mixiユーザー(id:6810959)

2020年06月23日23:55

102 view

映画日記『女優 原田ヒサ子』『精神0』

2020年6月23日(火)

『女優 原田ヒサ子』(2020年)
監督:原田美枝子
今池・名古屋シネマテーク

女優・原田美枝子の認知症になった母親のヒサ子さんが、「自分は15歳から映画に出てる女優だ」と言いだした。
15歳から女優をしてるのは、娘の原田美枝子だ。
誰が見ても、娘の人生と自分の人生がまぜこぜになったのだろうとおもう。
ところが、原田美枝子はかつて父親と交わした会話から、ひょっとしたら女優というのは母親自身の夢だったのではないのかとおもう。
その夢を叶えるために原田美枝子が監督となり、彼女の息子や娘たちの協力を得て、女優となった原田ヒサ子の前にカメラを置いた。
カチンコが鳴る。カメラが回る。
そして、その瞬間・・・・

原田美枝子が10代のころに撮った『大地の子守歌』や『青春の殺人者』を見て、きっと鼻っ柱が強い、生意気な女優さんだろうとおもった。
本作を見ると、実際そうだったらしい。
それがまあ、こんなりっぱな孝行娘になるとは。
奇跡のような一瞬を含め、幸せな気分になる22分。


『精神0』(2020年)
監督:想田和弘
今池・名古屋シネマテーク

『精神』(2008年)で、心を病んだ患者さんたちから絶大な信頼を得ていた精神科の医師、山本先生のその後を追ったドキュメンタリー。
撮影時、82歳となった山本先生は引退することになった。
突然の引退に、通っていた患者さんたちに動揺が走る。
そんなひとりひとりに、最後まで山本先生は耳をかたむけていた。
いっぽう、前作から10年という時間が過ぎ、山本先生には老いが見え、奥さんの芳子さんはあきらかに認知症になっていた。
説明などはいっさいないが、先生の引退は、奥さんの事情があってのことだろう。
そして、映画は寄りそうように暮らす老夫婦を撮っていく。

これから出前でとった寿司を食べようというのに、芳子さんが茶菓子の饅頭を食卓に持ってきてしまう。
普通だったら、叱るか舌打ちするところを、まったく気にすることなく、「下へおろそう、下へおろそう」と床におろして片付けてしまう。
山本先生には強圧的なところが微塵もない。
奥さんがささやくようにしゃべるのだが、私には何を言っているのか、まったく分からなかった。
ところが、山本先生には奥さんの言っていることが分かるみたいだ。
奥さんの言葉にうんうんとうなずく相づちも、適当ではなく、そのあとに言葉を返していた。
長年連れ添った夫婦の会話、といってしまえばそれまでだが、山本先生というのは、他人の言葉をちゃんと聞いてあげることができる人なのだろう。
自分のことを思い返しても、椅子にふんぞりかえることなく、時間をかけて他人の話を聞いてあげるというのは、なかなかできることではない。
山本先生の姿から、とても大切なことを教えてもらった気がした。

映画はHPで想田監督自ら語っているように、「純愛」映画だった。

想田監督といえば、本題とはまったく関係なく、そこらへんにいる野良猫が登場する。
本作でも町中の猫が出てきた。
いっぽうで、本作にはそこらへんにいる高校生たちにもカメラを向けていた。
ほとんど意味がないようなショットだ。
ところが、終盤近くになって、山本先生夫妻が、実は高校時代の同級生だったことがあきらかになる。
つまり、60数年に亘る純愛なのだ。
本作は、今を生きる高校生たちへのエールでもあるのだろうとおもった。


9 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年06月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930