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2019年03月19日23:40

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映画日記 『岬の兄妹』 『ペパーミント・キャンディ』

先週末は、1泊2日で大阪遠征。
2日目は京都で2本。

2019年3月17日(日)

『岬の兄妹』(2019年)
監督:片山慎三
京都桂川・イオンシネマ京都桂川

攻めてるなあ。

とある海沿いにある地方の町に住む、兄と妹の物語。
足に障害のある兄は、景気の悪い勤務先の工場をクビになってしまった。
シングルマザーだった母親はすでに亡くなり、同居する妹は自閉症だ。
貯えもない兄妹は食べる物にも事欠き、ティッシュを口にするしまつ。
そのうち、プツンと電気が止まった。
困り切った兄は、妹を1時間1万円で売ることにしたのだが・・・・

今の無菌状態の日本映画では手を出さないようなドロドロとしたスキャンダルな設定だ。
しかし、昔の日本映画では特段珍しいことではなかった。
『(秘)色情めす市場』や、『追悼のざわめき』挙げるまでもなく、勝新が妹との近親相姦を夢想する『やくざ絶唱』など、一般向けの娯楽映画でもヘンな映画がいっぱいあった。
ところで、いじめに遭ってる少年が妹とセックスをして、人生は捨てたものじゃないと、さとるシーンが出てくる。
森崎東監督の『喜劇 女は男のふるさとヨ』(1971年)で、受験に失敗し死のうとした童貞青年に、セックスをすれば自殺を思いとどまるのではと、身体をひらくアオカン星子を思い出す。星子役は緑魔子だ。
そういえば、『喜劇 女は男のふるさとヨ』でも、悪党やくざをギャフンといわせる糞尿シーンがあった。
ということで、私には『岬の兄妹』が、場末の映画館で見たロマンポルノみたいな、昭和っぽい映画に見えた。
本作の設定や登場人物たちの露悪趣味が、作り手たちの今という時代と、今の日本映画への違和感の表明だとしたら、異議をとなえるつもりはない。

どうでもいいことだが、本作に『ROMA/ローマ』と、アクの強い映画が『機関車トーマス』でおなじみのイオンシネマが独占上映している。
イオンシネマ、どうしちゃったんだろう???


『ペパーミント・キャンディ』(2000年)
監督:イ・チャンドン
京都四条烏丸・京都シネマ

『バーニング 劇場版』がめちゃ良かったイ・チャンドン監督の旧作上映だ。
こちらも良かった。

頭上に汽車が走る鉄橋が横たわっている河原で、中年男女が酒とカラオケを楽しんでいた。
そこへ、たちの悪い酔っぱらい男がちん入してきた。
この酔っぱらい男、中年男女のグループのかつての仲間だったらしいが、何が気にくわないのか、勝手に騒いで場を白けさせてしまう。
そのうち、鉄橋に上がってしまった。
「危ないから、降りろ」とかつての友人たちが口々に叫ぶが、男は聞く耳をもたない。
そうこうするうちに、鉄橋の向こうから轟音を立てた機関車があらわれて・・・・

その、3日前、男は銃を手に入れていた。

銃を手にする数年前、男は羽振りのいい経営者だった。
しかし、妻は浮気をし、彼自身も会社の部下と深い仲になっていた。

さらに、映画は男の過去へさかのぼっていく。

単線の鉄道を進んで行く車窓風景がエピソードの合間に挟まれた。
私のように運転手席のうしろに立って、ぐんぐんと近づいてくる前方の風景と遠くまで伸びた銀色に輝くレールを眺めてるだけでうれしいという、鉄道バカにはたまらないシーンだ。
ところが、途中でこれは先頭車両から撮った風景でなく、列車の最後尾から撮った風景を逆回転で映していることに気づいた。
結局は破滅するしかなかった男の人生を逆回転していく映画の象徴だ。

やがて私たちは、男が「人生は美しい」とおもう一瞬を目にすることになる。

『ROMA/ローマ』の、天空の飛行機は神だろうとおもった。
『ペパーミント・キャンディ』の見上げる鉄橋と、そこを走る列車は、個人の力ではどうにもならない時代のうねりのことだろう。
主人公の男ほどドラマティックではないが、私が就職した40数年前から現在までの間にだって、時代はめまぐるしく変化していった。
ちょうど今時分、大学は出たけれどオイルショックの就職難で、職がみつからず暗澹とした春、なんとか職にありついたら、やがてバブルがやって来てこの世の春を謳歌し、この春がいつまでも続くとおもってたらバブルがはじけ、なんか調子が悪いなあとおもっているうちに歳をとり、気がつけばまわりの若い人たちにとって今の時代は春どころか氷河期という。その氷河期の長いこと・・・・
私ごときの個人史を本作にあてはめるのもおこがましいが、ともかく過ぎし人生をふり返り、胸がズキンと痛くなる1本だった。

ひとりで青年時代から中年までを演じる、主人公役のソル・ギョングがすばらしい。。

傑作!!



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