2018年6月7日(木)
『モリのいる場所』(2018年)
沖田修一:監督
名駅・ミッドランドスクエアシネマ
その絵を見てやんごとなきお方が「この絵は何歳の子が描いたのか?」と感想を漏らした。
その絵を描いた画家・熊谷守一の晩年期にあたる、ある1日の出来事。
坦々とした映画で眠くなるんじゃないかと思ったら、とんでもない。
とにかくおかしい。クスクス笑いの連続だ。
沖田修一という監督はすぐれた喜劇作家だ。
喜劇といっても社会風刺みたいなことは、これっぽっちもない。
ワンテンポずれた会話といったオフビートな笑いの合間に、突然ドリフのコントのようなくだらない(ほめ言葉)ギャグがはさまる。
本作だけでなく、『南極料理人』や『モヒカン故郷に帰る』や『キツツキと雨』もおかしかった。
きっと笑いに対する天性のセンスがあるのだろう。
ラジオ番組で是枝裕和監督が話していたが、『万引き家族』の樹木希林は当て書きだったという。
本作で、樹木希林は山崎努扮する熊谷守一の老妻を演じていた。
きっとこれも当て書きだ。
彼女の出演作を立て続けに見て、「そうか、笠智衆だ!!」と、思った。
笠智衆は、何を見ても笠智衆なのだが、彼が演じる役はちゃんとそれぞれの作品の中で生きている。
最近の樹木希林は笠智衆の域に達している。
彼女はかたや年金暮らしの婆さん、かたや高名な画家の妻、少し前には訳ありのアンコ職人と、まったく異なる境遇の女性たちを演じてきた。
それぞれ作品で与えられた役にきちんとしたリアリティを持たせつつ、やっぱりそこには樹木希林が存在している。
荒井注や沢田研二といった彼女のために捧げたような楽屋落ちに、脚本も兼ねた沖田監督の樹木希林への敬愛を感じた。
『万引き家族』同様、脇役陣も好演。
とくに熊谷家のお手伝いさんみたいな役を演じた池谷のぶえと、最初は嫌な感じだったカメラマン助手役の吉村界人が印象に残った。
追伸:エンドロールの林与一にびっくり。その名が出た途端、私だけでなく場内がちょっとざわついた。
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