2015年10/5にNHK-BSの〈プレミアムステージ〉で再放送された劇団こまつ座公演『頭痛肩こり樋口一葉』を、ようやく観る事ができた。
井上ひさしの書き下ろし戯曲で、1984年のこまつ座旗揚げ公演でとり上げられたもの。
今回放送されたのは、2013年こまつ座第100回記念公演である。
こまつ座にとって大変大事な作品なのだという事が判る。
作 井上ひさし
演出 栗山民也
音楽 宇野誠一郎
美術 松井るみ
照明 服部基
出演
樋口夏子(一葉) 小泉今日子
母 多喜 三田和代
妹 邦子 深谷美歩
稲葉鑛(こう) 愛華みれ
中野八重 熊谷真実
幽霊 花蛍(はなぼたる) 若村麻由美
2013年7/31紀伊國屋サザンシアター公演ライヴ収録
物語の時間は、明治の女流作家樋口一葉の19歳から亡くなった24歳、その後更に2年間を加えて、8年程の年月である。
1シーンを除き、セットされているのは毎年の7/16、盂蘭盆会の日のみ。
場所は、転々と引っ越しを続けた樋口の貧しい家(殆どが借家)。
父や兄に先立たれ、一葉は仕方なく戸主となる。
明治の時代、女3人の暮らしは大変に困難である。女だからと、世の中はあれもダメこれもダメ、しきたりを振り回す。
小説はまだ売れず、文句1つ言わない妹の内職仕事でやっと過ごす日々。
お盆には、昔馴染みの人達が樋口家に集まり、愚痴を言い合う。
1年経つと、同じメンバーがまた集うが、皆次第に落ちぶれていくようだ。
ある盆の日、花蛍という幽霊が現れる。
花蛍は一葉にしか見えない。
身投げを考えた事もある一葉に、花蛍は親しみを感じているようなのだ。
一葉はそれ以来、「ただ墨を摺り筆を動かす為だけに身体をこの世に置いている」。
花蛍は毎年この日に現れるようになった。一葉もそれを待つ。
2人が心を通い合わせる様は大変にユーモラスだ。
一葉は、花蛍が成仏できるようにと、彼女が本来怨むべき相手を見つけ出す手助けさえする。
玉の輿から遊女に迄落ちた八重、夫の事業失敗と浮気に堪える鑛、落ちるところ迄落ちた人々が交わす会話はギスギスして最早救いがない。
あるお盆の日、2人幽霊が増えた。前年に刺し合って死んだ2人が、恨みっこナシの痛み分けと言って、仲よくここに集まったのだ。
花蛍はこの1年で怨むべき相手を見つけ出す事ができたろうか。
彼女が枕元に立って怨みを垂れると、人々は、それには深い訳があったのだと泣いて訴える由。
人の好い花蛍は、本当に討つべき相手を求め、次々人々の怨みを遡っていく。驚く事に、その言い訳は、遂に皇后に迄到達する。
その先は、もう言えない。
一葉が翌年、そして最後には母親が幽霊に加わる。
生前は世間に見得を張り、愚痴と悪口を言い通しだった母は、あっけらかんと笑って言う、「御霊っていうのは便利で重宝なもんですねえ。壁だろうが塀だろうが何だって通り抜けちまう。こんな事なら、もっと早々とあの世に来るんでしたよ」と。
自ら選択した変化でなかったにも関わらず、明治という時代は、女達にとってそんな時代だったのだろう。
幽霊5人は、1人残った一葉の妹 邦子の様子を見やる。
邦子は母の新盆を済ませ、また引っ越しだ。
怖ろしく大きくて重たそうな仏壇と、膨らんだ借金を背負って、邦子はそれでも、生来の明るい表情で歩いていく。
幽霊と同じように観客は手助けもできないが、応援する気持で邦子を見送るのである。
ログインしてコメントを確認・投稿する