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2019年09月02日23:59

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映画日記 『風をつかまえた少年』 『ラブ ゴーゴー』 

2019年9月2日(月)

『風をつかまえた少年』(2019年)
監督:キウェテル・イジョフォー
伏見・ミリオン座

世界が9・11で大騒ぎだったころ、アフリカの貧しい国を干ばつが襲う。
不作のあおりを受け、農家の息子・ウィリアム少年は学費を納めることが出来ずに、せっかく通いはじめた学校へ行くことができなくなった。
しかし、姉の恋人である教師のお目こぼしによって、好きな理科の授業だけはこっそり受けることができた。
さらに、勉学に燃えるウィリアムに好感を持った女教師もまた、彼女が担当する図書室の本を彼が読むことを秘かに許した。
その図書室でウィリアムは風力発電の本と出会う。
風力によって電力が確保できれば、廃棄物の中から見つけたポンプを使うことができる。
ポンプが動けば、井戸水を乾ききった農地に水を運ぶことができる、それも一年中だ。
一年中、農地に水を供給できれば、干ばつを恐れることもなくなり、二期作だって可能だ。
収穫が増えれば、この貧しさから抜け出し、ふたたび勉学に励むことができる。
ウィリアムはその夢と希望に向かって立ち上がるのだったが、そこには彼が予想もしなった多くの困難が待ちかまえていた・・・・

作り手の思いが伝わる、とてもストレートな映画で共感が持てる。
世界の各地には、まだまだ無数の貧困があることを、あらためて知ることになった。
先日、『存在のない子供たち』を見たときもおもったが、いくら映画を見たところで、貧困や理不尽は無くならない。
いくら『二十四の瞳』や、先月見た『ひろしま』のような反戦映画を見たところで、戦争はなくならない。
世の中には映画だけでなく、反戦や反差別や反貧困を人々に問いかける、歌や小説や芝居やアート作品がいくらでもあるのに、私がおもうような世界には、なかなかなってくれない。
それどころか、ひとつも反省せず二度も戦争を煽るような馬鹿が出てくる状況を、ゆるしてしまっている。
ということは、映画や歌や小説や芝居やアート作品は無力なのか?

そうではない。
なにも知らなければ、なにも考えなければ、人間はすぐにでも狂気と絶望におちいってしまう。
そんな狂気と絶望にあらがい、なんとか正気であるために、映画や歌や小説や芝居やアート作品はあるのだ。

困難に立ち向かうウィリアム少年の前に、最後に立ちはだかったラスボスというのが、父親だった。
本作は、子どもが親を乗り越える映画でもあった。
乗り越えるための武器、それは腕力でなく、教育と知識に裏打ちされた理性だった。
そして、必死になって自分を乗り越えようとする息子の姿に、理不尽な現実になにもかも絶望した父親が見たのは、希望だ。
『風をつかまえた少年』は、とても真っ直ぐな、希望の映画だった。


『ラブ ゴーゴー』(1997年製作 リマスター版)
監督:チェン・ユーシュン
駅西・シネマスコーレ

台北の狭いアパートに、風采のあがらないパン屋職人と、彼の腐れ縁みたいな友人で、まったくイケてないミュージシャン志望の男が住んでいた。
そのアパートには、食い気だけで色気なしのポッチャリ娘も住んでいた。
うだつのあがらない三人は、いつもつるんで、ダラダラとした日々を過ごしていた。
そんなある日、パン屋職人の前に、子ども時代にほのかな恋心を抱いた女性があらわれた。
パン屋職人の胸がときめいた。
ポッチャリ娘にも、転機が訪れる。
ある夜、彼女は道ばたでポケベル拾った。
憂さ晴らしに、ポケベルの持ち主にいたずらで電話してみると、留守電に若い男の甘い声のメッセージが残っていた。
その声に、これぞ運命の出会いと、ポッチャリ娘は舞い上がってしまう。
いっぽう、どうみてもノルマが達成できなさそうな、飛び込みで痴漢撃退の防犯グッズを売っている不器用な青年が、台北の街を歩き回っていた・・・・

同じ監督の昨日見た『熱帯魚』に続いて、こちらも愛すべき1本。
パン屋職人というのが、小太りのメガネ男だった。
まずは私の分身みたいな彼の風采に、親近感を覚えてしまう。
そして、突然よみがえった恋心を綴った彼の手紙に、涙がこぼれた。
ポッチャリ娘の哀しさも、よく分かる。
ようやく才能のなさを自覚し、夢なかばで退場していくミュージシャンの姿は、多くの人が青春時代にたどってきた道だ。
不器用なセールス青年に、かつての自分を重ねる人も多いはず。

人生というのは、思いどおりにはならないと、つくづくおもう。
それでも、『ラブ ゴーゴー』の登場人物たちと同様に、どんなにみっともなくても、ぽちぽちと生きていくしかないのだ。
笑いながらも、見終わると心にしみる。

傑作!!


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