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2025年02月13日23:55

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演劇『こんばんは、父さん』 二兎社第48回公演 (追記)

2/11(火)、穂の国とよはし芸術劇場PLATで二兎社の演劇公演『こんばんは、父さん』を観る。

フォト

作・演出は二兎社主宰 永井愛。
初演は東日本大震災の翌年2012年。今回は12年ぶりの再演である。
東京・俳優座で2024年12/6から21日間の公演後、全国10ヶ所ツアーが続いている。最後は2025年2/24、山形県の東ソーアリーナ。

先立つ2001年に永井は、新国立劇場からの委嘱で『こんにちは、母さん』という戯曲を書いている。
タイトルからして対になる作品だろうと思われるが、私は残念ながら観ていない。

本作は、永井作品には珍しく登場人物は男性のみ3人。今回キャストは初演から全員代わった。以下、( )内は2012年の配役。

 父;佐藤富士夫/70歳代
    風間杜夫 (平幹二郎)
 息子;佐藤鉄馬/40歳代
    萩原聖人 (佐々木蔵之介)
 闇金融取り立て係;山田星児/20歳代
    竪山隼太 (溝端淳平)

2012年、廃墟となった町工場に3人の男が偶然集まる。場となるのはこれ1ヶ所のみ。
下の写真は終演後に撮ったもの。
フォト

3人はそれぞれに挫折を繰り返してきた。
その時代背景は、シナリオに巧妙且つ丹念に書き込まれている。

初老の男(佐藤富士夫)が窓から工場に忍びこむ。
実はこの工場は富士夫が昔経営していた精密機械部品の製造工場だった。

以下は幕の進展と伴に徐々に明らかになる事供だが…

富士夫は中卒後、集団就職で上京。高度経済成長期に本工場を建て、高品質を評価されて区から表彰される迄になる。
大手メーカーから入るようになった注文をまかなうため、郷里に第2工場を増設。同時に、郊外に立派な(自称「シャンデリアのある」)自宅を建てた。
コンピュータ制御の設備投資のため膨大な借金を抱えたが、何の心配もしなかった。
コンピューターにデータさえ入力すれば機械が仕事を進めてくれるので、職人の高度な技は要らなくなる。
そのうちにゴルフに熱が入り、海外旅行に行き、指輪やブランドものの時計を身につけ、社用車をクラウンからキャデラックに代えた。

だがバブルが崩壊。大手メーカーからの注文は急減。
下請けの悲哀で、2つの工場も「シャンデリアのある」家も次々手放したが大きな借金が残った。
返済のためサラ金に手を出し、闇金融にも手を出した。遂には夜逃げをするハメに。
この十数年は人目を避けてその日暮らしの毎日。

工場内を懐かしそうに見回していると、梁から「恰好の首吊り用」に見えるロープが垂れ下がっている。(写真にそれが写っているのが分かるだろうか?)
ロープを手に取り見つめていると、若い男(山田星児)入ってきた。闇金融の手先の取り立て係で、富士夫の跡をつけてきたのである。
富士夫が自殺するのではないかと思い込み、利息の一部でも回収するように上司や本部から命令を受けながら最近一銭も取れていない身として、勝手に死なれては困る。
気弱な星児の態度は、闇金の取り立て係には見えない。富士夫は星児を「ぼうや」と呼ぶ。

余談だが星児の勤める闇金は「ラストフレンド」という皮肉な名前で、客席の笑いを誘う。彼らは、貸金を回収するための最終手段として、滞納者を海外に送り臓器売買する事など何とも思わない。

互いに糠に釘のような富士夫と星児のやりとり。

星児はある筋から富士夫の息子(鉄馬)の連絡先を入手したと言う。電話をし、彼から貸金を一気に取りたてると富士夫を脅迫する。
富士夫は、大手メーカーでエリートコースを進んでいる(筈の)息子とは10年以上も連絡をとっていない。闇金などがコンタクトしたら彼に迷惑がかかるのは必至で、それだけはやめてくれと懇願するも、星児はスマホから発信してしまう。
すると、どういう訳か、その受信音が工場内に響く。
2階の奥から寝起きのような男の声がする。
富士夫は顔を見て息子だと気付く。父子の久しぶりの対面。両者共、何故こんな所にいるのかと驚く。
みすぼらしい鉄馬の恰好。話を聞いて、彼が会社を辞めていた事を富士夫は初めて知る。フィリピンのエビの養殖事業とやら、詐欺の海外投資にひっかかり、借金が膨らみ、退職金でも足りず、遂に妻を置いて夜逃げしたのである。
彷徨ったあげく、しばらく前にここに潜りこんだ。
首吊り用のロープを梁に掛けたのもどうやら鉄馬だったらしいと想像された。

こんな奇妙な出会いから、廃墟となった町工場で3人の挫折の物語はスタートする。

過去のエピソードや記憶を物語る時は、舞台を暗くし、ぼんやりとしたスポットライトを当て、例えば、大手メーカーの若々しい課長時代の鉄馬は立派なスーツを着こみ、雇用の多様化(実態は非正規社員のウェイト増)のための法改訂の必要性を、まるで経営陣の代弁者の如く大勢の前でとうとうと講演、一方、富士夫は派手なアロハシャツに指や首には貴金属をジャラジャラさせ、ゴルフのスイングの練習。
歌舞伎がよく使う、いわゆる「早替わり」という手法で時間を前後させる。

鉄馬は幼い頃、小さな工場で汗を流して懸命に働く父親を見るのが好きだった。
母の方は経理事務だけでなく、ドリルの揉みつけやら完成部品の納品やら、あれこれ手伝い、そのうえ工員達の面倒を見、家も工場も活気に満ちていた。
近所付き合いもいいため、工場は母でもっていると言う人達もいた。

しかし、第2工場を建てた頃から、富士夫は家に帰らない日が多くなった。
ゴルフや貴金属だけでなく、女性にも手を出しているようだった。
鉄馬は母の表情に陰りを見出すようになった。心配で、近所のビルの階段を駆け上っていく母を追いかけた事もある。
富士夫が借金で首が回らず夜逃げをした数年後、母は病気になり亡くなった。57歳という若さだった。
だが、鉄馬はそれを富士夫に連絡する事ができなかった。
しばらくして鉄馬は結婚、息子も生まれる。が、その事も今夜初めて父に知らせたような次第である。
連絡先が分からなかったせいだけではない、軽蔑の念が鉄馬をそうさせていた。
しかし、鉄馬は結局父の轍を踏む事になった。

星児の取り立てに対し、富士夫は荷物の中に指輪が1個残っている筈だと出まかせを言う。
真に受けた星児は、彼の荷物を広げ必死になって指輪を探し回る。
そうしているうちにも、「ラストフレンド」の上司や本部から、星児に督促の電話が入る。
今回利息の一部回収もできなければ、星児は「研修センター」送りにされると怯える。
「研修センター」とは名ばかりで、そこに行って帰ってきた者は、性格も変わり、人間らしさを失ってしまう。

いくら探しても指輪は見つからない。
富士夫は遂にウソだったと白状した。
星児は狂乱、「研修センター」送りにされないため、自分がネット金融から金を借りて立て替えるなどと言いだす。
そんなバカげたやり方は闇金業界の常識か?
鉄馬は、工場の片隅に隠していたあった物を引っぱり出し、星児に渡して言う、それを持っていって闇金からは足を洗え、と。
星児は2人を見つめ、出ていこうとドアを開け、逡巡して一旦振り向くが、結局何も言わずに走り出ていく。
その後ろ姿に、達者でな、と富士夫。

急に静かになった工場の中で、富士夫と鉄馬はぽつりぽつりと会話をとり戻す。
星児が置いて行ったビニール袋からワンカップの酒とつまみを取り出し、何を祝うでもないが、取り敢えず乾杯をする。
話題は2人がかつて共に愛した妻(母)の記憶である。今はいない彼女が、離れてしまった2人をもう一度近づけてくれるようだった。
何を思ったか、鉄馬は下手にある階段の一番下の段に座り、手摺りの間に顔をくっつけて父を見やった。
小学生の頃、「いつも、ここから父さんを見てた」。

実際には問題は何も解決していないのだが、表現し難い余韻を引き摺って、舞台は暗転、そしてエンドとなる。
この先3人の男はどうなるのか、観客には分からない。


作・演出 永井愛
美術 大田創
照明 中川隆一
音響 市来那比古
衣装 竹原典子

出演 風間杜夫,萩原聖人,竪山隼太
 

[参考資料]
プログラム『こんばんは、父さん』
 執筆・編集 宇田夏苗,安藤ゆか
 発行 2024.11.30、二兎社

隔月刊「PLAT NEWS」vol.71(2025年1〜2月号)
 インタビュー 風間杜夫,萩原聖人
 聞き手 矢作勝義(穂の国とよはし芸術劇場PLAT芸術文化プロデューサー)
 発行 2025.12月、豊橋文化振興財団 

シナリオ『こんばんは、父さん』
 執筆 永井愛
 発行 2024.12.20、而立書房初版第1刷
 
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