(続き)
ヴァレリーの死は事故によるものと決着。
ヴァンサンに捜査の手は及ばなかった。
マリー=クロードは、この件について沈黙を続ける事とした。
ルカはミシェルの下で暮らす事となった。
ヴァンサンもよく一緒に遊んでくれ、次第に田舎暮らしに慣れてくる。
おそらくルカには、永く続く母と父の諍いは辛いものだったに違いない。
ある日、ミシェルがルカを学校に送っていった帰りの事。ルカが門から入るのを見届け、再び車に乗ると、助手席にヴァレリー(の幽霊)がいた。
何も言わず前を向き、表情も見てとれない。
同じ日かどうか分からないが、ヴァンサンが学校の門前でルカを待っていると、暗い表情をして出てきた。
ヴァンサンが問い質すと、上級生のイジメに会っているとルカ。お前の婆さんは娼婦だってな、と。
ヴァンサンは、ルカの指さす上級生のところへ歩いていった。
何が起こるかと心配していると、ヴァンサンはじきに戻ってきた。
帰りのバスの中で、ルカは、どうしたの?と尋ねた。
ヴァンサンは笑って答えた、オレはムショから出てきたばかりだ、そして、ジャケットの内ポケットからこれを見せてやった。ヤツラこれから絶対イジメはしないと約束した。
内ポケットからピストルを出すヴァンサン、引き金を引くと、水が飛び出た。水鉄砲だったのだ。以前ミシェルが処分を頼んだルカのおもちゃ箱に入っていたものかもしれない。
大笑いするルカとヴァンサン。
2人が互いに信頼し合う様子が、よく伝わってきた。
ヴァンサンが街にバーを出す事になった。
開店祝いには大勢が駆けつけた。夢が叶い、振舞い酒を出すヴァンサン。
ミシェルはヴァンサンと楽しそうに踊った。
店内に流れているのは、フランソワ・ヴァレリーのヒット曲《Aimons-nous vivants(生きているうちに愛し合おう)》(1989)。
こんな時のミシェルは若々しく見える。
カウンターに立つ酔っぱらいの男が2人のダンスを見て言った、婆あの娼婦!
ヴァンサンはその男を店から引きずりだした。幸い大問題には発展しなかった。
店の奥のテーブルにいたルカとマリー=クロード。ルカは訊いた、マリー・クロードおばさんも娼婦だったの?
彼女は答えなかったが、その笑顔はウイと言っているようだった。
後日、例の森を散歩するミシェルとマリー=クロード。マリー=クロードは独り言のように、あの子、開店資金はどうしたのかしら?
ミシェルは驚いて言った、えっ、ヴァンサンから聞いていないの、私が出世払いで貸したのよ。
マリー=クロードの表情が変化したように見えた。
ミシェルが先に歩いていくと、マリー=クロードがついてこないので、彼女の名を呼んだ。
さっきの場所まで戻ると、マリー=クロードは道に倒れていた。
幾日かして病院の室内。マリー=クロードはベッドに横たわり、鼻孔から酸素を吸入している。
がんが全身に転移していると医師から告知を受けたと言う。
永くない事を察して彼女はミシェルに話した、あの日、ヴァンサンはパリのヴァレリーの部屋に行ったの。
「良かれと思ってした事が裏目に出る」のね。
謂わば「大事業」を終えようとしているマリー=クロード、その頬に流れる涙を見て、ミシェルは苦しい中、2人で支え合ってきた事、そして、心に通い合う真実を感じた。
ミシェルにも同じように「大事業」の終わる日が遠からずやってくるだろう。
マリー=クロードの葬儀。
田舎の教会に相応しからぬ風体の男女が入ってくる。
ルカがミシェルに問うと、昔の仲間達、と答えが返ってきた。
棺が入ってくるのに喪主が席にいない。ルカはミシェルに言われて探しにいく。
ヴァンサンは教会裏の庭にいた、とても式には出られないと泣き声。
ルカは、彼の前に立って言った、僕だって辛かったけどお葬式は頑張って出たんだよ。
ヴァンサンは何とか立ち上がった。どちらが大人か分からなかった。
ここでも2人の信頼関係が強く伝わってきたのだった。
ミシェルがヴァレリーとマリー=クロードの墓参りをし、花の鉢を新しいものと取り代えていると、そこにまたヴァレリーの幽霊が現れた。やはり、何も言わない。
ヴァレリーはまだミシェルへの恨みを持ち続けているのか、または、何かミシェルに言い残した事があるのだろうか。
ではなく、ミシェルの後悔の念がヴァレリーの妄想を見せているのか。
観客は想像するしかない。
しばらくして、件の女性警部がミシェルの家を訪ねてきた。
ヴァンサンとルカを庭に出し、ヴァレリーの死に事故死でない芽が出てきたので再調査します、そう彼女は言った。
警部は、ヴァレリーのアパートの防犯カメラによって撮られた写真を持っていた。
大人と子供が映っている。写真の時間はあの少し前。顔が映っている片方の子共はルカですね? もう1人の大人は顔が見えない。
あの時、ヴァンサンは何処にいましたか?
ミシェルは答えた、ヴァンサンは頼んでいた仕事があって、この家にいました。
警部は、ルカと話したいと言い、写真を持って庭に出た。
ヴァンサンは家の中に入り、ミシェルと窓越しにルカと警部を見つめた。
2人に声は届かないが、警部はルカを見つめて言う、ここに映っている人は、君が知っている人かな?
ルカは警部の顔をじっと見上げ、ゆっくりと言った、知らない人です。
10数年後だろうか、大人になったルカが久しぶりでブルゴーニュに帰省する。片耳にはイヤリング、今時の青年の姿。
某大学生でパリ在住、秋の休暇を過ごすのが目的のようだ。
駅に迎えに来た車はヴァンサンが運転し、ミシェルは助手席に。
ミシェルは白髪が増え、計算上90歳代という事になる。
ルカが後部座席からヴァンサンに例の店の様子を訊けば、観光客も増え繁盛していると。
更に、まだ結婚せずにいるのかと問うと、ウイと、車内ミラーを通し、ルカと笑顔で視線を交わす。
オゾンだからと、人によってはいろいろ詮索したくなるかもしれない。
家に着くと、ミシェルは家の鍵をルカに渡した。いつでもここに帰ってくればいい、要らなくなったら売っても構わない、と。
3人は例の森へと散歩に出た。
2人の男が前を歩き、ミシェルはあとをつく。
ミシェルが気配を感じて振り向くと、そこにはヴァレリーの幽霊。
いつものように何も言わないが、ミシェルの方に片手を伸ばす。ミシェルも近づき、娘の手に触れる。
ヴァレリーは生前、ブルゴーニュの家はルカにと望んでいた。
ルカが元気でいる事、また、家を渡された事で、ヴァレリーは安心したのだろうか?
勿論、これは私の稚拙で勝手な解釈であり、映画では何の説明もない。
先を歩くヴァンサンとルカが、ミシェルがいない事に気づく。
2人大声で叫び、違う方角を探す事にする。
ルカは、茂みの中、安らかな顔で倒れているミシェルを見つける。
だが、ルカは、何も言わず、またヴァンサンの方へと歩み寄っていく。
秋の森は深まる気配である。
監督・脚本 フランソワ・オゾン
共同脚本 フィリップ・ピアッツォ
撮影 ジェローム・アルメーラ
美術 クリステル・メゾヌーヴ
編集 アニタ・ロト
出演 エレーヌ・ヴァンサン,ジョジアーヌ・バラスコ,リュディビーヌ・サニエ,ピエール・ロタン,ガーラン・エルロス,ソフィ・ギルマン
受賞 サン・セバスティアン国際映画祭脚本賞/助演俳優賞
2024年/フランス
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