7/6(日)、NHK-Eテレ放送の「クラシック音楽館」はN響第2035回定期演奏会。2025年4/17、サントリーホールの収録。
パーヴォ・ヤルヴィがストラヴィンスキー、ブリテン、プロコフィエフを指揮した。
今回はベンジャミン・ブリテン(1913-76)のめったに聴く機会がないピアノ協奏曲Op.13をレポートする。
ピアノは同じ英国のベンジャミン・グローヴナー(1992- )。
グローヴナーは2011年のBBCプロミスでこの曲を初めて弾いた、19歳だった。
番組は今年33歳になるグローヴナーのインタビューも挟んでくれたので、それを柱に曲の紹介としたい。
このピアノ協奏曲は、自らも卓越したピアニストで、才気煥発の作曲家ブリテンが、24才で書いた。同年のプロムスで自分がソロを弾くつもりで書き進め、実際その通りになった。1938年の事である。
その年、ナチスはオーストリアを併合。ヨーロッパは不穏な空気に覆われていたろう。
4楽章で、他に類を見ない独創的な構成である。
第1楽章〈トッカータ〉、第2楽章〈ワルツ〉、第3楽章〈レチタティーヴォとアリア〉、第4楽章〈行進曲〉とされていて、まるでバレエかオペラによる組曲のようだ。第3楽章は終戦の1945年に改定、〈即興曲〉となった。
グローヴナーの言葉を引用すれば、「とにかくエキサイティング、親密な瞬間もあるが、驚きの連続」、「個々の楽章が予想外の展開に満ちている」。
第1楽章〈トッカータ〉アレグロ・モルト・コン・ブリオは「白熱し、猛スピードで進む。これ程エネルギッシュに始まり、長い運動量が続くピアノ協奏曲は他に思い浮ばない」。トッカータらしい跳ねるリズム、「その推進力はピアノのカデンツァでようやく中断される」。
上下に連続するグリッサンド。動き回るカデンツァは、「ピアノの最低音から最高音の全鍵盤の間で使わない音がたった3音しかない」。「幻想的で色彩豊か」、表情が目まぐるしく変わり、「端から端迄半音階で駆けあがり、次第に消え入る」。
と、「一転し、親密な雰囲気の第2主題が弦楽器と奏でられる」。「この協奏曲で最も美しい瞬間」だ。
第2楽章〈ワルツ〉アレグレットは「ヴィオラの哀愁に満ちた歌で始まる」。裏に密やかにタンバリンが入る。
しばらくすると「ピアノソロとタンバリンのデュオ」になる場面もあり、「何て斬新な管弦楽書法だろう!」。
「オーケストレーションにはマーラーの影響も感じられる」。
ヴィオラの歌は各木管に引き継がれ、「地下のスモーキーなジャズバーで演奏しているかのような仄暗いイメージ」に。
次第に濃厚なウィンナワルツ風を醸すのは、先に書いたナチスのオーストリア併合によって失われたものに対する平和主義者ブリテンの物言い(またはノスタルジー)のようにも思える。
第3楽章は1945年に改定された〈即興曲〉アンダンテ・レント。モノローグ的なソロ部分からスタートする、詩的で抒情性に富むゆっくりとした歌謡的楽章。
改定の理由は分かっていない。これは私の勝手な推測だが、第2次大戦で死んだ多くの人々に対する祈りの気持ちもあるのではないか。
形式は古典派以前の時代に流行ったパッサカリアの変奏。
「主題は、ブリテンがラジオ・ドラマ『アーサー王』のために書いたもの」を引用した。聴衆は「過ぎ去った古い時代を感じとる」のではないか。
様々な楽器に受け渡される歌と縦横に掛け合うピアノ。
アタッカで休みなく突入する第4楽章の〈行進曲〉アレグロ・モデラート・センプレ・アッラ・マルチャ。「やや仰々しい主題と冷笑的なユーモアからは、ショスタコーヴィチ的な(表と裏がある)何か」を感じさせる。
「やがて暴力的とさえ言える音楽」へ展開、「大太鼓とシンバルを伴って繰り広げられるカデンツァ」は「極めて独創的な書法の一つで、注目」に値する。
カデンツァのあとクライマックスへ、金管の咆哮に鞭など多彩なパーカッション、そしてピアノがオクターヴで猛烈に鍵盤を叩いて駆け上がり駆け下り、一瞬静まり返ったと思うと、息をつかせぬリズミックでモダンなエンド。
「24歳にして既に独創的な音楽語法」、そしてこれ見よがしな演劇的性格やパロディ精神、時代を先取りする大胆な音楽は、保守的な英国の聴衆を驚かせてやろうとして意気込む新進気鋭の青年作曲家の姿を見出す事ができる。
ブリテンは、グレシャム・ハイスクールに入学した時ストラヴィンスキーが好きだと言って教師に警戒された事がある。
また、王立音楽大学を卒業する際には、ベルクに師事したいという意向を示したが、ベルクは1935年に急死、実現しなかった。
時代と国が違ったら、ブリテンは別の人生を歩み、もっと別の作曲家になっていたかもしれない。
人と芸術は歴史によって作られる。
念のため他のプログラム。
・ストラヴィンスキー バレエ音楽《ペトルーシカ》(全曲版/1947)
ピアノ 松田華音
・プロコフィエフ 交響組曲《3つのオレンジへの恋》OP.33
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