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2018年09月13日02:40

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映画日記 『菊とギロチン』 『散歩する霊柩車』

先週末、大阪でのJR線乗りつぶしと並行して、映画を3本見てきた。

2018年9月8日(土)

『鬼の詩』(1975年)
監督:村野鐵太郎
大阪九条・シネヌーボ

直前の立ち食いうどんのせいで血糖値があがってしまい、途中から船をこぎだし、ついに沈没してしまった。
せっかくの初見が、残念なことになってしまった。
やっぱり、年なのかなあ。
まあ、久しぶりに片桐夕子のオッパイが見られたからよしとする。

ということで、次の作品は18:30からの上映だったが、夕食をとらずにのぞんだ。


『菊とギロチン』(2018年)
監督:瀬々敬久
大阪十三・セブンシアター

名古屋で見逃しになってしまった1本。
上映時間が3時間を超えるので、受付の方に途中休憩はあるのかと聞いたら、「ない!」と、即答されてしまった。
眠気だけでなく、オシッコのことも心配だ。
途中で席を立つことになっても迷惑にならないよう、いちばん端っこに座った。

結局、眠気もオシッコも杞憂だった。
3時間9分が、あっという間だ。

大正末期に各地で人気を博した女相撲と、実在したアナキストグループ・ギロチン社とが、映画という空想の中で交錯する群像劇。
貧窮と男性優位の理不尽に立ち向かう女性たちと、テロリストという組み合わせに、加藤泰の『日本侠花伝』(1973年)を思い出した。
いまも加藤泰が生きてたら、「俺に撮らせろ」と、言ったことだろう。

大正デモクラシーの気運にかげりが差し、震災後のデマによる虐殺と甘粕事件、しだいに戦争の茶色い時代へと転がりおちていく時代背景に、いまの日本を重ねていることは明白だ。
その描き方は、はっきり言ってアジテーションだ。
そして、アジテーションであっていい。

今年の初めは、松坂桃李とおもったキネ旬の主演男優賞が、ここにきて本作と『寝ても覚めても』の合わせ技で、東出昌大にかたむいてきた。
ヒロインの菊を演じた木竜麻生のひたむきさに好感がもてた。
多幸感あふれる浜辺でのダンスシーンと、女相撲の「いっちゃな節」が印象に残る。
『菊とギロチン』という挑発的なタイトルも秀逸だった。


2018年9月9日(日)

『散歩する霊柩車』(1964年)
監督:佐藤肇
大阪新世界・新世界東映

今回の大阪遠征の目玉だ。タイトルだけは昔から知っていた。
もう、見られないとおもっていたので、マイミクさんからの上映情報には驚いた。

主人公の西村晃は嫉妬深い小男のタクシー運転手、妻は浮気性で男好きのするグラマーな春川ますみだ。
ある晩、春川ますみが、首を吊って自殺した。
彼女が書いた意味深な内容の遺書を持参し、西村晃は妻の遺体を乗せた霊柩車で、浮気相手たちを訪ねて回る。
黒ネクタイの西村晃、棺の中の春川ますみ、うさん臭い運転手、3人が乗る黒い霊柩車が、オリンピック直前の東京の街をさまようことになり・・・・

いやあ、これは怪作にして傑作。面白かった。
いちおうミステリー仕立てになっているのだが、腰を抜かすような大ドンデン返しがあるわけでもなければ、『砂の器』のような感涙や社会告発もなし。
もちろん、不条理で難解な芸術映画でもなければ、ポップな作りのアート映画でもない。
なにしろ、霊柩車だ。

この映画の面白さを伝えるのはむずかしい。
たとえるなら、仕事帰りに定食も出すような喫茶店で、カレーを口に運びながら、雑誌棚から取りだした、「アサヒ芸能」や「週刊大衆」や「週刊実話」みたいな週刊誌の事件読み物に、ついつい夢中になってしまったときのような面白さだ。
男と女の色と欲が絡み合う事件と、その皮肉な結末。
めでたい結婚式場に、霊柩車があらわれるといったブラックな語り口も面白かった。

ところで、当時の作り手たちはまったく意図しなかったことだろうが、本作の封切りは1964年10月3日だった。
つまり、国家的なめでたい事業である東京オリンピック、その開会式が行われた10月10日の直前の週だ。
この頃は10日間ほどの興行だったので、開会式のときになっても、霊柩車の映画が全国でかかっていたことになる。ちなみに『散歩する霊柩車』の併映は『くノ一忍法』だった。
こんなことは東映だけかとおもったら、同時期の大映の封切りは『悶え』と『これからのセックス 三つの性』、松竹が『新女・女・女物語』に『にっぽんぱらだいす』だ。
『にっぽんぱらだいす』といっても、いまの「クールなニッポン、すごい」という話ではない。『洲崎パラダイス』と同じで赤線の映画だ。
日活も『俺たちの血が許さない』はまだしも、もう1本が『非行少年』だ。
きわめつけが東宝だった。
『世界詐欺物語 日本篇』に『自動車泥棒』ときたもんだ。
詐欺に泥棒!!もう『万引き家族』どころの騒ぎではない。
めでたいオリンピックに、これっぽちも忖度しない当時の日本映画に、大爆笑だ。

閑話休題。
見どころはなんといっても、役者陣。
西村晃と春川ますみは、同年の春に公開された今村昌平の『赤い殺意』からの流れだろう。
痩せた小男の西村晃と肉感的な春川ますみのコンビが最高だ
そして、霊柩車の運転手を演じていたのが渥美清だった。
寅さんとは異なる、不穏な空気を漂わせている渥美清を見ることができる。
金子信雄と曽我廼家明蝶の“嫌な奴”ぶりが、ほんとうにうまい。
小沢昭一、大辻司郎、浜村純、加藤嘉、わずかなシーンであってもその顔を見るだけでうれしくなってしまう、
古い日本映画好きにはたまらない楽しさだ。
こういうのを、舌なめずりというのだろう。


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