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2024年09月03日13:05

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ルネ・パーペ バス・リサイタル

8/22(木)、NHK-BSの「クラシック倶楽部」はルネ・パーペ バス・リサイタルを放送。
これは今年の「東京・春祭2024」の企画の一つである。
リサイタルは、4/10、東京文化会館小ホールで行われた。

・バス ルネ・パーペ(1964- /ドレスデン)
・ピアノ カミッロ・ラディケ(1963- /ドレスデン)

インタビューに答えるパーペ。
まず、今回のプログラムについて…
「全体としては少し悲しく陰鬱なプログラムです。
この数年に世界で起こった悲しい出来事の追憶という意味合いもいくらか籠めました。
しかし最後には希望があることに気づくでしょう。良い人生への希望、平和への希望、人間らしくある事、他人を思いやる事、それは悲しい調べの中にもあるのです。」

◆モーツァルト ドイツ語の小カンタータ《無限なる宇宙の創造者を崇敬する汝ら》ハ長調K.619

「少し《魔笛》を連想するかもしれません。この作品の根底にあるのはヒューマニズムと平和への愛のアピールです。」

本作品はW・A・モーツァルト(1756-91)、最晩年1791年の作品。
同じフリーメイソンのメンバーのハインツ・ハインリッヒ・ツィーゲンハーゲン(1753-1806)が作詞し、彼の依頼で作曲された。
序奏のアンダンテ・マエストーソの詞は、「宇宙の創造者」を「エホバ、ゴッド、天帝、ブラフマーと呼ぼうとも」と言っていて、啓蒙時代の知性を感じさせる。少なくともコチコチの原理的な一神教の宗教観ではない。
冒頭のインタビューに対する応答からして、パーペの脳裏にウクライナやパレスチナの問題があった事は間違いないように思う。
現代世界の様々な戦争を収束させるためには最低限こうした度量が必要ではなかろうか、等とつい妄想も先走る。

序奏のあとには、「同胞」「理性」「友情」「真実」、そして「偏見」「セクト主義」「武器を捨て」、「人類よ賢くあれ」、「人生の真の幸福」と歌詞が並ぶ。
パーペの声は、120%張り上げるのでなく、フォルテ箇所でも静かで落ち着きがあり、説得力がある。

◆ドボルザーク《聖書の歌》Op.99

インタビューは続く…
この曲は「聖書の様々な詩編に基く作品です。言う迄もなく、テーマは死、苦悩、希望、理解。そして許しと愛。」

アントン・ドホルザーク(1841-1904)がアメリカ滞在中の1894年に作曲。前年には既に交響曲第9番《新世界より》Op.95を完成させている。
本曲はラテン語でなくチェコ語訳聖書から10の詩編を選んでいるが、番組では時間の都合か、第3〜5,7〜9曲は省略された。
チェコ語によっているところから、ドボルザークの信仰における神との親密さが感じられる。古チェコ語には敬称が存在しないのだそうで、神への語りかけも親友との会話のように聞こえるのである。

第1曲〈黒雲と暗闇があなたの周りに立ち込め〉
劇的な音型の導入により、「正義」、「主の栄光」が歌われる。

第2曲〈私の隠れ家にして私の楯となるのはあなたです〉
「あなたの言葉を私は待ち望む」、「邪悪な者ども、私から離れなさい」、「主裁きを恐れなさい」。

第6曲〈聞き給え、主よ、我が叫びを〉
「私の祈りを聴いて下さい」、「あなたは私の避難所です」。

第10曲〈あなたに向かって新しい歌を〉
「海よ」「川よ」「野よ」「大地よ」、「万物よ、歌え」。
ピアノ伴奏のリフレインが《雪やこんこん》に似ているのは素朴で面白い。

歌曲の演奏で大切にしている事は何か?と問われパーペは…
「聴衆の皆様を歌曲の旅路に連れだしたいと願っています。プログラムはどれも素晴らしいものです。歌曲の魅力とは、音楽と聴衆の気持ちがひとつになった時に生まれます。歌曲のリサイタルは、場面展開もなく演技もありません。純粋に音楽だけ、歌詞だけ、演奏だけなのです。
聴き手は目を閉じていても、音楽の旅にいざなわれるのです。」

◆クィルター《3つのシェイクスピアの歌》Op.6

英国の作曲家ロジャー・クィルター(1877-1953)は日本ではあまり知られていない。
100曲以上の歌曲を作曲、これらはテノール歌手ジャーヴァス・エルヴィス(1866-1921)との親密な交流の結実とも言われている。歌曲の多くは1923年以前に書かれた。後年には劇付随音楽やオペラも作曲した。
本曲は1905年、28歳の時に書かれたもの。第1曲,第2曲の歌詞はシェイクスピアの『十二夜』(1602)、第3曲は『お気に召すまま』(1600)よりとられている。

第1曲〈おいで 死よ〉
「おいで、おいで、死よ
  糸杉で作った柩に僕を寝かせておくれ
 飛んでいけ、飛んでいけ、呼吸よ
  僕は美しくも残酷な乙女に殺されたのだ」

第2曲〈おお いとしい人よ〉
「no plenty(元もこもない)」、「twenty(二十歳)」、シェイクスピアの美しい韻。

第3曲は番組では省略された。

◆ムソルグスキー 歌曲集《死の歌と踊り》

モデスト・ムソログスキー(1839-81)が1875〜1877年に作曲した歌曲集。「死」を扱った全4曲からなる。
極めて厭世的な歌詞は、遠縁の詩人で当時同居していたアルセニイ・ゴレニシチェフ=クトゥーゾフによる。

第1曲〈子守歌〉
病の幼な子を中にした母と死神の会話。「ねんねんよう」のリフレインが恐ろしい。

第2曲〈セレナード〉
病んだ娘へ死神の歌うセレナード。「おまえは私のもの」と死へと誘う。

第3曲〈トレパーク〉
吹雪の夜、泥酔した貧困にあえぐ農夫。死神が彼に「雪の衣」を与え、抱きかかえて2拍子の舞曲〈トレパーク〉を踊る。

第4曲〈将軍〉
激しい戦のあった夜の闇、兵士のうめき声。馬に乗って将軍のように現れる死神。
「生はおまえらを引き裂くが、死は人々を仲良くさせる」。
そうして「お前たちが二度と立ち現れないように、地面をしっかりと踏みしめてやる」。


全体を最後に俯瞰すれば、パーペはプログラムをドイツ語、チェコ語、英語、ロシア語で構成し、そして、深い説得力に満ちた声で歌ったのである。
様々な境界を挟み、様々な武器によって日夜流血のやまない現代、我々は今、国境を超える必要がある、音楽を通してそう彼は言っているようにも思えた。
 
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