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2018年06月24日23:41

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映画日記 『焼肉ドラゴン』

2018年6月24日(日)

『焼肉ドラゴン』(2018年)
監督・鄭義信
名駅・ミッドランドスクエアシネマ

ときは大阪万博で日本中が沸きたち、北朝鮮への帰国事業が行われていた1970年代初頭。
関西のとある町、近くに空港があるため頭上を機体の黒い影が覆い、ひっきりなしに爆音が襲いかかる、そんな貧しいコリアンタウンの一角にあるドラゴンという名の焼肉店が舞台だ。
店の主人(あるじ)はもの静かで働き者の龍吉(キム・サンホ)、妻の英順(イ・ジョンウン)は小太りで口やかましいパンチパーマの肝っ玉母さんだ。
ふたりには長女・静花(真木よう子)、次女・梨花(井上真央)、三女・美花(桜庭みなみ)に末っ子で中学生の時生(大江晋平)がいた。
時生をのぞいて、訳ありの三姉妹だったが、いずれも美人で適齢期になっていた。
物語は次女の梨花と幼なじみの哲男(大泉洋)が婚約するということで、店の常連客たちも交えてのにぎやかな夜から始まる。
貧しいながらも言いたいことを言い合い、大声で泣いたり笑ったりする日々がいつまでも続くはずだった。
しかし、ひとは少しずつ変わっていく、それ以上に時代は急激により大きく変化していくことになり・・・・

ひとつ屋根の下で暮らす家族を通じて日本を見つめるという点で『万引き家族』にどこか通じるものを感じた。
『万引き家族』は貧困や子どもの権利への浅薄さが、『焼肉ドラゴン』では、日本という国が決して単一民族で構成されているわけでもなく、またそのために不当な差別が存在していることが浮き彫りになる。
たしかに両作品とも社会問題を告発したり啓蒙するための映画ではないのだが、そこには矛盾に満ちた日本の現実が映っていることも事実だ。
今の日本でふたつの映画がほぼ同時期に公開されたということに、偶然ではない何かしらの必然を感じる。
映画としての完成度はあきらかに『万引き家族』のほうが上だろうが、こちらはとことん愛すべき1本だった。

在日韓国人・朝鮮人の苦難を描くだけの堅苦しい映画ではない。
基本はべたな人情喜劇だ。
太陽の塔や小川ローザの「Ohモーレツ!」といった懐メロ的なネタや、ボンカレーを使った考えオチみたいなギャグに、キャットファイトでキャバレーが大混乱になるドタバタといった具合に笑いにことかかない。
とりわけ大泉洋と恋敵役のハン・ドンギュが、やかんに入ったマッコリを互いにえんえんと返盃し続けるシーンが見どころのひとつ。
とにかくこのシーンをワンカットの長回しで撮っている。
長回しであると分かってからは、おかしくってしかたがない。
ふたりがガチンコでマッコリ(もちろん本物ではないが、白い飲み物。カルピスかも)が入った茶碗を次々と飲み干していく。
そんなに飲んで大丈夫かと見てるほうがハラハラしてくるが、芝居そこのけで意地になっているふたりは見ものだ。
彼らの後にいる真木よう子が、必死に笑いをこらえているように見えたのは私だけだろうか。

見どころのふたつ目は韓国からの客演となるキム・サンホとイ・ジョンウンの存在感だ。
キム・サンホの「はたらいて、はたらいて・・・」とリフレインするセリフにグッときた。

見どころの三つ目は、三姉妹を演じた女優たち。
真木よう子は『孤狼の血』に続き好演だった。水道水で足の痛みを癒やす姿が愛おしい。
いつの間にか井上真央が図太くなり、桜庭みなみがキャバレーのホステスを演じるような年になったのかと、時間(とき)の流れの早さに感じ入る。

すべてが終わって、スクリーンには龍吉と英順の夫婦ふたりだけが残された。
泣き笑いだった『焼肉ドラゴン』にふさわしいラストシーンが秀逸。
イ・ジョンウンに大笑い!!
キム・サンホの龍吉とイ・ジョンウンの英順、日本によって母国を失い、片腕を失い、わずかな土地すらも奪われてしまった、少々くたびれた男と女が、リヤカー1台の荷物といっしょに“さあ、もういっぺん”と駆けだしていく。
まるで歌舞伎役者が花道を去っていくような幕切れだった。

映画のあとの夕食はもちろん焼肉屋だ。
大泉洋とハン・ドンギュの真似をしてマッコリをたのむ。
久しぶりに呑んだマッコリがおいしかった。


<追伸> 新聞によると本日6月24日は美空ひばり忌だそうだ。
ということで今夜は『焼肉ドラゴン』にも登場したこの曲を。
https://www.youtube.com/watch?v=XRDYL9ZcnyI


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