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2025年04月26日22:25

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中島京子 『うらはぐさ風土記』��

中島京子(1964- )の長編小説『うらはぐさ風土記』を読む。

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初出は「小説すばる」2022年11月号〜23年7月号。
単行本とするに際し加筆・修正、2024年3月、集英社から発行された。

「ウラハグサ」は「フウチソウ(風知草)」とも言われる日本固有のイネ科の植物で、昔は近畿から関東西部、太平洋側の山地に多々見られたものだった。
地元の人々に「うらはぐさ」という古い名で呼ばれている地域が東京西部にあった。
「あけび野」とか「百舌(もず)沼」などの地名も近くにあって、どれも中島が本作で創作した架空の名だが、いかにも武蔵野をイメージさせる。
中島自身、杉並区の祖母の家で生まれ、東京近郊で育ち、大学は西荻だった。祖母が他界、父も死んだあと、2020年頃、杉並の古家を改築、母と夫と子供らと伴に住んでいる。

井伏鱒二(1898-1993)に『荻窪風土記』(初出1981-82)という自伝的長編エッセイがある。関東大震災後、1927(昭和2)年に荻窪に移り住んだ井伏の、晩年の代表作の1つだ。
『うらはぐさ風土記』を書くに当って、中島は当然井伏の作品を意識していたに違いない。随筆と小説で根本は違うものの、中島も武蔵野の自然や動植物、食、そこに住まう人達や店、地域の歴史を、深い愛着もって描きだしている。

主人公の田ノ岡沙希(さき/52歳)はカリフォルニアの大学で日本語を教えていたが、日本語科の閉鎖で職を失い、8歳年下の夫バートと離婚。そんな時、武蔵野の「うらはぐさ」にある母校から2年任期の教職の話が入り、帰国する事となった。伯父がしばらく前迄住んでいた古い一軒家に借り住まいする事に。
伯父は沙希の母の姉の夫にあたる人で、80歳、認知症を患い、2年前から高齢者施設に入所。家は空き家となっており、今は名古屋にいる従兄の博満(ひろみつ)からここに住む事を勧められたのである。
沙希にとって30年ぶりの東京暮らしが始まった。

新宿や渋谷などの都心とは違い、個人住宅地であるうらはぐさは、雑木林や畑もまだ見られる。そうした昔の名残があるものの、30年という歳月はやはり大きい。空き家も増えている。
それでも、歩いてみると、学生時代に親しんだ小さな「あけび野商店街」が今もあり、よく行った「諏訪書店」や「焼き鳥の布袋(ほてい)」などの店も残っていて、つい入りこむ。

伯父の家には小さな庭があり、昔と比べると庭木が育ち、また自然に根付いたらしき草木もあった。廊下に座って見ていると、実をついばみに小さな鳥達も来た。
沙希が、のち、庭で獲れたものを使って様々に料理をする様子、例えば「梅の実を収穫してリキュールに漬け込む」とか「柿の葉をきれいに洗って鮭と酢飯をつつむ」などの工程を、中島の筆は実に丁寧に、まるで匂いさえ感ずるように表現している。

また、2階の部屋には幾つものダンボール箱に入れられた伯父の物がまだある。博満は、それらや家具の類を、使ってもいいし捨ててもいいと大らかに言う。
沙希はダンボール箱の中から如何にも値の張りそうな酒類を見つけて「伯父の酒蔵」と名付け、時おり呑ませてもらう。

沙希は伯父と会いたいと思うが、コロナ後間もなく、高齢者施設での面会は自由にならない。博満も、会っても認知症で分からないからと、面会を勧めない。


(続く)
 
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