(こんなにまで、父母に迷惑をかけて、生きていってよいものだろうか)
わたしは心弱くもそう思った。だがそのわたしを、叱りつけるようにして励ましてくれたのは、前川正だった。
「綾ちゃん、生きるということは、ぼくたち人間の権利ではなくて、義務なのですよ。義務というのは、読んで字のとおり、ただしいつとめなのですよ。」
この言葉は、わたしをふるい起こした。
(そうか。生きるということは、義務だったのか。義務ならば、どんな苦しいことがあっても、まず生きなければならない)
こんなにまで経済的な負担をかけながら、生きるということは、何かずうずうしいことのように、わたしは思っていた。それが、人間としての義務だと言われると、何かしんとした謙遜な心持ちにさえなった。
(三浦綾子『道ありき』)
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