『「・・わたし、良一に死なれて、毎日くり返し、一言ゆるすと言ってあげていたら、こんなに辛くはなかったろうと悲しんでばかりいました。
先生、悲しみって、なんと非生産的な感情でしょうね。このままだと、食欲もないままにわたしの体は亡びてしまうだろうと、そう思いましたもの」
「そうですか」
そんなに悲しんでいたのかと、竹山の声に深い同情がこもっていた。
「ええ、悲しみって命を亡ぼすほどのエネルギーなんですね。それに、気づいた時、わたしはハッとしましたの。
これだけのエネルギーを他に使えないものだろうかって」
「ほう、悲しみを力に変えようとしたわけですか」
「ええ。それに気づくと、神からいただいたエネルギーを浪費して、自分一人の悲しみに浸っているというのは、やはりわがままだと思いましたの。
わたし、学園で一生懸命働きたいと思いますわ。そして、子供たちに生きる希望と勇気を与えるような童話を、一生にただひとつでいいから書きたいと思います」』
(三浦綾子『ひつじが丘』より)
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