Based on true story.
Beep Beep Beep
Beep Beep Beep
けたたましいほどの警告音。 そして、ワイフさんを取り囲む警備員たち。
閑散としたホールにこだまする《最終案内》のアナウンス。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1939862420&owner_id=8666179
(承前)
いよいよ、シンガポール最終回リアル。
3月15日22時30分。
SQ636、テイクオフまで10分
手荷物検査場はゲート3〜8までを受け付ける広大なスペース。
24時間オープンのハブ空港とはいえ、この時間の発着便は限られていて搭乗客も数少ない。
そんなホールに、空港警備員ディクソン氏のダミ声だけが聞こえてくる。
先に検査を終えてパスポートをディバッグにしまっていたら、ワイフさんが青ざめた顔で寄ってきた。

「何か引っかかっちゃったみたい。あの人が何か喋ってるんだけどちっとも理解できないの

」
どうしていいのかわからない、という不安いっぱいの顔つきで、彼女は自分のパスポートをあずけてきた。
おいらに向ける視線は“あとは任せた”
“OK!俺に任せろ”
25年培ってきた無言の会話が成立した。
ディクソンが私たち2人に寄ってくる。
ゲートを何ごともなく通過した三女ちゃんが、心配げにして遠巻きに見ている。

「この手荷物はご婦人のものかい?」
ワイフさんに向かってマレーシア訛りの英語で問いかける。
ボライタル柄のサマーバッグ。日本に帰れば季節外れも、ここならオンシーズン。
誰が見ても女性ものだ。

「いや、これは私のものだ

」

「OK!こっちに来てくれ

」
おいらだけが検査場所の空きスペースに誘導される。
おいらは彼女のパスポートをワイフさんに渡し、搭乗時間が迫っているから三女とともに搭乗ゲートに急ぐように、とアドバイス。

「あなたに伝えたいことが2つある

」
ディクソンはおいらにピースサインを向けた。
ピースサインなら我が国宰相・安倍ちゃんに向けてあげるべきだ。

「まず、この缶ビール

」
当たり前のことだが、缶ビール(それどころか、飲料そのものが)は機内持ち込み禁止である。
数分前のワイフさんのセリフを思い出した。

「このビールを飲んで寝るわ

」
これは飛行機の中で飲むぞ、という意味だったのか。

「あなた自身で、このトラッシュに捨てて欲しい

」

「absolutely,yes

」
買ったばかりのTIGER BEER。
プルタブにも触ることなく廃棄された。

「NEXT

」
白いナイロン袋から取り出される物体。

「これはお前のか?」
取り出された奇妙な物体。
小賢しい頭脳の記憶を、7時間ほど巻き戻してみる。
そういえば、セントーサ島のスタバで休んでいる時に、ワイフさんが三女ちゃん連れてスーベニアショップに出かけていた。
その時、三女ちゃんがこうつぶやいていたっけ。

「おかあさん、変なハサミ買ってたよ

」
ワイフさんらしいユニークな柄のハサミがコロンと出てきた。
その形状に思いがけず、笑顔になる。
ホテルでトランクをピックアップした時に詰め込まず、手荷物にしていたようだ。
ところが、ディクソン、突然怒り出して、

「笑い事ではない、これはシリアスなことだ

」

「尻明日?」

「そこはカタカナで聞け

」

「シリアスなのか!oh、ジーザス

」

「No、シザースだ

」
刃物を飛行機に持ち込むことは、テロ行為とみなされても仕方のないことだ。
ディクソンからはイエローカード並みの注意がなされ、事後処理の説明を告げられた。

「お土産のようだから、捨てたりはしない。羽田のバゲッジセンターで受け取れる書類を作るからしばらくここで待て

」

「もう最終案内がすぎてフライトの時間だ。そんなに待てない。ノロノロしたら、全部mixiに書いてやるぞ

」
どうせ、シンガポールとはお別れなので、逆ギレしてみた。

「mixi what?」
いけね、やっちまった
ディクソン、顔を真っ赤にして口から泡を吹きながら、憤怒の咆哮。

「俺に対してケツの穴と言いやがったな

」(★cf.SIN6 or SIN7)
ユニークな柄のハサミを持って振り回してきやがった。

「mixi what! mixi what!(訳:ケツの穴だと、ケツの穴だと…)」
近くの警備員仲間3人に抱えられ、興奮冷めやらぬディクソンが連れ出される。
そのスキに、おいらは搭乗ゲートへ走っていく
時計を見る。22時35分。あと5分。
搭乗ゲートの前に駆け込むと、ベンチシートに荷物を広げる日本人が2人。
ワイフさんと三女ちゃんだ。
顔面蒼白という四文字をカンバスに描くなら、この色しかないだろう、というほどの顔つきをしているワイフさん

「何が起きた

」
(つづく)
(つづき)

「おかあさんのパスポートがないって

」
この瞬間の正直な思いを記しておこう。
“明日の仕事はさぼっても大丈夫だったよな

”…これだった。
つまりは、このフライトに乗るのを諦めている自分がいた。いささか喜びながら。
カウンターからグランドホステスの潤子がやってきた。

「どうされましたか?」
日本人だ。日本語だ。潤子たん
動転しているワイフさんを制して、おいらが答える。

「ワイフさんのパスポートが見当たらないと

」

「手荷物検査を終えてますよね。でしたら、このホール内に必ずあるはずです。落ち着いて探しましょう

」

「フライトまで3分しかないんです

」

「ご安心ください。大丈夫ですから

」

「ありがとう。お礼といったらなんですけど、日本に帰ったら一緒に芝居でも観に行きましょう

」

「まず、荷物を確認しましょう

」
おいらも、記憶を辿っていて、パスポートは間違いなくワイフさんの元にあることを確信していた。とにかく、落ち着かせよう。

「おちけつ

」

「what?」
ゴルァ、なぜディクソンがここにいる。

「この証明書を持っていけば、さっきの可笑しなハサミは羽田で受け取れる。」

「お前は日本でも有名なケツの穴(mixer)なんだってな。テロリストを疑って、宿泊地にお前の言動を聞いてみた。フロントのアンソニー(SIN)が褒めていたよ

」
ディクソン…お前ってやつは
そして、アンソニー。だからシンガポールが好きなんだ。
ワイフさんは依然として顔面蒼白。
手に持っていたお土産用の袋も放り出して、手荷物検査場へ1人で走っていく
広いホールだ。ゲートから検査場まで100mはある。

「あった

」
なんのことはない。
三女ちゃんが、いま放り出したばかりのお土産用の袋からパスポートを探し出した。
ここ数十分、意外と三女ちゃんが頼もしい。
グランドホステス潤子とおいらの目と目があって苦笑い。
ここは人払いをしてから、携帯番号を聞いて、日本に帰ったら食事でもしようと告げなければならない。

「ほら、お母さん追いかけて、“あったよ”と伝えてきな

」
頼りになる三女ちゃんである。
さて、思惑通り2人だけになった。
異国、深夜の空港に男女が2人、魅惑的な情景
ベンチシートに投げ出された化粧品やパンフレットやチョコレートをしまってくれている潤子。

「ありがとう。このお礼に日本に帰ったら食…」

「さぁ、フライトの時間が迫ってますよ。皆さんのチケットを出してくださいね

」
Ah、潤子。
いろんな言葉で君に愛を告げてきたけれども、終わりさ、みんな終わりさ、ぼくのひとりよがり。
君へ繋いだ心の糸は、いまプツリと切れた。
(長渕剛『順子』より JASRAC:184184)
ワイフさんと、三女ちゃんが笑顔で戻ってくる。

「あったんだって?」

「そのお土産袋にね

」

「そうか、お父さんからもらってそこに投げ込んでおいたのね」

「見つかってよかったよ

」

「わっはっは」

「わっはっは」
バカ夫婦。
潤子の冷たい視線を浴びながら、SQ636に乗り込んだ。
多くの座席は埋まっており、最終搭乗者の3人になってしまったようだ。
彼らからの視線は“あの家族、 旅慣れているのね。余裕で乗り込んできてるわ”
そんなものだ。
ワイフさんがシートに腰掛けて話を続けてきた。

「ステキな旅行だったわね。さて、TIGER BEER飲もうかな

」

「あれ、捨てちゃったよ

」

「あら、どして

」
フライト時間6時間のうち、最初の30分をかけて、飛行機のルールについてワイフさんへレクチャーした。

「ハサミ、ダメなんだ。可愛いのに

」
飛行機は真夜中の赤道に翼を向けて、いま水平飛行に入った。
キャビンアテンダントを呼んでシンガポール・スリングをオーダーする。
甘いアルコールに浸りながら仮眠を取ろう。
ハードな5日間だったけど、思い出に残る楽しい旅だった。
次はどこへ行こう
(了)
帰国してから聞いたことだが、三女ちゃんがワイフさんに訊ねたという。

「おとうって、いつもあんなにアクティブなの

」

「2人で出かけるときは、あの100倍はアクティブよ。あんたがいたから少しセーブしてたみたい

」

「

」

中国版『ターミナル』!? 搭乗便に乗り遅れた男性が、台湾空港内で3日間自炊生活
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=53&from=diary&id=3320397
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