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2019年03月06日23:41

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映画日記 『深夜の告白』

2019年3月6日(水)

『深夜の告白』(1949年)
中川信夫:監督
日本映画専門チャンネル【録画】

佳作。

戦争の傷跡があちこちに残っていた時代の話。
横浜の闇市の一角で、アンコと呼ばれる港湾労働者相手に、安い酒と煮込み料理をだしているバラック小屋の飲み屋のオヤジ(小沢栄=小沢栄太郎)に、「はやかわさん!」と声をかける若いアンコがいた。
オヤジは「おれは久保田だ」と取り合わない。
ふたりの様子を見ていた小悪党の松木(東野栄治郎)は、何か裏があるとにらんだ。
若いアンコは、変装した新聞記者の森口(池部良)だった。
久保田と名乗る男は、森口の親友で戦死した早川浩之の父親・早川道平に間違いない。
早川道平は軍用飛行機会社の社長だったが、戦争中に謎の失踪をし、その原因が横領であったとされていた。
誰もが死んだとおもっていた早川道平が生きている。
森口は、早川の娘で、いまは上流階級の若奥様におさまっている峰子(三宅邦子)と、かつて早川家の女中で、いまはキャバレーのマダムをしている七重(山根寿子)に、早川の生存を知らせた。
七重は浩之の忘れ形見の浩一を女手ひとつで育てていたのだ。
生きていた早川の存在が、人々の記憶をよびさまし、波紋が広がっていった・・・・

誰が主役というより、見事な群像劇だった。
登場人物それぞれが、戦争と旧弊な家制度によって運命を狂わされていた。
敗戦から4年後の映画だ。
あの当時の観客が持っていた感情の一端を知ることができる
戦争をしてしまったことへの悔恨と、家父長的なものへの怒り、そして新時代への希望だ。
分かりやすいといえば、分かりやすいが、戦争をかいくぐってきた人たちの、確かな本音であることには間違いない。

さきに群像劇と書いたが、見どころは俳優たちの競演だ。
おもな登場人物ひとりひとりに、下世話な言い方になるが、見せ場がある。
じわじわと涙目になる三宅邦子、小悪党の意地をみせる東野栄治郎、マダム役の山根寿子が、「戦争が終わってから、息子には言えないようなことをして生きてきた」と訴えるシーンに胸がつまる。
その山根寿子のパトロン役が河津清三郎だった。
てっきり悪役だろうとおもっていたら、これが一番美味しいところをさらっていく。
山根寿子に「もう、お酒はよしなよ」と声をかける優男ぶりに、しびれてしまった。

ぴょんぴょんぴょんと石段を元気よく駆けのぼっていく月丘千秋が清純で可愛い。
まあ、可愛いといっても、私よりうんと年上の方だ。
大女優・月丘夢路の実妹、現在93歳で、ご健在とのこと。

グーンと寄ったり、グーンと離れたりする撮影や三面鏡を使ったシーンも面白い。

中川信夫監督といえば、『東海道四谷怪談』や『地獄』、テレビドラマの『プレイガール』シリーズの怪談物というイメージがどうしても強い。
しかし、外連味を排した、こういうキッチリとした映画を見てしまうと、怪談物は彼が持っていた技量の、ほんの一部でしかないのだろうとおもった。


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