興で弾いたピアノのモチーフを妻が褒めてくれた事がきっかけで生まれたものだという。
アンダンテ ト短調~ト長調4/4。

第9変奏〈Nimrod(ニムロッド)〉はエルガーの親友オーギュスト・イェーガーのニックネーム。ドイツ人だが18歳で英国に移住、音楽出版社の社員となった。
「Jaeger」はドイツ語で「狩人」を意味するため、エルガーは彼に『旧約聖書』の「創世記」に登場する狩人「ニムロッド」という綽名を付けた。
イェーガーは1897年頃より仕事を通じてエルガーと親交が生まれ、エルガーが落ち込んだ時には叱咤激励をし、慰め、作曲を続けさせた。エルガーが多くの傑作を完成させる事ができたのは、イェーガーの的確な批評と助言があったからだとされている。
イェーガーはベートーヴェンの特に緩徐楽章を愛していて、エルガーも賛成。第9変奏曲にはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番《悲愴》の第2楽章が暗示されてもいる。
アダージョ 変ホ長調3/4。

第10変奏は〈間奏曲〉とされていて且つ〈Dorabella(ドラベッラ)〉(美しいドラ)という名が付けられている。
アレグレット ト長調3/4。
第3変奏〈R.B.T〉のリチャード・バクスター・タウンゼントの義理の姉妹、また第4変奏〈W.M.B〉のウィリアム・ミース・ベイカーの義理の姪でもあるドーラ・ペニーの愛称で、モーツァルトの歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》の登場人物名でもある。
木管楽器による細かな装飾装飾音符は彼女の滑舌や笑い声の模倣だと言われていて、松井慶太によってエルガーのユーモアがよく表されていた。

第11変奏〈G.R.S〉のみ音楽家として著名な人物のイニシャルで、ヘレフォード大聖堂のオルガニスト ジョージ・ロバートソン・シンクレアである。
アレグロ・ディ・モルト2/2。
彼の愛犬ブルドッグのダンは、よく堤を駆け下りてワイ河へ飛び込んだものだったが、その様子が描写されているという。
エルガーもまた大の愛犬家であった。

第13変奏は〈ロマンツァ〉とされていて、その後ろは〈***〉となっている。
モデラート ト長調3/4。
メンデルスゾーンの序曲《静かな海と楽しい航海》のロマンティックなメロディがクラリネットで引用されているところから、オーストラリアへと旅立った貴族令嬢レディ・メアリー・ライゴンと考えられてきたが、近年ではニュージーランドに移住したヘレン・ウィーバー(エルガーの初恋の女性)との説が有力になってきた。

最期の第14変奏は〈終曲〉で〈E.D.U(エドゥー)〉となっている。これはアリス夫人がエルガーを呼ぶときの愛称であった。作曲者の自画像と言ってもいいだろう。
アレグロ・プレスト ト長調2/2。
行進曲風に始まり、クライマックスに達したのち、作曲家と最も深い関係にあった第1変奏と第9変奏が追想され、オルガンを背景に陽気で輝かしいエンドを迎える。
初稿ではあっさりした終わり方であったが、イェーガーの強い勧めにより、結尾に100小説近くが書き足された事が分かっている。

エルガーは「この曲には小さな謎と、演奏されない隠された主題がある」と語った。「エニグマ」はギリシア語の「謎」に由来する。
「小さな謎」とは、各変奏にイニシャルやニックネームが使われた人々で、大部分は解明されている。が、「演奏されない隠された主題」(大きな謎)は「よく知られた」ものとの本人の仄めかしもあるものの、英国国歌《国王陛下万歳》,《きらきら星》,《オールド・ラング・サイン(蛍の光)》,《ルール・ブリタニア》,モーツァルトの交響曲第38番《プラハ》など諸説が出てはいるが未だに結論は出ていない。

松井健太は、当日エルガーのユーモアとちょっとしたシニカルと輝かしさを充分に表して、ホールの聴衆を喜ばせてくれた。


〈付記〉
席は1階第3列15番。
中央に近く、小川響子の息使いや表情をよく見る事ができた。

〈参考資料〉
CD
・ブラームス ヴァイオリン協奏曲
 ジュリーニ/パールマン/シカゴ交響楽団
 収録 1976
YouTube
・エルガー《スルスムコルダ》
 アンドリュー・デイヴィス/BBC響
 収録 1993.8
・同《エニグマ変奏曲》
 高関健/仙台フィル第377回定期
 収録 2024.11.22/日立システムズホール仙台コンサートホール
・同《同》
 アラン・アルティノグル/hr響フランクフルト放送響
 収録 2023.12.8/フランクフルト
 
『最新 名曲解説全集9~協奏曲�供戰屮蕁璽爛� ヴァイオリン協奏曲
 執筆 門馬直美
 発行 1980.1.1/音楽之友社
『同5~管弦楽曲�供戰┘襯�ー《謎》変奏曲
 執筆 太田黒元雄
 発行 1982.4.15/音楽之友社
 
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