mixiユーザー(id:6810959)

2023年04月13日23:58

91 view

本●「雨のみちのく・独居のたのしみ」

本●「雨のみちのく・独居のたのしみ」(新潮文庫)
山本周五郎・著

読了。

山本周五郎のエッセイ集。
タイトルの「独居のたのしみ」に引かれて読みはじめた。
ところが独居といっても、山本周五郎の場合は執筆に集中するために借りた家でいつしか寝起きするようになり、朝食は自分で作るのものの、夕食は2キロ離れた実家から、奥さんが手料理を運んでくれるというものだった。
私も独居老人なので、なにか参考になるかとおもったが見当外れだった。
そもそも山本周五郎の小説を一冊も読んだことがないこともあり、正直あまり面白くない。
ところが、終盤にまとめられた師走の街を点描した数編に、なんともやるせない思いになる。
とりわけ、世間では「あまてらす景気」と呼ばれた頃、繁華街の裏通りでくず屋の女が、4〜5歳の男の子ふたりに、2歳ほどの女の子と乳飲み子に食事をさせている場面を書きとめた「景気のこちら側」という一編が印象深い。

“裏町のほこりたつ道の上で、四人もの小さい子供に食事をさせる気持ちはどんなだろうか”

と綴っている。
景気のこちら側、つまり貧しく世間の片隅で小さくなって生きている人びとのことなど、あまてらす景気に浮き立つあちら側の人たちの目にとまることはないだろうとも。
山本周五郎の小説は読んだことはないが、映画化作品は見ている。
『赤ひげ』、『どですかでん』『ちいさこべ』、いずれも市井の貧しい人びとが登場する映画だ。
「景気のこちら側」のようなう一文に接すると、強い人や偉い人や金儲けのうまい人でなく世の中の片隅で生きる貧しい人たちへのまなざし、といった山本周五郎という作家の資質がよく分かる。
黒澤明をはじめ、多くの映画監督たちが山本周五郎の原作を映画化したのは、“貧者へのまなざし”という、彼が持つ資質への信頼だったのではないかとおもった。



6 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年04月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30