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2025年02月17日22:07

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パリオペラ座バレエ・エトワール オニール八菜

2/14(金)放送のNHK総合「プロフェッショナル 仕事の流儀」『自由の、その先に〜バレエダンサー オニール八菜』を観る。

オニール八菜(はな/1993- )は2023年、「パリ国立オペラ座バレエ団」で日本人初、フランス人以外で初の「エトワール」となった。
フォト

パリ国立オペラ座バレエ団は世界四大バレエ団のひとつで、世界最古1669年の創設。創設時の名称は「オペラ・アカデミー」。
現在ダンサー総勢は154人で、そのトップであるエトワールは16人。

八菜は1993年、東京都世田谷区でニュージーランド人の父(クリス・オニール/ラグビー選手)と日本人の母 純栄の間に生まれた。
バレエを始めたのは、その他複数の習い事(乗馬,スキー,走高跳)と一緒に3歳の時。
2001年8歳の時、家族で父の故郷ニュージーランドに移住。その他の習い事は辞めるも、バレエは好きで続けた。

2007年14歳、パリオペラ座バレエ学校に入学を希望し、ビデオを送ったが返答ナシ。
その直後ユース・アメリカ・グランプリで好成績を修め、2008年15歳でオーストラリア・バレエ学校スカラシップ獲得。
2009年16歳、ローザンヌ国際バレエコンクール優勝。
2010年17歳、ユース・アメリカ・グランプリ、シニア女子部門で第1位に。
2011年18歳、オーストラリア・バレエ学校を首席で卒業。

同年、パリオペラ座バレエ団オーディションに参加、100人超の中で4位入賞、シーズン契約を結び、2年間「カドリーユ」(第5階級)で踊る。
2013年20歳、正規団員となり、翌2014年「コリフェ」(第4階級)、2015年「スジェ」(第3階級)、2016年「プルミエール・ダンスーズ」(第2階級)と毎年ランクアップ。
その間で、2014年にはヴァルナ国際バレエコンクールで銀賞(最高位)、2015年《白鳥の湖》でオペラ座主役デビュー。
2016年にはブノワ賞(バレエ界のアカデミー賞と言われる)受賞。

その後、エトワールになったのは2023年であるから、オペラ座バレエ団契約後13年かけて頂点に立った事になる。当時30歳。
本番組出演時は32歳、年間40本もの舞台に立つ。

現在、自分のアパートからパリ・オペラ座のある歴史的建造物ガルニエ宮迄は20分歩く。
同宮は1862年、ナポレオン三世(1808-73/在位;第2共和政大統領1848-52、第2帝政皇帝1852-70)の命で着工したもの。
八菜他全16名のエトワールにのみ個室が与えられている。
彼女によれば、スジェは2人部屋、コリフェは5〜6人部屋、カドリーユは大部屋だとの事。
ガルニエ宮の内部は極めて複雑で、八菜の個室からレッスン・スタジオ(全11室)迄は、舞台と5段の観客席をよけ、迷宮のような廊下と階段を歩き6分もかかる。

各スタジオは1日中様々なレッスンが組まれている。
午前のクラスはバレエの基礎を繰り返すレッスンで、新人からエトワール迄、毎朝2時間、各自で技術と身体の調性を行う。八菜は体は硬い方だと自認していて、午前のクラスは体づくりのため入念に行う。

これが終わると、八菜は別のスタジオへ。
2024年秋の公演《マイヤーリンク》(邦題《うたかたの恋》)に向けたリハーサルのためだ。八菜は主役のマリーを演ずる。
《マイヤーリンク》は19世紀末オーストリア=ハンガリー帝国の皇室を舞台に起きた悲劇的な事件をベースにした作品だ。
史実のあらましについては、2011年春のウィーン旅行記を参考にして頂けたらありがたい。
・「ウィーン、死と迷路の都(4)」(2011.5.1記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1714705628&owner_id=3341406

台本はジリアン・フリーマン(1929-2019)、振付はケネス・マクミラン(1929-92)。当時後者が所属していた英国ロイヤルバレエ団がコヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスで1978年に初演された。
マリー・ヴェッツラ(1871-89)と情死したとされるルドルフ皇太子(1858-89)は、今回プルミエ・ダンス―ルから初主役として抜擢されたフロラン・メラック。
八菜は1つの舞台で、ルドルフと初めて会った10歳から許されない愛に身を投ずる17歳迄、マリーの心身の変化、愛と苦悩を表現しなければならない。演劇的な要素も強い作品である。

リハーサルの指導は、元英国ロイヤルバレエ団のイレク・ムハメドフで、自身ルドルフ役を何度も演じてきた。
リハーサルの内容は、あまりに芸術的且つテクニカルなので、ここでは書かない。私としては、なるべく事実に即してレポートする。
ともかく本作はパ・ド・ドゥが実に難しい。メラックとの呼吸の間やリズムなど、修正前と修正後をビデオに収めて入念な対策を進める。

合間には、パリ・オペラ座バレエ団の元エトワールでスターダンサーだったフロランス・クレールの個人レッスンを挟む。
八菜は入団当初から彼女の個人レッスンを続け、大事にしてきた。日により、レッスンの内容は組み替えられる。この日は身体の動き、その基本に立ち返る。

八菜は多くの時間を個室で過ごす。バレエシューズは団から配給されるのだが、エトワールになっても、自らの足に合わせ、カッターナイフや針と糸で実に大胆な手直しを加える。
シューズはどんどん履きつぶされるので、この作業はほぼ日課である。

公演4日前。出演者総出のリハーサルが行われる。
爾後、舞台袖で主役2人のパートのダメ出し。
コーチはバレエ・ミストレスのサブリナ・マレム。これは微に入り細に入り、極めて手厳しい。

公演3日前。レッスン・スタジオにて。
マレムは昨日指摘した修正箇所の確認を行う。
八菜は、マリーの人生を演じきり、その上で更に自分らしさの表現を加えたい。

個室に戻り、クレールに映像を見てもらいながら最後のアドバイスをもらう。目に見える動きは心の表現のレベルの問題である。
クレールの言葉と抱擁は、公演を間近にした八菜の心を和らげてくれる。

11/12、本番を迎える。
当日も八菜は毎朝のレッスンを欠かさない。
2時間前、メーク室へ。
担当はもう何年も同じ女性。
19:00、オペラ座開場。
八菜はバックステージにあるスタジオへ。
ここでは、本番前のウォームアップや、気持ちの整理など、思い思いに静かな時間を過ごす。
ここにはカメラは入れない、カーテンの隙間から八菜の表情を捉える。

本番が始まる。
短いプロローグのあと、ルドルフの華やかな婚礼の場、10歳の少女のマリーが初めてルドルフと出合う。純真さと憧れの表現。
そして17歳での再会。成熟した男女の情熱的なパドドゥ。

初日、エトワールとして3幕2時間45分の舞台を踊りきり、幕が下りる。
ホール中から沸き起こるブラボーの声。
八菜は幾度もカーテンコールに現れ、ひときわ大きな拍手と歓声を浴びる。

プロフェッショナルとは?と楽屋で問われると、「自由です」と八菜は答えた。
「毎日舞台に出て、楽しく自由な気分で踊れる事、これが一番。」
細部に亘る長く厳しい準備と練習、そうしたものへの拘りから吹っ切れて、本番を楽しく自由に踊れる事の歓び。こうした境地に到達するのは簡単ではない、彼女の言葉からそう感じられた。


 ディレクター 久保田直
 
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