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2020年05月24日10:43

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■7日間ブックカバーチャレンジ 4日目

■7日間ブックカバーチャレンジ 4日目


●「アメリカひじき・火垂るの墓」(野坂昭如:著)

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高校生になり、流行作家の小説を読むようになった。
私の周囲でも、五木寛之や筒井康隆を読んでるという話を聞くことが多かった。
そんな中で、私が夢中になったのが野坂昭如だった。
思春期の好奇心おもむくままに手にした「エロ事師たち」の次に読んだのが、「アメリカひじき・火垂るの墓」だった。6篇を収めた短編集だ。
後年、アニメの原作にもなり、野坂昭如の代表作となる「火垂るの墓」が有名だが、私は「焼土層」というわずか30ページほどの作品に打ちのめされてしまった。

空襲と敗戦で、養父と財産をなくしてしまった、息子と養母の話だ。
困窮の中で、養母は息子を血のつながった父親に返した。
送り返された息子は、初めのうちこそ、しおらしく養母を恋しがってみせたが、これまでとは比べものならない裕福な暮らしに、しだいに貧しかった過去を嫌うようになっていく。
そして時が流れ、いまは芸能プロダクションの管理職になった息子に、養母が亡くなったという電話が入った・・・・

“私が棄てた女”ならぬ、“私が棄てた母親”だ。
いまさら貧しさに関わりたくない、というエゴイズムが他人事でない。
自分の腹を見透かされたような気分になり、ついには、ラストの数ページに、生まれて初めて、本を読んで泣いてしまった。
幼稚園や小学生の低学年ころに、「フランダースの犬」みたいな悲しいお話を聞いて、しゅんとなったことはあるが、泣くことはなかった。
小学校の中高学年や、中学生になっても、本を読んで笑うことはあっても、泣いたという記憶がない。

いまになって、本を読んで泣くというのは、子ども時分では分からなかった人生の機微というものが分かりかけてきた証左のようにおもえる。
世の中には、貧富の差や、いわれのない差別といった、ちっぽけな自分にはどうしようもない理不尽が山ほどあることに、ようやく気づいたということだ。
「焼土層」がきっかけになったのかどうか分からないが、それから以降は小説だけでなく、『砂の器』のような映画を見たり、「ヨイトマケの唄」のような楽曲を聴いただけで、感情が昂ぶって、みっともなく泣いてしまうことがしばしばだ。

というわけで、野坂昭如のこの1冊が、私を少しだけ大人に近づけてくれた。


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