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2026年07月08日13:00

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土屋うさぎ著 『謎の香りはパン屋から』

土屋うさぎ著『謎の香りはパン屋から』を読む。
土屋うさぎ(1998- )は本作で小説家デビューし、2025年の宝島社「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した。
それ以前は漫画家だったと奥付には書いてある。「だった」は不正確で、できたら二刀流で頑張りたいというのが本音か?

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ミステリーとは言っても、殺人などの大事件は起きない。
主人公は大学1年生の市倉小春、親友に紹介され、大阪府豊中市のパン屋「ノスティモ」でアルバイトを始めたばかり。
パン屋のアルバイトで最大の魅力は、売れ残りや失敗作、試作品を貰って帰る事ができる点だ。
ノスティモ及び客との様々な人間関係、いろんなパンの作り方や味・匂い、専門用語の数々、その他日常的に起こるささやかな謎や問題について、1アルバイトの市倉小春が首をひねり、探索し、解決に辿り着く連続5話。
小春は、作者同様本当は漫画家になりたいという夢を持っているが、そちらの方は、あれこれ応募しても落選続きで前進しない。しかし、漫画家的な素養や構造的なものの見方は、探偵と迄は言わないが、出来事の解決に役に立つようだ。

5つの章は全部パンに関係するタイトルとなっていて、匂いや味がページの隅々に漂っている。警察が関係する話は小さなひったくり事件が1件起きるだけ。

 第1章「焦げたクロワッサン」
 第2章「夢見るフランスパン」
 第3章「恋するシナモンロール」
 第4章「さよならチョココロネ」
 第5章「思い出のカレーパン」

第1章では、ノスティモのアルバイトを紹介してくれた親友が推す俳優のライブビューイングを一緒に観に行く筈だったが、ドタキャンされてしまう。親友が謝って言うその理由には、何か不自然なところがあって、小春はつい推理を働かせる事になる。
2人の仲は裂かれてしまうのだろうかと心配するが、物語は意外な進展をみせる。

第2章では、アルバイトの先輩がシフトを間違えて欠勤となった。
ノスティモはパティスリー部門を併設していて、そちらでアルバイトをしている女性がヘルプしてくれる事となった。彼女は小春の大学の上級生だった。
パティスリー部門にいるのに、彼女はフランスパンの成型を見事に進めていくので、小春は驚く。
ところがクープ(切れ込み)を入れる作業になると急に表情が変わり、奇妙なクープのフランスパンが次々できてしまう。
一体その訳は?
彼女はフランスパンのクレープを入れる事ができるようになるのだろうか?

第3章では、女子高校生が、中年のおばさんと店頭に並ぶシナモンロールの最後の1個を取り合うシーンからスタート。
彼女は同じ高校の野球部の男子生徒と店のカフェスペースで談笑を始める。
彼はキャッチャーで、地域では店長も知る人気者らしい。ピッチャーの方は来ていないが、彼はエースで、その働きによっては甲子園出場も夢ではない。
キャッチャー君が席を外している時、彼女はコーヒーを彼のバッグに溢してしまう。そのバッグには、野球部マネージャーの女子が手作りしてくれたお守りも付いていて、それもびしょびしょに濡れてしまう。小春はバッグとお守りにシミが残らないよう手助けする。
怒るキャッチャー君。彼女はトイレに駆け込み、泣いて出てこない。
これにはマネージャー女子が仕組んだ意外な真実が絡んでいた。

第4章では、チョココロネが大好きな小学生の娘が母親とやってくる。彼女はチョココロネを必ず尻尾の細くとんがった方から食べる。ここでそれ買って食べる事が、習っているバレエを続けるモチベーションになっているらしい。
ところが、店長は売り上げの低迷からチョココロネ作りをやめる決心をしていた。
アルバイトの先輩は女の子の心配をし、生産継続を申し入れようと意気込む。
ある日、母親と小学生がバレエに出かけた途中、バイクに乗ったひったくりに遇い、何故か母親のでなく子供の財布が奪われた。
小学生は翌日ノスティモに現れ、犯人の似顔絵を渡し、捕まえる協力をしてくれと頼みこんでくる。
彼女が言う犯人像のある特徴に、小春は不自然さを感じた。
そして、ノスティモのチョココロネの命運は?

第5章、ノスティモに老婦人がやってくる。彼女は夫を亡くし、生前の彼がよく買ってきてくれたカレーパンの販売店を探しているのだと言う。だがノスティモのカレーパンはそれとは違う。
アルバイトの先輩は、私達が探してあげますよと軽請け負いし、カレーパンの特徴を訊いた。
だがこの捜索は意外に大変だった。
何とか候補店を絞り出し、夏の暑い日、小春ら3人は豊中市内を歩く。
その1人、ノスティモの女性社員は、密かに結婚と退職を考えていて、しかし、周囲に言い出せずにいた。
カレーパンの候補店は見つかったものの、その店は数年前に閉店していた。がっかりする3人だが、そのカレーパン作りの技術を引き継いでいる人がいる可能性が見えてきた。
この輻輳した点と線はつながるだろうか?
あの老婦人を喜ばせる事ができるだろうか?
そして、女性社員の結婚問題は?

楽しく、いい匂いのするミステリーだ。

単行本化するに際し、「このミステリーがすごい!」大賞応募作を加筆修正。

 執筆 土屋うさぎ
 装画 出水ぽすか
 扉絵 土屋うさぎ
 発行 2025.1.24、宝島社
 
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