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2023年10月05日23:10

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本●「旅窓」

本●「旅窓」(朝日新聞社)
島田謹介:写真・文

写真集。

昨年だったか、長野の善光寺へ行ったとき、途中で立ち寄った「門前商家ちょっ蔵おいらい館」という観光施設の土蔵みたいなところで島田謹介の写真を見た。
島田謹介(しまだきんすけ)という写真家の名前はうっすらと記憶にあるのだが、作品を見たのはこのときが初めてだ。
とても旅情をかき立てるような写真だったので、帰宅してから調べてみたら、島田謹介は1994年に94歳で亡くなっていた。
さらに検索を続けると、愛知県図書館に彼の写真集が数冊あることがわかった。
そのなかから、「旅窓」というタイトルに引かれてさっそく借りてきた。
ところで、私は「旅窓」を「りょそう」と読んだが、手もとの辞書に「旅窓」という言葉は載っていない。「たびまど」と読むのかもしれないが、どうも締まらないので「りょそう」にしておく。
なんとなく列車の車窓から垣間見える風景や地元の人々に、カメラを向けた写真集だろうと想像していた。
ところが、列車が写っている写真は2枚しかない。
冬の津軽で、車体や窓にびっしりと雪がこびりついている1枚と、山陽本線の福山駅で、福山城をバックに蒸気機関車の機関士を撮ったものだけだ。
ほとんどが旅先で島田謹介の目に入った風景や町並みや人々を、いわば旅行者目線のスナップ写真みたい撮っている。
重厚さをさほど感じないぶん、とても親しみやすい。
この写真集が発行されたのが1960年のことだった。
1960年頃のニッポンの風土と人々の息づかいに触れる。
そのなかに、北海道の襟裳岬を馬に乗った少年が駆けていく後ろ姿を撮った1枚がある。
当時の襟裳岬には、歌の文句ではないが、ほんとうに何もない。
芝生のような草むらが岬の先まで広がっているだけだった。
1950年代から70年代にかけての古い写真集を見てると、もう二度とこの景色や人たちに会うことができないのかとおもうと、どうしても感傷的になってしまう。
ひょっとしたら、この手の写真集というのは40年、50年と時代を経たほうが、より味わいが増すのだろう。
巻末に島田謹介の撮影旅行にまつわる回想が載っている。
写真集にはさほど出番のなかった鉄道が、回想の中にやたらと登場する。いずれも滋味あふれるもので、読みごたえがあった。



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