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2019年09月03日11:00

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森美術館 「塩田千春展:魂がふるえる」〜その2

(続き)

次の展示は本展のための新作《小さな記憶をつなげて》(2019)。

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小さなアンティーク調の様々な家具や楽器、トランク等が多数床に並べられている。無造作のようだが、ある物とある物は赤い毛糸でつながれている。
これらを愛して持っていた人は今やおらず、しかし、その記憶や歴史は残って、魂がか細い糸でつながっている。

これらは全てこの2年程のうちに集められた物らしい。
塩田の私的部分に立ち入る事になるが、2005年、彼女に卵巣がんが発見された。ステージ1だった。
臓器を残すか否か決心しなければいけなくなった時、彼女は残す方を選んだ。
そのおかげで、娘を授かり、現在10歳、元気に成長している。
だが、再び卵巣がんが発見された。2年前、本展のオファーを受けた直後の事だった。ステージ3だった。
今回は、卵巣,子宮,腹膜を摘出した。
続けて抗がん剤治療を3週間サイクルで6回行い、その間を縫ってベルリンから幾度も来日、展覧会場を見、構想を練った。

彼女の作品は、1つの展覧会が終わると、例えば毛糸等は切って処分される。形通り保存する事は不可能だそうだ。次の展覧会では、同じタイトル作品を再現するにしても、新しい会場で、毛糸は一から張り直さねばならない。
こうした展覧会向けの作業は、塩田組10人の熟練チームが集中して行う。例えば前出の《不確かな旅》は、この10人が10日間かけて作業した由。
塩田本人不在でできる事もあるだろうが、本人が現場で指揮しなければ不可能なケースの方が多いに違いない。

それはともかく、ミニチュア家具等の収集は、それ以前から始められていたけれども、今回の手術以降、特に拍車がかかった。
1つ1つの古いミニチュアの影には生と死が覗く。そして、小さな魂が赤い糸でつなげられていく。
この作品を作るにつけ、塩田は、治療を続けながら、がんを恐れ「生と死を感じる2年間だった」と述懐している。
この展示室の向うの大きなガラス窓からは、東京の街がまるでおもちゃのように眺められる。日本伝統の「借景」の考えが採り入れられたのだろう。

次の作品は《静けさの中で》(2002/19)。

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《不確かな旅》と毛糸のモチーフは同じだが、色は黒である。
色が違う事でイメージ世界は全く違う。
糸がつないでいるのは、焼け焦げたピアノ、そして様々な形の、これも焼け焦げた多数の椅子である。
過去には、ピアノが奏でた音が椅子に座る人達の耳に優しく届いた日があったに違いない。
塩田は9歳の時、隣家の火事に遭遇した。
彼女は翌日黒焦げになったピアノを見た。そのピアノから美しい音色が流れ出るのを想い浮べた。
赤い糸は、人と人のつながりをイメージさせる。毛細血管を流れる血液の色でもある。
対して黒い糸は、遠い距離、広大な宇宙を想像させる。真っ暗な宇宙に吸い込まれてチリとなった魂の孤独を感じさせる。

《内と外》(2009/2019)では、たくさんの古い窓枠が組み直されて立ち上がっている。

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塩田は旧東ベルリンのアパートや家の解体工事現場から、窓枠を貰って集めた。彼女のベルリンのアトリエに、その数は2,000を超えるそうだが、そのうち230を使用して今回組み立て直しをした。
窓やドアは自分と外部を分断するものでもある。
そういう発想から、衣服が第2の皮膚であったように、「窓は第3の皮膚」である。
その窓から人は外を眺めた。その人の痕跡が窓には残っている。
ある人は、東ベルリンのアパートから、「壁」の向うに自由な家並みや空気を羨望をもって眺めたかもしれない。

《集積〜目的地を求めて》(2014/19)

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赤いロープによって、古いスタイルのトランクがぶら下げられている。その数は430個。
コマ付きやアルミ素材等の新しいスタイルの物はない。みな古臭く、汚れている。
一部のトランクにはモーターが内部にしかけられ、ロープの先でゆらゆら動く仕掛けになっている。
ある日、塩田はベルリンり蚤の市で売られていた古いトランクの中に、第2次大戦中の新聞を見つけた。そこには持ち主のメモが残されていた。
1つ1つのトランクには持ち主がいて、彼等の歴史をその中に隠している。それは、ある時は、旅に出かける朝のうきうきした気持ちかもしれない。
移動を強いられたユダヤ人がなけなしの物を慌てて詰めたかもしれない。今も多くの難民が、世界各国からドイツにやってくる。
冷戦後収まりかけた分断は、最近再び激しさを増し、塩田の「不在の中の存在」のテーマは普遍性を持って観る者に訴えかける。
 

〈参考資料〉
放送;
[ぶらぶら美術博物館]
『塩田千春展とクリスチャン・ボルタンスキー展』
ディレクター 中城よし子
放送 8/6 BS日テレ

書籍;
月刊[芸術新潮]2019年8月号
『塩田千春 死と寄り添い、走り続けた2年』
執筆 かないみき
発行 2019年7/25新潮社
 
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