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2022年08月23日22:13

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映画『PLAN75』

8/21(日)、シネマイーラ浜松で『PLAN75』を観た。
フォト


早川千絵が監督をしたこの映画は、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、カメラドールのスペシャル・メンション(特別表彰)を受賞した。新人監督賞の次点という高い評価だ。
元々は、是枝裕和が総合監修をした国際協同プロジェクトによるオムニバス映画『十年 10 years Japan』(2018)の中に、早川千絵の同名短編があった。早川は自身これをベースに、キャストも一新し作り直した。それが本作である。早川にとって最初の長編映画となった。

タイトルの「PLAN75」とは何か?
2025年の日本は、今よりも更に高齢者割合の高い社会となっている。
政府はこの状況を打開するため、75歳以上の老人が自ら安楽死を選択できる制度を作り、国を挙げてキャンペーンを張る事となる。
現在から僅か3年後の事で、この映画にはひしひしと感じられるリアリティがあり、日本にはその背景となる要素が既に色濃く存在する。

冒頭では、若い男が、障害者か高齢者の施設を襲い、銃で無差別殺人を犯し自らも死ぬという事件が、フラッシュ的に短く挿入されている。
「皆がこの事について考えるように敢えてやった」、そう言い放つ男の声が残されている。
2016年、実際に神奈川県の知的障害者施設Y園で発生した大量殺傷事件を思い起こす。
加害者の、障害者は生きている価値がないという身勝手な発言を、記憶しておられる方も多いだろう。

不要な人等この世にいない。
「多様性の否定」という意味では、こちらは敢えて本名を書くが、自民党の杉田水脈(みお)衆院議員(*)の発言は、立場からすればもっとタチが悪い。
「LGBTのカップルのために税金を使う事に賛同が得られるのか。彼等彼女等は子供を作らない、つまり生産性がない。」
同じく自民党の簗(やな)和生衆院議員(*)の「生物学上、種の保存に背く」という趣旨の発言も記憶に新しい。
彼等の命の価値を生産性のみで測ろうとする思想の根っこは、Y園の大量殺傷犯と共通性がある。
増え過ぎた老人の皺寄せを若者が負っている、これが日本が数十年間抱え続けて脱却できない諸問題の元凶である、等と短絡した主張をする人物が出てきてもおかしくはない。

(*)この2人は、今回の第2次岸田改造内閣において、前者が総務政務官、後者が文科省副大臣となった。岸田はこの2人の思想や人間性を認めて採用したのだ。

映画では、日本の街中のあちこちに「プラン75」のポスターが貼られ、テレビでは膨大な量のCMが流れる。曰く、申し込めばすぐ現金で10万円貰えて、それは何に使ってもよい。住民票はなくてもOK。処置と葬儀は無料、本人にも家族にも負担はかからない。専門家が最期迄心のケアを行う。気が変わればいつでも辞められるし、最期は痛みもない。等々、キャンペーンはあくまでもキャッチ―で且つソフトである。
役所内は勿論、公園や駅前にも臨時の説明所や申し込み受付が設置される。

主な登場人物は4人。

1人は78歳の女性ミチ。夫とは死別、1人で狭いアパートに住む。
同じ年頃の女性達と一緒にホテルの清掃係をして僅かな収入を得ていたが、ある日全員解雇されてしまう。
同時にアパートが取り壊しされる事となり、代わりを探さなければならないが、貯蓄も殆どない無職の老人に貸してくれる物件もない。
日雇いの夜間交通整理の仕事もしてみたが、78歳の女性としてはさすがにきつかった。
次第に生き辛さを感じるようになり、「PLAN75」に申し込もうかと資料を貰ってくる。

ヒロムは「PLAN75」の提携企業の若手で、あちこちの現場に出てお年寄りに案内・説明・勧誘を行い申し込み提出に導く窓口業務を行っている。
CMのせいもあって世間はこの施策を是認する雰囲気が濃くなる。
申し込み者は日に日に増え、残業をしないと追いつかないありさま。
ある日、受付リストの中に叔父の名を見つける。亡父の弟に当たる人だが、殆ど付き合いはない。
業務ルール上、近親者は担当できないため、引き継ぐ事とする。しかし、気になって、彼のアパートに行ってみる。PLANを前提に、部屋はもうあらかた片付いている。叔父の孤独で貧しい暮らし。

瑤子は「PLAN75」の別の提携企業のコールセンターに務める。
申し込んで来た人達に定期的に電話で会話をし、質問や心配事を聞く等して、安心させ、支える。ありていに言えば、彼等が気が変わって辞めると言いださないようにする、つまりPLAN完遂がミッションの実態である。
会話は電話のみ、それ以上深入りしてはならないというルールがある。情が通えば、死を押し留めたいという思いが湧く事もあり得る。そんな不都合も起きかねないと上層部は考えているらしい。

マリアはフィリピン人。日本にやって来て老人介護施設の仕事をしている。
母国に置いてきた娘は病を抱え手術が必要。大金がかかるため、より高給な勤め先を探している。
「PLAN75」関連の募集を見つけ、その提携企業に移る事とした。
彼女の職場は申し込みをした老人が安楽死を迎える場所で、死後、遺品処理・遺体処理をするのが仕事だった。
PLANのパンフレットには「ご遺体は提携寺院や教会で丁重に永代供養します、ご安心を」と美辞が並べられているが、実態は「処理」と呼ぶべきものであった。

ミチは「PLAN75」に申し込む決心をした。
定期的に瑤子から電話がきて、ミチはとりとめのない話をするだけなのだが、それは最期への日々を送る彼女の慰めとなった。
また、瑤子の方にも、ミチのひととなりに感じ入るものがあった。
瑤子はルール違反を承知でミチと会う事となる。
1日一緒に遊び会話をして、僅かでもミチという人に対する理解が生まれると、同時に、自分のしている仕事に対する疑念が瑤子の心中に沸き起こってきた。映画はそれを具体的に描く事はしないが。

ミチに最期の日が近づいてくる。
頼んだ出前寿司を食べると、その器を水洗いし、手拭いを吊り棚にきっちりと掛け、部屋をきれいに片付けた。最後迄自分の性格が出てしまう。国から貰った10万円は殆ど残ってしまった。
瑤子にお寿司が美味しかったと話し、電話機をきれいに拭いてプラグを外し、外に出る。

瑤子はもう一度ミチと話したくなって電話をするが、つながらない。

ヒロムの叔父にも最期の日がやってくる。
ヒロムは車に叔父を乗せて、あちこちドライブし、食事をし、半日伴に過すが、会話は弾まない。
そして、とうとう「処理」が行われる人里離れた場所へと彼を連れていく。
叔父は振り返らず、ゆっくりとそのビルへと歩いていった。

このビルの1室では、マリアが次々遺品の整理をしている。
逆さにされたバッグからは、様々な物が音をたててトレイの中へ落ちる。
マリアを雇った会社の業容には「産業廃棄物処理」「動物の死骸処理」という単語も並んでいた。

ビル内を歩いていくミチの目の前には、廊下と仕切られた事務的な部屋が長く連なっている。
看護師にある部屋に案内され、ミチはその中のベッドの1つに横になる。
カーテンが閉ざされる。
その後、隣のベッドにも人が入ったようだった。
ミチは看護師に人工呼吸器を装着される。
横を見ると、カーテンが少しだけ空いており、やはりこちらを向いて横たわっている男性の眼だけが見えた。
ミチにとっては見ず知らずだが、観客はそれがヒロムの叔父である事に気付く。
2人の人工呼吸器を通した息の音が聞こえる。
それは次第に低くゆっくりになる。

これで映画は終わる事になると思って私達は見ているが、だが、そうではない。
このあとの展開をどう書けばいいか、私はひどく迷う。

私の理解や想像は横に措いて、画面に写しだされた事だけを書きとる事にしよう。

 ・・・

ヒロムが件のビルの廊下を駆けてくる。
あちこちの部屋を覗いて、叔父のベッドを見つける。
叔父の遺体を抱き上げようと四苦八苦していると、そこへ偶然マリアが来る。
ヒロムはマリアに手伝ってもらい、可搬ベッドで叔父の遺体を運び出し、何とか自分の車に乗せ、走りだす。

ヒロムはスマホであちこちに電話し、火葬場の空きを尋ねるが、なかなかない。
無理すれば今夕に入れられるというところをようやく見つけ、車のスピードを上げる。
フロントガラスに雨滴が落ち始める。
ワイパーの単純な動作。
と、うしろからパトカーのサイレンが聞こえる。
ヒロムは車を止め、警官に求められて免許証を提示する。
警官は訊く、「助手席はどなた?」
ヒロム「叔父です。」
警官が叔父をどう見たのか、分からない。

このあとヒロムは警官にどう処置されるのか?カメラは追わない。
観客は想像を働かせるしかない。

画面が切り替わり、ミチが暮れなずむ山道を1人歩いていく。
ミチは死ななかったらしい。映画はその理由について語らない。
ミチは遥か向うの山陰に沈んでいく陽を見つめながら、小さくかすれるような声で歌を歌う。
ホテルの清掃員仲間達とカラオケに行った時、皆で一緒に歌った歌だ。

 リンゴの木の下で
 明日また会いましょう
 黄昏、赤い夕陽、西に沈む頃に

    〜作曲・作詩 ハリー・ウィリアムズ/エグバート・ヴァン・アルスタイン(1905)
     訳詩 柏木みのる

 ・・・


監督・脚本 早川千絵
撮影 浦田秀穂
美術 塩川節子
照明 常谷良男
音楽 Rémi Boubal
編集 Anne Klotz

出演 倍賞千恵子,磯村勇斗,たかお鷹,河合優実,ステファニー・アリアン,大方斐紗子,串田和美 他

2022年/日本,フランス,フィリピン,カタール
 
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