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2018年09月05日01:38

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映画日記 『この首一万石』

2018年9月4日(火)

『この首一万石』(1963年)
伊藤大輔:監督
NHKBSプレミアム

口入れ屋のお抱え人足・権三(大川橋蔵)は、長屋住まいの浪人の娘・ちづ(江利チエミ)は恋仲だ。しかし、ちづの父(東野栄治郎)は、侍でなければ娘はやらないの一点張りだった。
その言葉に、権三はどうにかして侍になりたいとおもう。
そんなおり、小此木藩という九州の小藩から、国もとへ帰る一行に随行する雇われ人足のひとりに、権三が選ばれた。
小藩ゆえのケチぶりに、権三たち人足にとっては腹立たしいところもあったが、東海道を西にくだる旅は、のんびりとした楽しいものであった。
と、ここまではコメディタッチで、橋蔵の歌も入るという、明朗時代劇だった。
権三といっしょに旅をする人足仲間を堺駿二や大坂志郎が演じ、小此木藩の侍を汐路章や善人面をした原健策が演じたことも、道中をにぎやかにしていた。
とりわけ、人足たちにもやさしく気配りをする若侍を演じた、水原弘の好感度が高い。

しかし、旅が富士山の麓につくと、話はいっきに悲劇へとむかう。
小此木藩一行がさきに一夜を予約しておいた本陣宿に、大藩の渡会藩の大名行列が割り込んできたのだ。
侍たちの面子と意地がぶつかり合い、一触即発の事態になる。
すったもんだはあったが、大藩と小藩の力関係は歴然としていた。
だまって差し出された大金を、小此木藩の侍たちは懐に入れてしまい、脇本陣へと宿替えをしてしまう。
そんなさなか、足のケガと、ちづに瓜二つの宿場女郎を見かけたことで、一行から遅れてしまった権三が、本陣にやってきた。
そして、何も知らない権三は、こともあろうに小此木藩の槍を本陣に立ててしまった・・・・

前半までとはガラリと変わり、後半は見るのが辛くなる。
口では偉そうなことを言いながらも、いざとなると目下の者に責任をなすりつける侍たちのいやらしさが浮かびあがる。
そのいやらしい侍の中には水原弘の若侍もいた。
下層に生きる若い権三が、侍たちの馬鹿な建前の犠牲になっていく。
侍を権力者や軍人や富裕層に置きかえれば、本作が言いたいことは分かりすぎるほど分かる。
そうなのだ、権三はヘマをしでかした小此木藩の侍たちの身代わりになって、切腹することになってしまう。
権三が切腹して終わっても、そのテーマは見てる者に十分伝わる。
ところが、本作の凄いところは、ここからだった。

このまま死んでなるものか!!
侍たちの理不尽な仕打ちに、一度はあこがれたこともある武士の世界に、愛想がつきた権三が、手にした槍を必死で振りまわす。
そして、長くて凄惨な大立ち回りが始まった。

この予想外の大立ち回りには驚愕した。
汐路章への一撃は、いま見ても凄い。
殺陣のひとつひとつに、貧者というか、報われない人々の怒りがこもっていた。

傑作。


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